わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「例の件、草案をまとめてみたんだけどどうかな?」
都に戻ってきてから数日後。
ラシェルがとある書類を手渡してくれる。前に話題へ上がった騎士たちの評価システムの件だ。
面白そうだから試してみようということで、エリザベートとラシェルが考えてくれたらしい。
「本当、面白いことを考えるものね」
それなりの年月を騎士として生きている上級騎士マルグリットも興味深そうに覗き込んでくる。
旅の間にシルヴィアとも軽く話はしたものの、実際に運用するものとして提出されるのはこれが初めて。とはいえ、
「考え方自体はそれほど特別なものではないでしょう?」
「それはそうだけれど、これだけ体系的に、しかも大がかりに行うのは聞いたことがないわ。熟練の騎士団長なら頭の中に似たようなものがあるかもしれないけれどね」
「言い得て妙ですね。これの目的は熟練者の経験則を誰にでもわかる形に表すこと、と言っても過言ではありません」
エリザベートたちの考えてくれた評価システムはとてもよくできていた。
リゼットの意見も加えているらしく、戦闘や任務に直接関わらない項目もある。それにマルグリットと二人で感心したうえで、気になる点についていくつか意見を言った。
「なるほど。それくらいならすぐに修正できそうだね」
「やっぱり、すぐに試してみるつもりですか?」
「そりゃあもう。今からならちょうどいい感じに実験できるし」
今は三月の末。
上級騎士学校の卒業式が先日行われたばかりである。シルヴィアたちの一つ上、新人騎士たちがぞくぞくと『銀百合』の門を叩いている。
四月になれば彼女たちも騎士団に加わるわけで──。
「古いやり方が染み付いている人よりも、これからやり方を覚える人のほうが素直に協力してくれそうですね」
実験には彼女たちが使われることになった。
◇ ◇ ◇
四月、最初の休日。
新人騎士たちを全員集めての説明会を開いた。
今回の新人たちは正式稼働した『銀百合』が初めて迎える戦力だ。
彼女たちの一つ上はせっかく騎士になったのに上司からハブられて悔しい思いをしていた。そのうえ騎士団稼働でばたばたしたため、ちゃんとした新人訓練も受けられていない。
同じことの繰り返しにならないよう、みんなと相談し、今年の新人にはしっかり初期の指導を受けてもらうことになっている。
合計九年間も学校で鍛えてきた彼女たちではあるものの、運用段階独特のあれこれもある。それに慣れてもらうためにも「はいじゃあ今日から任務ね」とは言わないほうがいい。
騎士団での訓練期間は二ヶ月を目安にしようと思っている。
さて。
「騎士団長のエリザベート・デュ・デュヴァリエですわ」
「副団長のラシェル・アランブールだよ」
並んで前に立った二人を見ても新人騎士の少女たちは期待に満ちた表情を崩さなかった。
ベテランからは「お嬢様の横暴」と見られることもなくはないこの人選だけれど、若手からは「親しみやすい」「実力主義」とわりと好評である。
男臭い騎士団に押し込められなくてすんだ安心も手伝っているかもしれない。
そんな風に安心していると、
「それから、我らが騎士団の戦略家と顧問魔法使い」
「シルヴィア・トー男爵とリゼット・プレヴェール公爵令嬢」
「よ、よろしくお願いします」
シルヴィアも前に立たされて挨拶することになった。
「さて。みなさんに集まってもらったのは他でもありません。お給料と階級の仕組みについて説明するためです」
「今日非番だった人には後日お休みを振り替えるから安心してね」
シルヴィアが提案し、複数人でブラッシュアップした評価システムは個人の能力を項目ごとに一定の基準で評価、記録することで任務の参考とするものである。
これによって騎士団長、副団長両名が不在といった状況でも「どの程度の戦力があれば任務遂行可能か」がわかりやすくなる。
「そこで、これから二ヶ月の訓練期間中に査定を行い、みなさんの能力を評価します」
「それを元に階級を決めてお給料の基準にするよ。……暫定だから変更する可能性もあるけどね」
従来の騎士団では給金が個人ごとに決められていた。上級騎士といった区分はあるものの小分けはされておらず、同じ上級騎士でも扱いには差があった。
活躍して昇進すれば給金が増えると言っても、それが公平かどうかは不透明だったわけだ。
そこで階級をもっと小分けにし、階級ごとに給金を一律にする。
「もちろん、大変な任務をこなしてくれた場合はボーナスを出すけどね。基本的には階級ごとにみんな一緒」
この説明に笑顔を浮かべる者と、微妙な表情をする者。
「最初の訓練だけで実力が判断されるのですか?」
「いいえ。もちろん査定は定期的に更新します。最終的には三ヶ月ごとに一度の予定だけれど、今回は二ヶ月かけて最初の査定を行うので──半年後に更新の予定ですわ」
「もちろん、不真面目な態度なら降格もあるからね」
みんなの表情が引き締まる。
「階級はどんなふうになるんでしょうか?」
「『一級騎士』といった具合ですと味気ないでしょうから、月の満ち欠けを用いることにいたしましたわ。神殿でも似たような表現を用いているそうですので」
「みんなはとりあえず『新月』から始めてもらう。査定と活躍次第で『三日月』とか『上弦』とか上の階級に上がれるよ」
評価基準もしっかりと決めた。
白兵戦、射撃戦、屋内戦、連携能力、指揮能力、魔力、魔法技術、特殊なところでは野外活動能力などいくつもの項目にそれぞれ「一対一でゴブリンに勝てればE」などの基準があり、それをクリアしていると判断されれば評価が上がる。
「この基準でいくとわたしは白兵戦でも射撃戦でも最低評価ですね」
「シルヴィアはそもそも騎士ではありませんけれど。……代わりに神聖魔法を使えばゴブリンの集団でも対処できますわ」
騎士団長様が「見せてやれ」とばかりに視線を送ってくるので聖光を放ってデモンストレーション。
空に向かって飛んだ銀色の光に何人かが目をみはった。
ラシェルがふっと笑って、
「わかりやすくていいと思うんだ。ひとまずは新人のみんなにこれでやってもらって、問題がなければ騎士団全部に広めていくよ」
「まだまだ改良も可能ですので、疑問や懸念があればどんどん言ってくださいませ」
みんなの表情を見る限り、みんなの反応は悪くなかった。
「……なんだか、思っていたのと違いました」
「あら。そうですの、先輩方?」
騎士団長から「先輩」扱いされる新人という不思議な現象に発言した少女は笑って、
「ええ。もっと厳格で陰湿なところかと思っていたわ」
「ふふっ。もちろん、評価は厳格ですわよ?」
「そうじゃなくて。みんなが納得できるように、過ごしやすいように。いろいろ考えてくれてるんだなって」
「それはまあ。わたくしたちも苦労してきた側の人間ですので」
男と女ではどうしても違うことが多い。
身体能力の差。生理の存在。服が高額になりがちなこと。多くは根本的解決が難しいし、あまり訴えると社会的に白い目で見られてしまう。
男の多いところでは気にかけてもらえなかったこまごまとした部分。少しでも女性騎士が快適に、長く働けるように気を付けていければとシルヴィアたちは考えている。
「新しいことを試し、よりよい環境を作るように努力いたしますわ」
「ま、予算の都合でできないこともあるけどね」
新人騎士たちからくすくすと笑い声。
「では、寄付をもっと集めなければなりませんね」
「私たちが活躍して騎士団が評判になれば良いのでしょう?」
「ええ。活動に余裕ができれば冒険者や商会への協力により礼金も期待できます。快適な生活のために先立つものを確保しましょう」
こんな感じで『銀百合』騎士団の新人教育はスタートした。