わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「大丈夫? 怪我してない? 今日はもう休んだほうがいいんじゃない?」
「大丈夫だってば。攻撃は一発も喰らってないんだし」
採石場から公爵邸に戻ってきた。
シルヴィアとスザンナ、イリスにはそれぞれ客間が割り当てられている。各部屋には使用人部屋もついているのでゼリエやスリスはそこで寝泊まりできる。
本当ならクレールたちも騎士として一室を宛てがわれるのだけれど、クレールはシルヴィアの余っている使用人部屋を希望した。
護衛として来ているのだからそのほうが守りやすい、という主張だ。
別に一人で二十四時間守るわけじゃない。そのために兵士も連れてきているのだし、公爵邸にも兵力があるのだけれど。
ともあれそんなわけで、さらに女同士ということも手伝って、夜中に一緒にいても特に咎められることはない。
軽く着替えなどを済ませた後、シルヴィアたちは部屋で話をしていた。
その場にはイザベルの他、今回の功労者もいる。
「ところでアンのその武器ってどうなってるの?」
シルヴィアの心配を明るく吹き飛ばした少女はアンの抱える例の魔道具に水を向ける。
「はい。これは、リゼット様とシルヴィア様からいただいた特別な品でして……」
「魔法のイメージ構築が苦手なアン用に作った魔道具なの」
アンは「どういう結果を齎したいか」のイメージは得意な反面、「その結果を導くのにどうしたらいいか」のイメージが上手くできない。
それを補うために魔道具を利用することを思いついたのだけれど、もちろん普通の魔道具は単一、あるいはごく少数の効果しか発動できない。
そこで、
「用いているのは
「さすがイズ。その通りだよ」
ルーンとはその名の通り、魔法を使うための文字だ。
炎や氷、雷など単純な要素を意匠化、ある種の文字に昇華させたもの。
「昔の魔法使いが統一的な文字を広めることによって魔法行使の補助にした……んですよね?」
「? どういうこと?」
「このルーンはこういう効果、って決まってればイメージが楽になるでしょ?」
使う時に描いてもいいし魔道具に刻んでおいてもいいのだけれど、例えば「炎」「珠」「飛ばす」のルーンを組み合わせた文字なら火球が飛んでいく様をイメージしやすい。
まあ、イメージするためにはルーンを読み解く能力がないといけないのだけれど。
「決められた選択肢の中からルーンを選ぶだけで欲しい効果を導けるように、いろんなルーンを手早く作れる魔道具を作ったの」
「へー。じゃあ、それがあればアンでも魔法が上手く使えるんだ?」
「はい!」
魔法使いギルドにいた頃は自分に自信を持てていなかった彼女が誇らしげに答える。
「これはすごい魔道具です。小さな場所に複数のルーンを彫り込む技術もそうですが、籠められた魔力も、この回転する機構もとても手がこんでいます」
設計のヒントはダイヤル錠もそうだけれど、その他にパズルゲームもある。
パズルの基本は絵合わせ、色合わせ。
それを応用すれば考えるより先に手が動くようになるのではないかと思った。要するに「完全自由」から「ある程度制限のある状況」にすることで悩む余地を減らしたのだ。
「ああ、本当、売るとしたらいったいいくらになるか……」
「売らないでね。わたしとリゼット様が苦労して作ったんだから」
「もちろんです。これは死んでも手放しません!」
笑顔で抱きしめるアンを見て、クレールが「いいなあ」と唇を尖らせた。
「あたしもシルヴィアに剣を作って欲しいなー」
「うーん。それはわたしも作ってあげられたらいいけど……」
クレールの剣はトロールとの戦いで壊れてしまった。
そこそこ良い剣とはいえあくまでもそこそこだし、新しいのを買えばいい。それくらい騎士団の予算から出せるし、並の剣でよければ予備も持ってきているけれど、ティーアとの戦いで実感した通りこのままだと力不足だ。
できればもっとクレールに合った剣があれば。
「でも、アンの魔道具だってわたしはアイデア出しただけだし。そもそも魔剣は剣自体の質も重要でしょ?」
「そうなんだよねえ……」
魔法部分はリゼットでもある程度なんとかなるけれど、肝心の剣は職人に造ってもらわないと。
「やっぱりエリザベートから良い職人さん紹介してもらおうかなあ」
「もしくはイズの時みたいに掘り出し物を探すかだよね」
「でも、弓はともかく剣となるとたぶん、かなり値が張りますよ?」
「そうなんだよ!」
ここぞとばかりに勢いよく言うクレール。
「あたしも騎士団長──前騎士団長みたいな剣ほしいなって思って調べたんだけどさ。あれ造ろうとしたら死ぬほど高いんだよ!」
「ああ。あれは位の高い家が家宝にするレベルの剣ですよね」
さすが、魔法関連の知識は豊富らしいアンが即答。
「極上の剣に極上の付与が施された一品。不朽と言っても過言ではない耐久性と軽さ、切れ味、扱いやすさを兼ね備えた超一級品です」
「そう! あの剣ならトロール相手でもすぱすぱ斬れそうなのに!」
まあ、さすがにそこまで強力な剣は手に入らないとしても、クレールの怪力に耐えられる武器は欲しいところだ。
硬く丈夫にするだけなら魔法付与である程度はなんとかなるけれど、
「アン。剣に付与する魔法にも素材によって限界があるのよね?」
「はい。素材によって付与できる魔力は変わります。親和性の高い素材を用いるほど良い魔剣になりますね。……もちろん、値も張りますが」
後は剣自体を丈夫に作るという方法がある。
「クレール。とりあえず、もう少し大きい剣を使ってみたらどう? バスタードソードとかグレートソードとか」
「あー。それはアリかなあ。重いほうが力を乗せやすいもんね」
「クレールさん。ハンマーや斧に転向するのは駄目なんですか?」
「それはやだ。格好悪いもん」
その場にはいなかったものの、後にこの話を聞いたハンマー使い──マルグリットは当然のように「はあ?」と声を荒げた。
とはいえクレールのスタイルは俊敏さを併せ持ったものなので、重ければ重いほどいいわけでもない。あくまでもパワーに耐えられる剣ということでとりあえずの候補だ。
「ちゃんとしたのを造るなら質の良い素材と、腕の良い職人さんは絶対必要だね」
「あたしのお小遣いじゃぜんぜん足りないよ。早くお給料が欲しい!」
「騎士団の給料があってもそう簡単には届かないよ……」
国王から感謝されるレベルの功績を何度か挙げているのでシルヴィアたちは並の貴族令嬢よりはずっとお金を持っている。
とはいえ、さすがにほいほい極上の剣を作れるほどではない。
有名になって重要な地位を任されるようになった分、衣装などもそれなりのものを要求されるようになり、そっちにもお金が必要だし。
「うーん……公爵領の問題を解決してクロヴィス様からご褒美をもらうとか?」
「それだ!」
「それですか? 本当にそんなことができるんでしょうか?」
「トロール自体は勝てない相手じゃないんだし、なにかできそうな気はするよ」
安全に採石できるようにするか、トロールを出ないようにするか。もっと良質な石を見つけるとか。
「そもそもトロールはどうしてこの領内に出るのかな?」
「領内に魔力の溜まりやすい場所があるからでしょう」
と、アンの回答。
「シルヴィア様。この公爵領は以前から採石を盛んに行ってきました。にも関わらず石が尽きていないのはなぜかおわかりですか?」
「ええ、まあ。大地の魔力によって石が湧いてくるからでしょう?」
前世の記憶のあるシルヴィアにはいろいろと信じがたい話ではあるのだけれど。
魚のウロコがぽろぽろ剥がれて湖の底に溜まり魔石になるように、この世界では場所によって石がぽこぽこ生えたりもするのだ。