わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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地域興し作戦 2

「なんかちょっとわくわくするね」

 

 トロール出現の報が再び届けられたのは三日後の夜のことだった。

 前回同様、イリスやクロヴィス、スザンナたちには屋敷で大人しくしていてもらい、シルヴィアたちと兵だけで急行。

 魔物は性懲りもなく採石場で岩をむしゃむしゃと食べていた。

 

「もう、クレール。下手したら被害者も出るんだからそういうこと言ったらだめだよ」

「ごめんごめん。なんかわくわくしちゃって」

 

 そう言う少女騎士(正確には騎士見習い)の手には両手剣が握られている。前の剣よりも見るからに大型で、そのぶん頑丈。

 公爵邸の武器庫に収められていたものを「使い手が限られるから」と譲り受けたものだ。

 

「まあ、気持ちはわかるわ。新しい武器って考えただけで楽しいものね」

 

 笑ったのはマルグリット。彼女は兵の一人にハンマーを運ばせ、代わりに別のものを担いでいる。

 どすん、と下ろされたのは大きな木箱だ。

 中にはこの数日で調達した鉱石が入っている。精錬すればそこそこ丈夫な金属になる代物。

 

「で、シルヴィア? これをあいつに食べさせればいいのよね?」

「はい。どうやって食べさせるかが問題ですが……」

「近づかずに済ませるにはやっぱり投げるのが一番じゃないかしら」

 

 木箱の中身をひとつ、ひょいっと掴んで構えるマルグリット。

 それを見たクレールが「手伝います」と同じようにする。

 

「うん。誰にでも投げられれば苦労しないっていうか……」

「シルヴィアさん。いつものことですから……」

 

 イザベルと二人で遠い目をしてしまった。持ち上げるくらいならまだしも、遠くに投げるなんて腕自慢の成人男性でもそうそうできない。

 ただ、そのおかげで安全にトロールの傍へ鉱石が届けられる。

 大きな音を立てて落ちてきたそれを魔物はじっと見つめ、続けて周りを見渡して──。

 

「こっちに来るかな?」

「一応警戒はしておいてね?」

「わかってる」

 

 幸い、新しいご飯を食べるほうを優先してくれた。

 硬い鉱石ががりがり削られ、がきっと割られて飲み込まれていく。あんなの消化できるのか。

 

「これ、ものすごく勿体ない光景ですよね」

「鉄も鉱山から生えるんだろうけど、失敗したら出費になるのは変わらないものね……」

 

 今回は食べさせるのが目的なので仕方ない。

 鉱石がなくなってきたら近くに投げておかわりを渡し、用意した分がなくなるまで繰り返して。

 満足そうに息を吐いたトロールは再び採石場の石に向けて──。

 

「まだ食べるんだ!?」

「これ以上見守っている必要はないね。クレール、マルグリット様、お願いします」

「おっけー」

「殺してしまわない程度に痛めつければいいのよね」

 

 グレートソードとハンマー、二人の得物が巨人を強襲。

 食べ過ぎか、今回のトロールは前の個体よりも動きが鈍かった。二人で連携したこともあって危なげなく弱らせ、ふらふらの状態にすることに成功。

 

「では、兵士のみなさん。トロールを拘束してください」

 

 手持ち無沙汰だったイザベルが兵たちに指示。

 騎士の中だと下っ端扱いの彼女もきちんとした作戦においては指揮官役を務める人間。

 兵士たちも大人しくそれに応じ、鎖や網を協力して投げかけ始めた。

 もちろん魔物は暴れるも、クレールたちが適度に殴ってそれを抑える。

 しばらくすると、がっちがちに拘束されて動けない生きたトロールの出来上がりだ。

 

「お疲れ様、クレール。マルグリット様もありがとうございます。これで後は待つだけです」

「でも、それもちょっと大変だよね」

「そうだね。朝まで待たないとだから」

 

 わざわざ朝を待つ理由──それはトロールが日光に弱いからだ。

 突然暴れ出したりしないように注意しながら見守ることしばらく。日が昇って辺りが明るくなり始めると、魔物に変化。

 今までとは明らかに違う苦しみ方をし始めたのだ。

 陽光が強くなるほど、日にさらされる時間が長くなるほど苦しみ方は大きくなり、やがてその身体が末端から()()()()()()()()

 トロールは昼間長時間活動すると身体が石になってしまうのだ。

 だから野生のトロールは洞穴などに住んだり岩陰に身を潜めたり、穴を掘って隠れることが多い。今回の彼もほうっておけば近くの森を目指すか近くの家を奪うかしたはずだ。

 ただ、拘束された状態ではそれは敵わない。

 今更もがいてもどうにかなるはずがなく、その巨体はすべて石像と化した。

 

 念のためにしばらくそのまま様子を見て、

 

「大丈夫そうかな?」

「……はい。もう大丈夫かと」

 

 生命感知の魔法を使ったアンの太鼓判で兵たちが拘束を解いていく。

 

「さ。問題はこの石像の質だよね」

「トロールの石像は生前の食生活によって性質が変わるか……。興味深い題材です」

 

 ぴくりとも動かなくなった石像をクレールやマルグリットがこんこんと叩いて。

 

「んー。石って感じ。武器に使えそうな感じはしないかなあ」

「そうね。調度品としてはこのまま飾るのも一興でしょうけど」

 

 食べられた石の量を考えると特に利益にもならなさそうだ。

 

「中も同じでしょうか?」

「ん、じゃあ割ってみよっか?」

「待ってクレール。そこは一応慎重にやっておこう?」

 

 肩関節など要所にくさびを打ち込み、亀裂を入れながら丁寧に割っていく。このあたりは採石の作業員に手伝ってもらった。

 そうして胴体もいくつかのブロックに分けて中を確認すれば──。

 

「お?」

「わ」

 

 ちょうど内臓のあたりに色の異なる塊を発見。

 硬度も異なるのか、周りを割っていくと綺麗な形で取り出せた。

 サイズは成人男性二人で抱えきれるかどうかくらい。

 こんこんと叩くと硬い音がする。

 

「これは明らかに金属系ね」

「少なくとも鉱石を食べたら残るっぽいね。量的にはちょっと減ったかな?」

 

 公爵邸に持ち帰ってクロヴィスに報告、専門家に見てもらったところ、用意した鉱石よりも純度が高くなっていることがわかった。

 

「おそらく金属成分だけが集められたのでしょう。ただ、取り出す工程を完全に省けるほどの純度ではありませんな」

「ふむ。消化にかける時間が足りなかったか? もう少し試してみる価値はありそうだな」

「捕まえたトロールを一日寝かせるつもりですか? さすがに危険では」

「十分に痛めつけて監視をつければ良かろう。むしろお前達が滞在している間でなければ試せない方法だ」

 

 マルグリットやクレールが定期的に監視につくということで、それから四日後──再び現れたトロールで実験が行われた。

 餌はトロールの体内から取れた鉱石+新たに用意した鉱石。

 注意しながら一晩+丸一日殺さずに生かしてから日光にさらして石に。

 

『まったくもう。人間って魔物に対する愛が足りないわよね。こんなに可愛いのに』

 

 魔族ティーアのぼやきはともかく。

 二度目の実験を経て獲得された鉱石はさらに高純度、鑑定によると良質な武器素材として使える代物だということがわかった。

 

「やはり食べさせる量と消化期間によって純度が変わるようだな」

「あまりやりすぎると消化されきってただの石になるかもしれませんけれど……」

「それを調べるのも面白いではないか。せっかくだ。他の場所に出たトロールも捕まえてくるとしよう」

 

 (元)王子様がノリノリである。

 領内でトロールが出やすい場所は一箇所ではないらしく、そちらは兵たちが協力して倒す体制が出来上がっている。

 彼らに命じて(無理を言って)足止めに専念させ、クレールたちが到着次第捕獲する。

 

「あの、クロヴィス様? クレールたちはわたしたちの護衛で来ているのですが」

「わかっている。謝礼は弾んでやるから少し貸してくれ」

「……約束ですからね? 忘れないでくださいね?」

 

 こう見えて約束は守る男、クロヴィス。

 彼からの報酬としてシルヴィアたちはある程度の現金に加えて剣を二、三本作るのに十分な最上質の鉱石を受け取ることになった。

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