わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「よくやった、シルヴィア・トー。これはなかなかの収穫ではないか?」
「いえ、恐れながら労力が成果に見合っていないかと……」
凄腕が矢面に立って危険を犯し、他の者もかなり過酷な労働を行ってようやく鉱石の精製が行えるだけ。
新発見──と言えるかどうかさえ怪しい。
あらためて魔法使いギルドの書庫を漁ったら大昔の記述がでてきそうな案件だ。
「トロール牧場を作れ、とまでは申し上げませんが、常備戦力だけで安全に捕獲できなければ産業としては成り立たないでしょう」
「牧場、捕獲か。……トロールは暴れるだろうな?」
「暴れます。暴れました。クレールとマルグリット様がどれだけ頑張ったか、報告を受けておりませんか?」
「わかったわかった。礼は弾む」
というわけで、もらったのが現金+武器の素材である。
これに目を輝かせたのはクレールだ。
「お願い、シルヴィア! この鉱石ちょうだい!」
いつになく真剣に頭を下げてシルヴィアにそう告げてきた。
「もちろんお金は払うから! 足りない分は分割で払う! だめ?」
「わたしはもちろんいいけど。……っていうか、別にわたしの物じゃないし」
「いえ。鉱石に関してはシルヴィア様の所有物と考えてよいと思います」
口を挟んできたのはイリスだ。
「大元の提案を行ったのはシルヴィア様なのでしょう? であれば、それに関する報酬が必要のはず。騎士団員個々への報酬は現金で支払われたと考え、それ以外を宛てるのが妥当ではないでしょうか」
「さすがにそれはわたしが取りすぎですよ。それに、ここへは騎士団の任務として来ておりますので」
「であれば、『騎士団全体』への報酬と『遠征参加者』への報酬を計算した上で、鉱石を買い取る場合の差額をエルミート伯爵令嬢にお支払いいただくのが良いのではありませんか?」
「そうですね。お金の問題はちゃんとしておかないと、友達付き合いが崩れたりしますから」
イリスの提案した決め方ならエリザベートやリゼットも特に異論は唱えないはずだ。
「よかったね、クレール。これで剣を作る費用、少しは安くなるんじゃない?」
「うん! 材料持ち込みならだいぶ安く作れるよね!」
実際の分配は帰ってからになるけれど、腕のいい職人を探すにも都のほうが好都合なので特に問題はない。
「先にエリザベート宛で手紙だけ送っておこうか」
「あ、それいい!」
トロールを倒せなかった件で沈んでいた少女が元気になってくれてよかった。
ほっとしたシルヴィアは「でも」と首を傾げて、
「これじゃ公爵領を盛り上げたことにはならないだろうなあ」
「そうですね。……さすがに兵の皆さまに負担がかかりすぎです」
「都から一緒に来てもらった人たちも動員されていますし……」
もう少しこう、現場の人間に優しい手段が欲しい。
「イリス様はなにか思いつきませんか?」
「そうですね……。新しい産業を作るのではなく、石の価値を上げるという手はあるかもしれません」
「というと?」
「陛下に街道の整備を提案するのです。主要な道を石畳に変えれば馬車による輸送効率も大きく向上することでしょう」
「なるほど」
石がたくさん必要になれば買ってもらえる量も増えるというわけか。
「そうするとトロールを抑え込む手段も必要ですね」
「シルヴィア様、なにか思いつきませんか?」
「ええと……。オークを討伐した際に用いた方法論が使えるかもしれません。採石場一帯を聖なる象徴で区切ることで浄化の効率を上げるのです」
鳥居四つでぐるっと囲む感じを想像しながら告げるとイリスは「悪くありませんね」と頷いた。
「試験的な運用ということで神殿にも報告を上げれば双方助かるのではありませんか? うまくすれば他の地域でも応用できるかもしれません」
「他の地域でも始まってしまうとこの領地の優位性が下がりそうですけれど」
「あら、シルヴィア様。競争とはえてしてそういうものですよ? 下町の露天と同じです」
後続に真似されるのを前提として新たな策を模索していかなければならない、と告げるイリスを見て、シルヴィアは「ははあ」と思った。
経営SLGなんかでも平凡なプレイしかできなかったのはこういう「先見の明」が足りていないからなのだろう。
「引き続き調査と試行錯誤を続けましょう」
「ええ。……やはりシルヴィア様との意見交換は有意義です。こちらに同行した甲斐がありました」
「わたしはイリス様に教えていただくことばかりで反省の日々です」
ひとしきり話をしたうえで振り返ると、アンがぽかんとした表情でこちらを見ていた。
しまった、夢中になりすぎて置いてけぼりにしてしまったか。
「ごめんなさい、アン。退屈だったでしょう?」
「い、いえ。その。むしろ、シルヴィア様はリゼット様ともイリス王女殿下ともそうして専門的な話ができるのですね?」
「え、ええ、まあ。……言った通り、わたしが教えてもらうことばかりだけれど」
あまり自慢できることじゃないと暗に告げると、静かに成り行きを見守っていたイザベルが微笑んで、
「シルヴィアさんは『銀百合騎士団』になくてはならない方でしょう?」
「ええ、あらためて痛感いたしました」
なぜか株をさらに上げられてしまった。
◇ ◇ ◇
「でも、けっこう悪くない街だよね?」
「うん。クロヴィス様が来たのも影響してるのかな」
ひとまずクロヴィスに「鳥居作戦」の提案書を渡し、「トロール捕獲作戦」のほうは休止してもらった。
クレールたちにも多少の余裕ができたので街をぶらぶらしてみる。
領内最大の人口密集地ということもあって街には活気がある。
露天なんかも出ているし、都の小さい版と考えてもよさそうだ。
「あの王子様が来ただけでそんなに変わるものなのかな?」
「それはほら、お役人さんが治めるのと元王族が治めるのじゃ気持ちも変わるじゃない」
「なるほど。あの人お金持ちっぽいしね」
騎士団の件でだいぶ搾り取った──もとい、協力してもらったので実際はそうでもないかもだけれど、シルヴィアはひとまず「そうだね」と言っておいた。
「街の人たちも親切にしてくれてありがたいなあ」
「あはは。ほんと、シルヴィアは街の人と普通に話すよね」
「クレールこそ」
適当に買い食いをしたり、露店で掘り出し物を探したり。
新しい領主様はどうかと尋ねると「格好いいよね」「悪くないよ」「あの若さならこれからにも期待できる」などの声。
もちろん良い意見ばかりではないものの、好意的な人も多いのがわかった。
「なにか、暮らしを良くするアイデアを出したいな」
「シルヴィアならなにか思いつくんじゃない? 新しい食べ物とか」
「そんなに簡単には思いつかないけど」
こうやって実際に歩いてまわるほうが頭が働くのは確かだ。
「どうせなら石を使ったものがいいよね。石……石焼き芋?」
「なにそれ? 石の上で芋を焼くの?」
「上っていうか中。熱した石が集まると熱が逃げにくくなるでしょ? それで芋を調理するんだよ」
「へー。ちょっと美味しそうかも。シルヴィアもさ、芋にバター載せただけの料理好きだよね?」
「あれは格別の美味しさだからね……!」
本当の石焼き芋はさつまいもなのだけれど、じゃがいもでやっても駄目ってことはないだろう。
簡単な仕組みなので他にやっている街があるかも、という問題も「石の採れる街ならでは」ということで勝負の目がある。
「ん……意外と悪くないかも? 別に良い石が必要なわけでもないし、別の野菜を試してみてもいいわけだし」
「いいと思うよ。あたしも食べてみたい! ……っていうか、思いつかないって言いながらやっぱり思いついたじゃない」
「うん。やっぱり食べ歩きは重要かも」
気心の知れた相手との時間だから特別リラックスできた、というのもあるだろう。
ただこれはちょっと気恥ずかしい気もしたし、なにより今更の話なので口には出さないでおいた。