わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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迫る魔の手 3

 場違いじゃないだろうか。

 クロヴィスの執務室、そこに集まった面々を見てシルヴィアは思った。

 第六王女イリス、第四王妃スザンナ、元王子にして現公爵のクロヴィス、さらに護衛を集めやすいという理由で連れて来られた第十王女ステファニー。

 このそうそうたる面々の中に頭脳労働要員としてちょこんと座っているのだから落ち着かないのも仕方ないと思う。

 ただ、落ち着かなさで言えばステファニーのほうが上か。彼女に構ってあげたいところだけれど、騎士団の代表として話に参加しないといけない。

 王女の相手はイリスが連れてきた専属メイドにお願いしよう。彼女は無事、公爵邸での雇用が決まってステファニーの専属に返り咲いた。城づとめを蹴ってでもそうしたのだからなかなかの忠誠心である。

 

「さて。賊をよく捕らえてくれた。……ただ、奴らの『上』を辿るのはなかなか難しそうだ」

 

 渋面を作ってまず言ったのはクロヴィスだ。

 

「当然だがなかなか口を割らない。それどころか口枷を外しただけで舌を噛み切ろうとする」

「それは……相当ですね」

「そんなに雇い主が大事なのかな?」

「そういう風に教育された裏の戦力なんだと思います。……もしくは秘密を明かすことによる報復を恐れているか」

 

 スパイが口を割らないのは定番だけれど、そこまでしてスパイなんてやらなければいいのに。

 

「……あれ? あの、ひとつ確認してもよろしいですか?」

「何だ、シルヴィア・トー?」

「その。こうした『影』の者たちというのはどうやって調達されているのでしょうか。『神託』が下っている……わけではありませんよね?」

 

 クロヴィスは嫌そうな顔で「ああ」と答えた。

 

「神託が下る例もなくはない。その場合、城や高位貴族に抱え込まれて密偵として育てられるが……あの者達はおそらく神託を受けていないだろう」

「受けていない?」

「五歳以下の子供を平民街から拾ってきたり、屋敷の中で産ませた子を隠して育てる。そういった非公式の人員に『お前は密偵となるべき運命だ』と吹き込んで用いる事がある」

「めちゃくちゃ悪逆非道じゃん!」

「エルミート伯爵令嬢。お気持ちはわかりますが、取り締まりも難しいのです。なにしろ『存在しないことになっている』子どもたちですから」

「そうね。……だとしても、神託を受ける権利すら与えられないというのは可哀想すぎるわ」

 

 職業を選べる権利がないどころか、向いている職業に就く権利さえない。それはもう奴隷と変わらない。

 頭が良く気丈なステファニーもさすがに表情を曇らせ、見かねたメイドが手を握って元気づける。

 

「密偵として教育を受けているのであれば、ちょっとやそっとでは口を割らないでしょうね」

「ああ。人相書きを作って街での調査も始めているが、大した情報は出てこないだろうな」

 

 この世界には冒険者もいる。

 外の者が街に入ってくることも珍しくはないし、そうした流れ者の中には顔を隠している者もいる。あまり情報は期待できない。

 

「……拷問、も期待薄ですよね?」

「そうだな。……というかイザベル・イストだったか? お前、なかなか過激な発想をするな」

「イズは騎士ですが頭も切れるのです」

 

 フォローを入れつつ「むう」と悩むシルヴィア。

 

「なにか方法がありますか、シルヴィア様?」

「いえ、さすがになにも……。密偵稼業が当たり前だった方には『温かい食事とふかふかの寝床』なども効果を発揮しないでしょうし」

「ああ、情に訴える作戦ね」

「お前もなかなか残酷というか……。いや、お前に関しては今更だな」

「どういう意味ですか」

 

 視線を向けると素知らぬ顔でスルーされて。

 

「お前の神聖魔法で改心させられれば早いんだがな」

「クロヴィス様は神聖魔法でなんでもできると思っていらっしゃいませんか?」

「人の心を和らげるくらいできないのか?」

「できなくはありませんが……一種の洗脳ですし、あまり多用する手段ではないかと」

「そんな事を言っている場合ではなかろう?」

 

 クロヴィスが呆れたような表情を浮かべる。

 

「そもそも、お前が狙われた可能性が高いぞ?」

「それはまあ……。わざわざわたしたちを狙ってトロールをけしかけて来ましたし」

「シルヴィア、誰かに狙われてるの?」

「大丈夫ですよ、ステファニー様」

 

 狙われるとしたらステファニーの神託関連か。『銀百合』も派手に動いているし、ついでに騎士団にも痛手を与えておこう、みたいな考えかもしれない。

 他人事のように分析できてしまうのは慣れてきた証拠というかなんというか。

 

「……わかりました。領主様の許可をいただけるのであれば、一人、捕虜をお借りして試してみます」

 

 厳重な警戒のもと、賊の一人に神聖魔法をかけた。

 通常の聖光でもいいのだけれど、成功率を上げるために工夫を加えて。

 

「《神よ。どうかその偉大なるお力にてこの者の邪なる心を清め、頑なな心を開きたまえ》」

 

 銀色の聖光を受けたその男は──心なしか身体の緊張を解いた、ような気がした。気のせいかもしれない。なにしろがちがちに拘束されて口も覆われているのでよくわからない。

 

「シルヴィア様、どうぞお部屋にお戻りください。後は我々が」

「はい。どうかよろしくお願いいたします」

 

 ぺこりとお辞儀をしてからその場を離れ──後ほど聞いたところによると尋問は成功。

 

「男はお前から与えられた浄化に感謝し、憑き物でも落ちたように素直になった。尋問にも応じ、情報を提供してくれている」

「すごいじゃん! さすがシルヴィア」

「うーん……。やっぱり洗脳に近いような気がするなあ」

「それは一旦置いておけ。……しかし、結局、雇い主の名前はわからなかった」

 

 末端の殺し屋に主人が直接会って「お前達はこの私の為に働くのだ、わかったか!」なんて言うはずがない。普通は部下が仲介をして上の者は一切顔を見せない。

 だから、男たちはそもそも裏に誰がいるのか知らない。知らないものは喋らせることもできない。

 

「と、言いたいところだが」

「ええ、クロヴィス様。この情報源から得られるものは多いでしょう」

「過去にその者たちが担当した仕事。それを喋らせれば総合して首謀者を特定しやすくなりますものね」

 

 にやりと笑ったクロヴィスにスザンナとイリスが当然のように応じる。

 この王族たちこわい。こういうのが偉い人にとっては当然なのか。クロヴィスの印象をちょっと情報修正するシルヴィアだった。

 

「ところで結局、彼らはなにを目的としていたのでしょう?」

「お前達がここに来た目的の調査。雇い主への報告。可能であればお前とスザンナ殿下を始末する事、だそうだ」

「あら、私も標的にされていたのね?」

「そのようですね。大方、ステファニー王女の一件について私が手を引いていた、とでも印象付けるつもりだったのでしょう」

 

 クロヴィスもかしこまった話の時は『私』を使うのか。……いや、それはともかく。

 

「シルヴィア・トー。残りの捕虜にも魔法をかけてくれるか? このまま衰弱死でもさせるよりよほど有益だろう」

「乗りかかった船ですので仕方ありません。……けれど、利用する以上はきちんと保護をお願いいたします」

「わかっている。口封じに殺されないよう警備を厳重にしておかねばな」

 

 他の者にも同じ魔法をかけたところ、さらに情報が増えた。

 全員が全員、ずっと組んでいたわけではないらしく、関わった事件に異なる部分があったのだ。

 その情報も総合した結果、

 

「……十中八九、()()()の仕業だろうな」

 

 クロヴィスが一つの判断を下した。

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