わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「王権派、ですか」
「ああ。現王家を尊重し、そこから外れる流れを忌避する連中だ」
「当然といえば当然の思想ですよね?」
むしろ現体制の打倒なんて大っぴらに主張したら処刑されかねない。
「そうだな。ただ、こいつらは保守的過ぎる」
「王権派はかなりの割合が『旧態依然のやり方』に固執しています。下手をすると、国家間の関係変化や新技術の開発等、時代の変化と共に推移すべき事柄にさえ手を出そうとしないほど」
「当然、王位継承においても前王の方針を踏襲する新王を求める。……陛下を批判するつもりはないけれど、あの方だって人間。間違うこともあれば苦手な分野もあるというのに」
「なるほど。……そういった方々であれば、わたしたちが狙われた理由は明白ですね」
「ああ。不穏分子を排除したかっただけだ。……奴らにとってはな」
保守派ということは雌種優性思想──女のほうが生物として優れているという考え方とも相性は最悪だろう。
別にシルヴィアたちも「女は男より上だ!」とか声高に宣言するつもりはないけれど、
「お前達はこれでもかと目立っている。女の地位を高めたい者達にとってはこれ以上ない『希望の星』だ」
「私もシルヴィア様には期待しておりますわ。女の自由を勝ち取るためにも共に頑張りたいと」
「そうね。女の権利が拡大すれば子どもたちももう少し生きやすくなるわ」
誰かから称賛されれば誰かからは批判される。
全ての人間から認められるのは無理と言っていいくらい難しい。
「別に俺は王権派も雌種優性思想も完全に正しいとは思っていない。しかし、新しいものを認められない老人どもには大人しくして欲しい」
「お兄様は女性を口説くために目新しいものをどんどん取り入れますものね」
「女を口説くため、は余計だが、まあそういうことだ」
そして今回の捕虜たちは王権派の力を削ぐのにちょうどいい材料になる。
「正直、これが一番の成果かもしれんな。尋問の結果を父上に報告すれば国への貢献になる」
「では、依頼達成ということでよろしいですか?」
「トロールの生態研究と魔物の出現抑制、それに石焼き芋。加えて捕虜の説得。むしろできすぎなくらいの貢献だろう」
依頼者からのお墨付きが出たので残りの日々は遊んでいてもよくなった。
「帰る時にでも父上に手紙を届けてくれ」
「あら、お兄様? それでは遅いのではないかしら。情報は迅速に伝えるべきかと」
「それもそうか。……シルヴィア・トーに手紙を持たせればもう一手、敵が動いてくれるかと思ったのだが」
そんな人を囮みたいに。
「では、捕虜の移送を引き受けましょうか? 手紙は別途、陛下に送っていただければ」
「そうだな。情報が伝わってしまえば捕虜の命も助かるかもしれん」
そして手紙は複数作って送ることもできる。
全てを阻止することはかなり困難。むしろ敵がこれで諦めてくれるとかなり助かるのだけれど。
「案外、これで情勢が一気に動くかもしれんな」
「向こうも情報が漏れることは想定内では?」
「どうかしら。厳しい訓練を受けた刺客が標的に絆されるとは考えないかもしれない」
「シルヴィア・トーの神聖魔法はなんというか常軌を逸しているからな」
「そこまで仰らなくても……」
やんわり抗議するとスザンナとイリスからも「擁護できない」という顔をされてしまう。
「もういっそお前が神殿長になってしまえばいいんじゃないか?」
「いえ、あの。いくらなんでも無茶でしょう」
「さすがに冗談だが、しかし。……現神殿長は王権派だったな」
それにしてはシルヴィアにも親切なほうだったけれど……戦略家として活躍しようとする人間を巫女の枠に当てはめよう、という考えは確かに見方によっては保守的か。
「まあ、少しゆっくりしていけ。兵も交代で休ませ、帰り道での襲撃に備えるのだな」
「確定で襲撃を受けるような言い方はやめてくださいませ」
なお、後日本当に襲撃を受けるのだけれど、それはまた別の話として。
◇ ◇ ◇
「お母様。私は命を狙われているの?」
こみいった話が終わった数日後。
暇な時間の多くなったシルヴィアはファンことステファニーと遊ぶ時間を増やした。
そんな時間の中で、ふと幼い少女が不安を口にした。
「お母様も、シルヴィアも。みんなが私のせいで困っているの?」
「ステフのせいじゃないわ」
スザンナはそう答えたものの、その返答はある意味、危険の存在を肯定するもので。
「……私は別に、王様になんかなりたくないのに」
今まで十分に我慢してきた。
同じ歳だった頃、シルヴィアはこんなに聡明だっただろうか。いや、きっととっくの昔に悲鳴を上げていたはずだ。
幼い王女が限界に達したのは自分が原因ではなく、親しい相手への被害を心苦しく思ったからだった。
「私は普通に暮らせればいいだけ。別に王様になんてならなくていい。なのに」
「ステファニー様……」
胸がぎゅっと締め付けられる。
責任の重み。それはシルヴィアも感じている。まして望んでもいない重責のせいで誰かが傷つくとなれば、苦しくないはずがない。
こんな子が苦しい思いをしないといけないなんて。
なんといいかわからなくなり、ただそっと少女の肩に手を置く。
と。
「ステフ。甘えるのはよしなさい」
「……お母様?」
母親であるスザンナは意外にも娘を叱責した。
「王族や貴族にとって命を狙われるのは当たり前のことよ。そして、私たちが狙われれば使用人や部下も危険にさらされるの」
「っ」
「それがあなたの『普通』。普通の暮らしだとあなたが思っているものは多くの人の努力によって成り立っている。当たり前だった暮らしがとても恵まれたものだったことを覚えておきなさい」
「スザンナ様、恐れながら少し言い過ぎでは……」
自分まで叱られたような気分だ。
王妃は「ごめんなさい」と苦笑して、
「けれど、私もずっとこの子の傍にいられるわけじゃない。だからこそ、言っておかなくては」
「……スザンナ様。帰りは必ずわたしたちがお守りします。またここへ来ることだってできます。ですから」
「わかっているわ。それでも、ね。王族として言っていいことといけないことがあるの」
立派な人だ、と思った。
彼女自身は最初から王族だったわけではない。神から王妃になることを定められ、努力して王妃に相応しい人間になった人だ。
生まれつき王族だった者とは別の苦労があっただろう。
なにも言えなくなったシルヴィアが口を閉ざすと、ステファニーはしゅんとして「ごめんなさい」を口にした。
「ごめんなさい、お母様。私はもっと頑張らないといけないのですね」
「そうね。……でもね、ステフ。あなたのその優しい気持ちはとても素敵よ。みんなを思う心をどうかこれからも忘れないで」
みんなが幸せでいられるように。
それはシルヴィアが目指すところでもある。英雄でも天才でもないシルヴィアにできるのは身近な人、大切に思える仲間たちを助けることくらいだけれど。
だからこそ。
誰かの足を引っ張って自らの望みを叶えようとする輩は許せない。
「ね、クレール? 剣にちょっとおまじないをかけてもいいかな?」
パートナーの少女は護衛やステフの相手をする合間に自主練の時間も取っている。
トロールのような強敵が出てきてもいいように。もっと強くなれるように。騎士として十分な実力をすでに身につけていそうだというのに、その努力は続けられている。
彼女を少しでも助けられたら。
悩んだ末、シルヴィアはひとつ試してみることにした。日本語で神聖魔法が発動するなら、もしかすると文字としての日本語にもなにか力があるかもしれない。
「ほら、イズの弓に神様の文字を刻んだでしょ? おなじようなことができないかなって」
「あ、私の……。もしかしてこの弓が使いやすいのってシルヴィアさんのおかげだったんですか?」
「ううん。その弓のすごさと、イズの腕のおかげ。でも少しくらいは助けになってるかも。……どうかな?」
尋ねると、クレールは「もちろん」と微笑んだ。
「せっかくならとっておきの剣にしてほしいけど、強敵はいつ出てくるかわからないもんね」
「あはは。必要になったら新しい剣にも刻めばいいよ」
職人さんのアドバイスを受け、剣のバランスを崩さないように注意しながら刀身に二文字を刻んだ。
『疾風』。
シルヴィアの祈りを籠められた両手剣。その使い心地は──。