わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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迫る魔の手 6

 勝てる。

 襲撃を予想できていたのは大きかった。奇襲ならもっと苦戦していたはず。

 誰かの私兵である以上、人員も限られる。その程度の戦力で討ち取られるほどシルヴィアたちはもう弱くない。

 

 ……そんな風に油断したのがいけなかったのか。

 

 シルヴィアが思考を止めたのを見計らうように、横合いから攻撃が来た。

 大きな火の球が立て続けに三つ。

 村の傍にある森の方向からだ。着弾前に気づけたのは幸いだけれど、油断が対応を僅かに遅れさせる。

 持ち上げる手が、神聖魔法を紡ぐ唇が少しだけ間に合わない。

 

「っ、なにをぼうっとしているの!?」

 

 叱責の声と共に風が戦場を駆け抜けた。

 マルグリットの魔法だ。側面から火球を叩くようにしてそれが火勢と速度を弱め、シルヴィアの対応を間に合わせる。

 ぎゅっと唇を噛んで、

 

「《聖なる守りよ》!!」

 

 銀色の光が炎を阻んだ。

 威力が高い。額に汗を浮かべながら防ぎきる。この威力、凄腕の魔法使いか、使い捨ての攻撃魔道具でも用いているのか。

 光と炎の消失と同時に火球の来た方向を見やり、他の賊とは装備の異なる一人を発見。

 

「《聖なる光よ》!」

 

 反撃の聖光を魔法使い? は懐から魔石を取り出し、それを砕くことで防御。魔力障壁が展開されてシルヴィアの魔法と相殺される。

 ゴーレムといい、いったいいくら注ぎ込んでいるのか。

 連続の魔法行使でふらつくのを感じながらさらなる光を放とうとして──なにか重たいものが魔法使い? に向けて吹っ飛んでいくのを見た。

 

 ハンマー。

 

 ぐるぐると横回転しながら突っ込んだそれが、ごっ!! と冗談のような音を立てて直撃。耐えきれるわけもなく、魔法使い? はぽてっとその場に倒れた。

 生きているだろうか? いやまあ、自業自得ではあるのだけれど。

 

「よくやったわ。相手の動きを止めてくれてありがとう」

「……こちらこそ、危ないところを助けていただいてありがとうございます」

 

 ハンマー投げとかいう恐ろしいことをやってのけたマルグリットが先の失態をフォローするように微笑んでくれる。

 苦笑しつつそれに答えて、

 

「残りの敵も片付けましょう!」

「ええ!」

 

 幸い、それ以上の増援が来ることはなかった。

 そして、

 

「早く片付けたほうがいいなら……っ!」

 

 刺客のナイフを、クレールが()()()()()()()両手剣の一振りで応じる。『カウンター』。恩恵に由来する固有のスキルに相手は対応できず、浅い一撃と引き換えにざっくり肩から切り裂かれた。

 踏みとどまれるわけがない。

 一撃でぐらりと倒れ伏す仲間を見て、さすがの刺客たちも一瞬だけ揺らいだ。動きの止まった一人をマルグリットが徒手でぶっ飛ばして、

 

「降伏するのなら今のうちよ。『銀百合』騎士団を甘く見たのが失敗だったわね」

「………っ」

 

 まだ動ける数名が踵を返して戦線を離脱しようとするも、

 

「同じ手は食いません」

 

 彼らの手足を飛来した矢が射抜き、その場へと繋ぎ止めた。

 

「《癒やしの光よ、我が友クレールの身を清めたまえ》」

 

 聖なる光がナイフの毒を即座に癒やせば、クレールはにっと笑って、

 

「よし、ゴーレムもぱぱっとやっつけるよ!」

 

 『突進撃』。急接近と共に叩きつけられた刃が石人形の胴体を砕く。『旋風撃』足を砕いてゴーレムを動けなくすると『脳天割り』。接近してきた別のゴーレムに跳躍からの一撃。

 

「あーあ。あの子を自由にさせたらああなるわけだ」

 

 石でできた巨人をばったばったとなぎ倒していく少女騎士の姿に(元)お頭が呆れ声を挙げた。

 

「余力のある者は敵の捕縛を。負傷者はただちにシルヴィアからの治療を受けなさい」

 

 マルグリットの手早い指示で戦後処理が始まって──。

 

「全員動くな!」

 

 村から出てきた()()()()が、幼い少女の首にナイフを当てて声を上げた。

 

 

 

 

 

「子供の命が惜しければ仲間を解放しろ。……それとも、騎士のくせに民の命を無駄に散らすつもりか?」

 

 人質。

 貴族の私兵だろうに、そこまで悪辣な手を打ってくるのか。

 拘束された村娘はがたがたと震えている。恐怖で涙を浮かべ、声を出せないままぱくぱくと口を動かす。

 敵の言う通り、騎士は民を守るものだ。

 いたずらに人命を失わせるのは騎士のやることじゃない。

 

「そんな脅しに屈するとでも?」

 

 その上で、応じたのはマルグリット。

 

「騎士は民を守るものである前に国を守るもの。……子供一人の命でそれ以上の命が助かるのなら躊躇う理由はないわ」

「なら、今ここでこいつを殺してやろうか?」

「どうぞ。その瞬間、あなたを守るものはなにもなくなるけれど」

 

 淡々と答え、予備の剣を引き抜く姿を見て少女はとうとう泣き出してしまう。反対に人質を取った賊は動揺を見せ──。

 とん、と、額に矢が突き立つ。

 

「さすがね、イザベル」

「シルヴィアさんが足場を用意してくれて助かりました。ここからならいくらでも狙いようがありますから」

 

 マルグリットの発言は嘘ではないけれど、一番の狙いはイザベルが狙う時間を稼ぐためだ。準備さえできれば騎士団きっての弓使いは正確に仕事をこなしてくれる。

 解放された少女にクレールが駆け寄る。

 さらに村から三人ほどの敵が飛び出してくるも、

 

「……逃げ帰っても罰として殺されるのでしょうけれど、だからといって破れかぶれにも程があるわ」

 

 今更その程度の戦力でどうにかできるはずもなく、今度こそ戦いは決着したのだった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 村人に死者はなし。

 賊に脅されて抵抗できなかったらしい。会話の内容は念のため聞き取りを行ってアンに書き留めてもらった。

 謝礼代わりの歓待を受け、その日は少しだけ豪華な食事。

 村人たちがことの顛末を知ったらきっと賊の雇い主に反感を持つだろう。ほんの少しだけれど、確実に王権派貴族の支持が減ることになる。

 

「それにしても、捕虜がたくさんになってしまいましたね」

「仕方ないわ。村で馬車を借りられたからこれに載せて運びましょう」

 

 ぐるぐる巻きにされたまますし詰めにされる男たちと、重い馬車を運ばされる馬。どちらがかわいそうかというと後者な気がしてしまうのは果たして気のせいだろうか。

 

「それにしても、クレール。ちょっと無茶しすぎだからね」

「ご、ごめんごめん。反省してるってば」

 

 落ち着いたところでシルヴィアはパートナーの行動に文句を言った。

 

「でもほら、こうやってぴんぴんしてるし」

「ぴんぴんしてるのは魔法で治せたからでしょ!? あんないかにも毒が塗られてそうなナイフを食らうなんて……!」

「し、シルヴィア? もしかしてけっこう怒ってる?」

「怒るに決まってるでしょ!」

 

 治ったからいいものの、無茶をすれば万一ということもあるのだ。

 

「こんなところでクレールが倒れちゃったらわたし、どうすればいいか」

「……うん。ごめん、シルヴィア」

「もうしない?」

「それは。えーっと……うん。勝つためならやるかもしれないけど」

「……まったくもう」

 

 これである。なんというかクレールはブレない。実際あそこで一気に持っていかないとなにか変なことをされたかもしれないし、あの判断が間違っていたとまでは言えない。

 

「わたしも今回は油断しすぎたよ。……指示を出す立場なんだからもっとちゃんとしなくちゃ」

「大事には至らなかったんだからそこまで気にしなくてもいいとは思うけれど、まあ、そうね」

 

 マルグリットが微笑んで肩を軽く叩いてくれる。

 

「反省すべきところはしなさい。それはそれとして、あなたはよくやったわ」

「そうです。シルヴィアさん、今日はゆっくり休んでください」

「うん。そうさせてもらおうかな」

 

 実を言うと戦いの後から身体が重くて仕方ない。

 

「このところけっこう魔法を連発してたからかな。疲れが溜まってるのかも」

「だったらちゃんと休まなきゃ! シルヴィアはあたしたちと違ってひ弱なんだから!」

「もう、わたしだって並くらいの体力はあるからね?」

「そうは言っても、神聖魔法による疲労はまた別物でしょう。いいから戦略家様は寝ておきなさい」

「……はあい」

 

 若干しぶしぶながら毛布にくるまるとすぐに意識が落ちて、次に気づいた時には朝になっていた。

 

「さ、都まで無事に戻らないと」

 

 特になにも起こらなかったものの、それはあくまで結果論。

 油断で失態を招きかけた以上はできる限りの注意を払って、シルヴィアたちは都へと帰りついた。

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