わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「来るでしょうか」
「おそらくは。……成功すれば大きな成果が得られますし、彼らはいま追い込まれているはずですから」
三月の半ば。
シルヴィアたちは屋敷の者たちから惜しまれつつ公爵邸を後にした。
都で待っているみんなへのお土産を買い、寂しそうにするファン──ステファニーに手紙を書くと約束して、馬車が出発。
捕虜数名を載せたことで荷物は行きよりも増えている。
ルートも行きから少し変更した。
出発の一週間前には同行する兵たちにも伝達し、準備を整えてもらっている。二日目の宿泊地は森の傍に位置するとある村だ。
「かなりあからさまな誘いですけれど」
「だからこそ、襲撃地点を絞り込める。そういう作戦なのでしょう?」
「ええ。罠だとわかっていても、ここが一番襲撃しやすいはずです」
人員を潜伏させやすく、現地住民に邪魔をされる可能性も少ない。
シルヴィアの予想通り一日目は何事もなく終了。そして目的の村に近づいた頃──。
ピィーーーーーッ! っと、指笛が馬車団の先頭から鳴らされた。
「煙だ! なにか起こってるかもしれない!」
見れば、村の方向から立ち上る白いもの。
「狼煙のつもり、かな」
馬車をいったん停車。すぐにクレールとイザベル、マルグリットが駆け寄ってきて、
「敵も罠を張ってきたのかしらね」
「だとしても、放ってはおけないよ。火事かもしれないんだし」
「騎士として迂回するわけにはいきませんね」
「うん、行こう。……それで、イリス様たちをどうするかだけど」
「私たちもご一緒に。戦力を二つに分けるほどの余裕はないでしょう?」
「私たちを守ってくれるのでしょう? だったら、それを信用するだけよ」
「……ありがとうございます」
再び出発するまでには五分もかからなかった。
やがて見えてきた村は無事。家が燃えている様子もない。やはり煙はシルヴィアたちをおびき寄せるためのものだったらしい。
ただし、村の周りには見過ごせないものたちがいた。
顔を隠し武器を持った刺客が十名以上。
そして、トロールには及ばないものの、人間をゆうに超える背丈を持った
数は、こちらも十以上。
あれは魔法によって作られる人足兼兵士。
「……ゴーレム!」
その石人形たちは馬車団の接近を察知するといっせいにこちらへと動き出した。
◇ ◇ ◇
馬車は急停車。
「イリス様たちはこちらに。わたしは外でクレールたちを援護します」
「かしこまりました。ご武運を、シルヴィア様」
馬車を下りるともうクレールは両手剣を手に敵へと走り出していた。
別の馬車から下りてきたゼリエたちにイリス、それからスザンナを任せ、アンと合流。
「ゴーレムですか。それも、こんなにたくさん……。トロールに食わせた魔石といい、かなりの出費でしょうね……」
「敵も本気ってことだね。それより、ゴーレムを近づけさせないようにしないと」
石人形の動きはゆっくりでかわすのも難しくないけれど、それはあくまで自由に動ければの話。馬車を狙われれば中に乗っている者はひとたまりもない。
「シルヴィアさん!」
「イズ! 足場を作るからそっちに乗り移って!」
先頭の御者台で矢をつがえていたイザベルに指示を出し「《石段》」和風の階段だけを作り出す。藍色の髪の少女はせりあがっていく石段に飛び乗るとこくりと頷き、
「この高さなら──!」
ゴーレムの間を縫って駆けてくる刺客に牽制の矢を放っていく。
そう。敵はゴーレムだけではない。
戦力的にはオークの大群に及ばないけれど、今回は防衛戦。しかもこちらの戦力は限られている。
「ティーア。あなたはイリス様たちのところに」
「なー」
呑気に歩いてきた黒猫にそう告げると、魔物好きの魔族は「ゴーレムじゃ繁殖もできないしね」とでも言いたげに鳴いて来た道を戻っていく。
「アン。ゴーレムを削って欲しいの。ただし、村への被害は最小限に抑えて」
「かしこまりました。では、石人形には石弾で対処します」
マルグリットは馬車の先頭で様子見。
指示だしの間に敵に突っ込んだクレールはというと──。
「こんなのトロールに比べたら!」
『強撃』。抜き身の両手剣を思いっきり叩きつけると石でできた胴体が砕け、破片を飛び散らせる。確かに、単なる石の集合体よりトロールのほうが硬い。
個体で劣る分は数で補っている。迫ってくる後続に注意を向けつつ、上手く打撃を加えていくクレール。
優勢。ただし撃破にはなかなか至らない。時間の問題を敵が待ってくれるとかというと──。
ゴーレムよりも格段に素早く、そして的確に。毒でも塗られていそうなナイフを閃かせる覆面。
「おっと」
「!」
けれど、それもクレールは軽やかに対処した。
重量感のある両手剣を手足のように操り、刺客に反撃。
手にしたナイフで受けるわけにもいかず相手はやむなく後退。馬車へと向かう足を止めることになった。
クレールの剣が面白いように動く理由は持ち主の怪力と訓練だけではなく──その刀身が緩やかに纏う『風』のおかげでもある。
エリザベートの燃える剣のように威力を上乗せするほどの勢いはない。
ただ、刀身と一緒にクレール本人をも包みこんでおり、それが少女騎士の動きを助けている。
シルヴィアが刀身に刻んだ『疾風』の二文字。
それがクレール自身の適性と合わさったことで風魔法によるブースト効果として発揮されたのだ。
クレールいわく、あの剣を握っていると魔法の苦手な自分でもうまく風が扱えるとのこと。どうやらおまじない程度の効果は十分あったようだ。
「残念だけど、イリス様たちも捕虜も傷つけさせないよ! これを待ってたのはそっちだけじゃないってこと!」
◇ ◇ ◇
こうして、ひとまず敵の初動は押さえた。
ただし依然として楽観していい状況じゃない。
主力であるクレールは賊に絡まれたせいでゴーレムへの対処を遅らせることになった。
馬車に迫る他の刺客をマルグリットが兵を指揮して迎え撃つも、人を翻弄し殺すことに特化した敵はなかなか正面から戦わせてくれない。
毒のナイフをちらつかせ、時には暗器を投擲し、体術も用いて撹乱してくる。
一人の刺客に二人以上で対処するのが精一杯、そうでないとすぐにやられてしまいかねない程度には相性が悪い。
「……はあ。私も正直、こういう相手は苦手なのよね」
マルグリットのハンマーは暴風のごとく敵をよせつけていないものの、味方さえも周りに近づけない。
狙いが大雑把になるのは避けられないため、敵は彼女を可能な限り無視することで対処し始めた。
「《神よ、そのお力で我が大切な者をお守りください》」
神に祈り、防御の魔法を馬車それぞれにかけていく。
これで敵が触れたり攻撃しようとしてもある程度妨害できる。
アンも地面から作り出したつぶてを敵に見舞い、ゴーレムをよろめかせている。
「あんたたち! あたしも戦わせてもらうよ!」
「お頭さん!」
「だからお頭じゃないって言ってるだろうに」
斧を手にした元野盗のお頭が、イリスたちがある程度安全と見て賊の対処に参加。
彼女は荒っぽい戦いに慣れているのか、兵士よりもずっと落ち着いた様子で刺客の前へと踏み込んでいく。
これで少しは楽になったか。
ここは一気に形成を傾けておきたい。
神聖魔法の大規模攻撃はこの状況だと少し使いづらい。余力は残しておきたいし、人間相手だと敵だけを選んで浄化できる確証がない。
ならば。
──戦術スキル『気力充填』。
味方のスキル使用回数をブーストするスキルだ。リアルでは一定時間、味方の大技による疲労を和らげることができる。
「イズ! 一気に敵の数を減らしてほしいの!」
「わかりました!」
『ラピッドアロー』『ピアシングアロー』。
乱れ打ちのようでいて正確無比な矢が、石さえも貫く威力を持って雨となる。
ゴーレムには矢をかわす術なんてなく、刺客もまたかわそうとすれば大きく動きを変えるか武器を振るうことを余儀なくされる。
中には手や足に傷を負う者もいて。
「っ、はぁっ、はぁっ!」
物理法則をほとんど無視した大技にイザベルが息を乱し、弓の勢いを和らげた時には、敵の動きは明らかに最初よりも鈍くなっていた。