わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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(元)王子様も相変わらずである

 仕事ではあるものの急ぎではないので、移動は途中の街や村に泊まりながらのややゆっくりしたものになった。

 都からそう離れていなくても街や村独特の料理があったりしてなかなかに興味深い。

 せっかくなのでメモを取っておく。イリスも似たようなことをしていた。

 

「それにしても、あんたたちとまた行動することになるとはねえ」

「お頭さんはイリス様の用心棒になったんですね」

「もうお頭じゃないっての。……それと、お姫様の、じゃなくて商会の用心棒さ」

 

 レイユの街出身で、女だてらに野盗をやっていた腕っぷしの強い女。

 再会した彼女はシルヴィアたちの顔を見て苦笑していた。

 

「優秀な人材は有効活用しなくては。……最近も後宮からメイドが離れましたし」

 

 しれっとした顔で「よろしければ斡旋いたしましょうか?」とか聞いてくるイリスだけれど、

 

「その方は他に良い再雇用先があるのでは?」

「そうですね。いいご縁が見つかるかもしれませんし、もう少し様子をみましょうか」

 

 もちろん、このメイドというのはステファニー付きだった者だ。

 王女の急激な病状悪化、死亡の責任を求められ、減給。罪の意識を感じた彼女は自ら職を辞した、という筋書きだけれど、もちろん本当のところは「再びステファニーに仕えるため」の辞職。

 イリスがそれを雇い入れたのは事情を察してカムフラージュに協力したのだろう。

 ……関係者がこれだけ集まっていたら公爵領が怪しいのはわかってしまいそうな気もするけれど。

 闇に葬られる、というのは「話してはいけないと暗黙の了解ができる」ということでもあるのだろう。死んだことになって表舞台から去ったのだから、それをわざわざ暴き立てるにはそれなりの覚悟がいる。

 

 

 

 

 

 そんなこんなでクロヴィスの治める街に到着。

 

「あの王子様にしてはこじんまりした街だね?」

 

 公爵の屋敷は街の中央にでん、と置かれている。

 屋敷はさすがにそれなりの大きさだけれど、街の建物は質実剛健といった感じで恋多き男のイメージとは異なっている。

 

「この街は採石が盛んらしいからね」

「採石? また石拾いしてる街なの?」

「拾うのではなく割って取り出すんです、クレールさん。この辺りは石材が多くとれるのだとか」

 

 イザベルの説明にクレールは「?」と首を傾げて、

 

「鉱山って感じじゃなくない?」

「あちこちに石地が露出してるらしいよ。そこに行って採石するんだって」

「へー」

 

 集められた石は建材にされたり彫像などに使われる。

 

「イリス様。この石材じゃ特産としては弱いってことなんでしょうか?」

「そうですね。トロールの被害と討伐費用のせいで収入としては今一つ足りていないようです」

 

 公爵邸の敷地内に馬車を停め、使用人の案内で公爵──クロヴィスに面会する。

 

「ようこそいらっしゃいました、スザンナ王妃殿下。よく来たな、シルヴィア・トー。……それから、何をしに来たイリス」

「ご挨拶ですねお兄様。シルヴィア様の提案を私が実現可能な形に調整します。後でごめんなさいと頭を下げても許してあげませんから」

「ふん。そもそも、その娘にそれほど期待しているわけではない」

 

 鼻で笑うクロヴィス。

 相変わらずの俺様ぶりだけれど、身なりは少し落ち着いたように見える。公爵に就任して約一年。苦労から大人になったのか、単に節約しているのか。

 

「さて、俺の娘を紹介しておくか」

「む、娘ぇ!?」

 

 大きな声で反応したクレールがみんなからの視線を受けて「こほん」と咳払い。

 シルヴィアとも顔見知りであるクロヴィス付きのメイド──その正体は女性にしか見えない男性──が一人の少女を連れてくる。

 暗い色の髪と瞳を持った幼いその子は、シルヴィアたちを見て一瞬目を輝かせた後、ちょこんとスカートの裾をつまんだ。

 

「ファン、と申します。初めまして」

「うわ。可愛い子。……王子様、こんな可愛い子供がいたんだ」

「クレール・エルミートだったか。俺はもう王子じゃない。それに俺だってこんなことになったのは不本意なのだ」

「ある日、『あなたの子です』という手紙と共にファン様が送られてまいりまして」

 

 クロヴィスは渋々その子を育てることにした。

 

「殿下──いえ、クロヴィス様。幼い頃から女性が大好きだったのですね」

「まあ、否定はしないが」

 

 しろよ。

 

「……あはは」

 

 まあ、当の少女が困った顔ながら笑っているので冷遇はされていないのだろう。

 

「積もる話もある。ひとまず部屋に来い」

 

 荷物は公爵邸の使用人に運んでもらい、シルヴィアたちはクロヴィスの私室へ。

 室内にはシルヴィアたちと、以前からクロヴィスについていた側近だけになって。

 

「よし。いいぞ、ステファニー」

「! お母様! シルヴィア!」

「ああ、ステフ、会いたかった……!」

 

 ファンと名乗っていた少女がスザンナと抱きしめ合う。

 ほっとしているとクレールに脇をつんつんされて、

 

「ね、シルヴィア? これってどういうこと? ステファニー様って、あのステファニー様?」

「あはは。うん、そうだよ」

「ステファニー様はスザンナ様とクロヴィス様の子供だったってこと!?」

「そっちですか? そっちなんですかクレールさん」

 

 その発想はなかった。

 

 

 

 

 

「……要するに、ステファニーの病死は嘘だったわけだ。こいつを預かった俺は自分の子供ということにした」

「姿は魔道具で変えているんですか?」

「うん! お父様からのプレゼントなの!」

 

 ファン──ステファニーがチョーカーとして使っている魔道具が髪の色と瞳の色を変え、さらに顔の作りも微妙に変化させて別人に見えるようにしているらしい。

 チョーカーはある程度サイズが変えられるようなので、毎日同じアクセサリーだと怪しまれるようならブレスレットやアンクレットにもできる。

 

「お元気そうでなによりです、ステファニー様」

「ありがとう。シルヴィアも来てくれて嬉しい。……あ、でも、他に人がいる時は『ファン』て呼ばないとだめだよ?」

「ふふっ。はい、心得ております」

 

 クレールとイザベルも神聖魔法による口止めをすんなり了承。

 これでまた一つ肩の荷が下りた。

 

「うーん。シルヴィアっていいお母さんになりそうだなあ。小さい子といると楽しそう」

「クレールこそ誰とでも仲良くなれるくせに」

 

 むう、と視線を向けると、六年間一緒の部屋で育ってきたパートナーは瞬きをして、

 

「あたし、ステファニー様と一緒に遊んでもいいの?」

「一緒に遊んでくれるの?」

「うん、わたしの護衛をしながらだったらいいんじゃない?」

 

 頷いて答えればステファニーは「やったあ」と笑って、

 

「あ、でも、私のことは『ファン』だからね?」

「あはは。大丈夫ですよ。あたしだってそれくらい──」

「クレールさんは本当に気をつけてください」

「そうだよクレール」

「二人まであたしを信用してないんだ!?」

 

 室内に明るい笑い声が満ちた。

 うん、小さい子が笑っている光景は本当に良い。ステファニーがこうして無事で良かった。

 もちろん、思うところはいろいろあるだろうけど、これならなんとかやっていけるだろう。

 

「ファンは俺の非公式の娘ということになっている」

「公爵家の跡継ぎにはなさらないということですか?」

「それはそうだろう。どこの女の子かわからないんだぞ? 本当は俺の子でない可能性だってある」

 

 もちろん本当にクロヴィスの子供ではないのだけれど、建前上の話である。

 

「まあ、そのうち必要になれば正式に養子縁組をする。家を継ぐのは正妻の子が優先、その次が愛人の子になるだろう」

「愛人といえば、カトレア様はどうなさるのですか?」

「頭の痛くなるような事を言うな。……一年後、卒業したらこちらに呼ぶことになっている。とはいえあれは歌姫になるのだから、この屋敷はあくまで活動拠点だろうがな」

 

 ステファニーとはうまくやってもらうしかない感じか。

 まあ、あのカトレアも恋敵でない相手は邪険にしないはずだし、むしろクロヴィスの好感度を稼ぐチャンスと仲良くしてくれるかもしれない。

 彼女が来るまでの一年でステファニーにも教育を施しておけばそんなに問題はなさそうだ。

 

「さて。……それで、お前達はどれくらい滞在するんだ? もう用は済んだのだから、スザンナ様を残して帰ってくれてもいいんだが」

「お兄様。ご自身で仰られたのでしょう? 領地を盛り上げるなにかが欲しいと」

「確かに言った。言ったが、父上が大げさに取り過ぎだ。こんな小娘に頼ったとあっては俺の面子も丸潰れだろうが」

 

 けれど、シルヴィアたちが役に立つ時がさっそくその日のうちにやってきた。

 それはみんなで夕食をとり、食後のお茶を楽しんでいた時のこと。

 部下の一人が慌てて食堂へ駆け込んできて、

 

「公爵様! また採石場にトロールが出現しました!」

「ええい、またか!」

 

 ちょっとした緊急事態が告げられたのだ。

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