わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「期待以上の収穫だったな。……本当に『銀百合』騎士団は我が望みを叶えてくれる」
「陛下の意向に沿うことができたのであれば、私も嬉しく思います」
『聖女』アンジェリカは城の一室にて国王と面会を行っていた。
表向きは定期的な訪問と雑談。
本当に茶を飲んで帰ることもあるのだけれど、今回は大事な話題があった。つい二日ほど前に帰還したばかりのシルヴィアたちと、彼女たちが連れてきた捕虜についてだ。
既に人払いが行われており、部屋には最小限の人員しかいない。魔道具による盗み聞きの防止も万全だ。
「シルヴィアの神聖魔法についてはあらためて話を聞いてみたいところです」
「うむ。あの者の応用力は理解を超えている。神の言葉を理解しているのではないか、と思えるほどだ」
さすがに勘付かれているか。
アンジェリカは微笑で流す。国王も深く追求はせずに話を続けた。
「一番の収穫は、やはり生き証人だな」
「公爵領に害をなし、シルヴィアたちを襲撃した実行犯……」
「うむ。本人から話を聞く事が出来れば信憑性が跳ね上がる」
もちろん、国王は事前にクロヴィスからの手紙も受け取っている。それを読めば情報は得られるのだけれど、伝聞であることを理由に「でっちあげだ」と主張されることもある。
実際、クロヴィスからの手紙は複数あり、その中には何者かが偽造したと思われる虚偽の手紙も含まれていた。
おそらく情報を握りつぶすと共に偽の情報を渡すことを企んでいたのだろう。
「捕虜が協力的というのも有り難い。その手の者はえてして口を割らぬ」
「彼らは今、どこに?」
「イリスの口添えがあってな。直接城に連行されたその者達を厳重に保護している」
衛兵の詰め所に送られていたら口封じに殺される可能性も高かった。
念には念を入れておくのが正解だ。
「クロヴィスの手紙と捕虜の証言、一致したとなれば信用せぬわけにはいかぬだろう」
「首謀者を特定し、罰を下すと?」
「無論。我が妻や息子、娘にまで手を出した以上、無罪放免にはできん」
相手もそれがわかっていたからこそ様々な手を打ってきたのだろう。
ならば不用意に手を出さなければ──と言いたいところだけれど、そもそもトロールを暴れさせた件で刺客を捕らえられたこと、彼らから証言を引き出したことが想定外だったのだろう。
失態をどうにかするためにさらなる戦力を投入、他にも策を巡らせるもことごとく失敗に終わってしまった。
「本当に頭の痛い話だ。シルヴィア達が帰路にて襲撃を受けた少し前、都でも少々問題が起きてな」
「私の耳には入っておりませんが……」
「魔法使いギルドの管轄故、神殿に情報が届かなくとも無理はない」
なんでも、とある交易馬車から大量の魔道具が見つかったらしい。それも攻撃用のものが。
攻撃に使う魔道具については個人所有が制限されている。大規模のものは禁止、自衛レベルを超える品は届け出が必要だ。
そうする理由はもちろん、暗殺など物騒な用途での使用が可能だから。
今回のケースで言えば、
「全てを一度に使用した場合、村一つが吹き飛んでいたかもしれん」
「………!」
シルヴィアたちは刺客との交戦後、村で一泊したと聞いている。
あらかじめ村に仕掛けておいて夜にでも起動したとすれば?
「
「偶然、クロヴィス殿下の領地がある方面への馬車を抜き打ち調査なさっていた、と」
「王族に対する心無い噂も散見される。不心得者には厳重に対処せねばな」
本当に、彼女たちが無事に帰ってきてくれてよかった。
「陛下。今回の首謀者──どなたなのか伺っても?」
「ああ。まだ確定ではないが、状況から見て──」
口にされた名前は想像以上の大物だった。
一瞬、背筋が寒くなる。自分から尋ねた話ではあるものの、王に文句を言いたくなった。
「それは私が耳にして良いお話でしたか?」
「其方以上に
「……それは、そうかもしれませんね」
自分で自分を『聖女』などと美化するつもりはないけれど、アンジェリカは自分が無欲な人間であると思っている。
人を助けたい。傷つく人に減って欲しい。そのために尽力してきたつもりだし、権力を使って人を陥れようとする者には怒りを覚える。
そんな者に権力を握らせておくくらいなら、自身の権力を使って──。
「神殿にも風通しが必要ではないか?」
「っ」
考えを読まれたかのように告げられ、返答に迷う。
今回の首謀者は神殿長とも繋がりがある。神殿への高額寄付者の一人であり──間接的に神殿内の政治にも口を出してきた者、と考えていいだろう。
芋づる式に同派閥の者が引きずり出される可能性を考えれば、神殿長の力は大きく衰える。
今回の件に関与していなかったにせよ、世代交代にはちょうどいい時期かもしれない。
「万が一のことがあった場合、後任を推薦させていただいても?」
「『聖女』以上に適任者などいまい。いや──」
静かに、けれど強い意思をたたえた瞳に見据えられて。
「むしろ、其方自身が神殿を引き受ける気はないか?」
「……私が、ですか?」
それは、思ってもみない提案だった。
神殿長には神官が就くのが通例。大神官がここ最近ほとんど現れていない以上、パワーバランスを取るにはそのほうが良かった。
けれど、実務面を考えるなら?
「……神殿長の後任を考えるよりも、聖女の座を後任に任せるほうが気楽ではあります」
本来、聖女は名誉職だ。
神殿長に「信頼のおける者」が就くのであれば内部政治に関わる必要はない。アンジェリカにとって最も信頼のおけるのが誰か、それは当然、自分自身だ。
「私を止められる者が誰もいなくなった時、今まで通りの私でいられるか、不安はありますが」
王は軽く笑ってから答えた。
「ならば、その不安をけして忘れるな。それでも足りないのならば、自分を止められる者を用意しておけ」
「そのような役割を誰かに押し付けるわけには──」
答えたものの、アンジェリカには二つの顔が浮かんでいた。
娘のように可愛がってきた聖女見習い。
ある意味では誰よりも信頼し、尊敬し、頼りにしている、最も若い月巫女。
彼女たち二人がかりならば? むしろ、あの純粋な少女たちの活躍を見て、私欲になど走っていられるか?
「時期は、いつ頃になりますでしょうか」
「半年はかかると見たほうが良いな。……いや、引き継ぎも含めれば一年か」
王がなにを考えたのか、今度はだいたいわかった。
あと一年。それだけあれば『銀百合』が完全稼働できる。
「国が大きく動くことになりますね」
「ああ。……この国も随分と歳を取った。そろそろ若返りを果たしてもいい頃合いだろう」
主要な貴族が失脚することは国力の低下にも繋がる。それでも決行するのは、他でもない国王自身が『王権派』という大きくなりすぎた存在を危険視しているからだ。
新しい風の吹き込まない組織は必ず腐っていく。
あるいは、エルフや魔族のように長い寿命を持つ種族であれば話は別なのかもしれないけれど。
「彼女たちが風を吹かせてくれたのですね」
「そうだな。……我は彼女らの風に乗ることにした。若い力というのはやはり快い」
時代の転換点。今、そこにさしかっているというのなら。
せめて、
アンジェリカは胸にそんな希望を宿すのだった。