わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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迫る魔の手 1

 石に魔力といえば、魔力をこめて宝石に変えたりはできないのだろうか。

 アンに尋ねてみると「難しいと存じます」との返答。

 

「いわゆる錬金術は現状、かなり行き詰まっている分野です」

「そうなのね」

「はい。石に魔力をこめた場合、通常の方法では魔石化してしまいますので……。貴金属や宝石に変えるには別の方向性が必要となります」

 

 魔法を使って石の組成を書き換えることはできるだろうけれど、それが可能なほどの術者は少ないし、消費する魔力も見合っていない。

 シルヴィアが金や宝石の分子構造を覚えていれば役に立ったかもしれない。

 

「じゃあ、この方向性はだめね」

 

 ひとまず、クロヴィスから「鳥居作戦」の許可が出たのでそちらに取りくんだ。

 

「シルヴィア。私も見に行っちゃだめ?」

「ええと、クロヴィス様からお許しが出れば……」

「お養父様、だめ?」

「ぐ。……まあ、良かろう。警護の兵から離れるのではないぞ」

「はい!」

 

 作戦のことを話したところファンことステファニーも見たがったので一緒に採石場へ行った。

 作業員に一時手を止めてもらい、神聖魔法で、

 

「《鳥居》」

 

 銀色の光に包まれ生み出された朱色の建造物に、ステファニーだけでなく大人たちまでもが息を飲む。

 

「おい。あの子はひょっとしてすごい聖職者なのか……?」

「ああ。なんでも『月巫女』の位を持っているとか」

「月って……うちの神殿に来れば一番偉い地位じゃないか」

 

 ひそひそ声にむずむずするものを感じつつ同じものをあとふたつ。

 考えた結果、四という数字も縁起が良くないので三つをしめ縄でつなぐことにした。

 

「なんか見たことない物だが、確かに神聖な感じはするな」

「ああ。これでトロールが出にくくなるなら様々だ」

「はい。少し出入りがしづらいかもしれませんが、一度様子を見ていただけると……」

 

 併せて土地へ向けて浄化を行うと、効果は確かに現れた。三、四日おきに現れていたトロールが一週間近く出てこなくなったのだ。

 

「ふむ。これならばトロールを捕獲する余裕も出るかもしれんな。……シルヴィア・トー。他の採石場にも設置してくれ」

「騎士団と神殿から請求を送りますからね?」

 

 なんだかんだ言って公爵邸に来てからも忙しい。

 むしろ貴族学校で勉強するより大変な気もしてきたけれど、今のところ大きな問題は発生していないしその点だけは良かった──。

 と、シルヴィアが考え始めた頃。

 

「シルヴィア様。ご相談があるのですが……。公爵邸に不審な人物が入り込んでいる可能性はないでしょうか?」

「え?」

 

 不穏な気配が静かに顔を出し始めた。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 話を持ってきてくれたのはスリスだ。

 宛てがわれたシルヴィア用の客間。シルヴィアにゼリエとクレール、イザベル以外は誰もいない状態でおずおずと開かれた口が驚くべきことを告げる。

 

「どういうことか、詳しく教えてくれる?」

「は、はい。……その、確証があるわけではないのですが、下男や下女の中に見かけない顔がいたような気がするのです」

 

 貴族家には多くの人が関わる。

 家人や来客はもちろん、それを世話する家令やメイド、料理人、そして下働きをする下男や下女、品物を納入しにくる商人に、護衛や警護のための騎士や兵士。

 なので、主人であるクロヴィスといえども全員の顔を把握しているわけではない。

 各部署に責任者を置き、彼らに管理を行わせる形。その責任者たちも別部署のことは専門外なので、見かけない者が屋敷の中にいる、という状況は普通にある。

 つけいる隙がないわけではない。

 

「屋敷の下働きにも目を光らせていてくれたの?」

「そこまでではありませんが……。私も職業柄、化粧をしたり人の挙動に注目することが多かったので、そういったことに目が行きやすいのです」

「そう。……ありがとう。スリスがいてくれて良かったわ」

 

 心からそう告げるとスリスは「そんな」と恐縮する。そんな必要はないというのに。

 

 夜のお店で働いていた娘、スリス。

 彼女の恩恵は『恋愛AVG(アドベンチャーゲーム)の主人公』だ。

 ゲームの概要は、ひょんなことから娼館で働くことになった下級貴族の令嬢がそこを訪れるわけありイケメンと恋に落ち、彼の事情に関わっていくというもの。

 ゲームには「化粧」と「衣装」をアレンジするシステムがあり、主人公の飾り方次第で複数いる男性キャラとの相性が変わってくる。

 主人公ヒロインは努力次第でいかようにも化けられる隠れた才能の持ち主というわけだ。

 

「あなたの化粧と観察眼は才能よ。誇ってもいいわ」

 

 シルヴィアがスリスを採用した理由の一つがこれだ。

 彼女は服と化粧次第で印象をがらっと変えられる。それこそやりようによってはイケメンを落とすことも可能だっただろうけれど、めぐり合わせか恩恵を生かしきれていかなかったのか夜のお仕事では不人気だった。

 本人が向いていないと思っているのなら、その才能を他で活かしたほうがいい。

 諜報活動──までいかなくとも、いろいろな場所に連れ出せるメイドというのは十分すぎるくらいに便利だ。

 そしてその能力が今回は別の役立ち方をしてくれた。

 

「シルヴィアさん。もしそれが正しければ大事ですよね?」

「うん。下男下女に化けているなら重要な場所には近づけないはずだけど……なにか企んでいるのは間違いないと思う」

「どうする、シルヴィア? 見つけ出して捕まえる?」

「そうしたいのはやまやまだけど、わたしたちが勝手に動くのはまずいよ」

 

 スリスを信用していないわけではない。

 ただ、客人が勝手に動くと逆に混乱する。シルヴィアはクロヴィスに話を通して調査を依頼した。

 

「不審人物か。……確かな情報なのか?」

「それを確かめていただきたいのです。わたしは十中八九間違いないと考えておりますが、詳しい方に確認していただくほうが正確でしょう?」

「確かにな。なら、お前のメイドを借りても構わないか?」

「構いませんが、危ないことはさせないでくださいね?」

「わかっている。まあ、口説くくらいはするかもしれないが……いや、待て、冗談だ。そんな冷たい目をするんじゃない」

 

 変装と化粧で目立たなくなるスリスは確かに適任。

 その日から屋敷内に部外者が入り込んでいないかチェックする作業が始まった。

 その間、シルヴィアたちは普通に生活するのみ。

 身の回りの世話には屋敷のメイドも関わってくるけれど、貴族であるシルヴィアの傍に近づくような人員にはさすがに紛れ込めない。

 念のために注意しながらも待っていることしかできなくて──。

 

「シルヴィア様。本日までに二人の不審人物が見つかったそうです」

「……そう」

 

 スパイらしき人物は確かにいた。

 狙いはシルヴィアたちか、それともステファニーか。

 屋敷のセキュリティが見直され、見ない顔が入り込む余地は減少。

 あちこち確認してみたものの、盗まれたりすり替えられたものは見つからなかったという。

 

「では、屋敷の間取りそのものが目的の可能性もありますね」

「誰の部屋がどこにあるかわかれば攻撃しやすくなるもんね」

「弓や魔道具を使えば狙撃もできます」

 

 マルグリット、クレール、イザベルの談だけれど、あらためて貴族社会も物騒である。

 さらに警戒を固めようと決意を新たにして、

 

「大変です! 第二採石場にてトロールが暴れています! さらに何者かが兵の妨害を……っ!」

 

 そこで、さらなる魔の手が公爵領に迫ってきた。

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