わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

121 / 216
【番外編】夏の新商品ふたたび

 貴族学校二年目──騎士団始動以前、夏が近づいてきたことを意識するようになってきた頃のこと。

 

「ひどいではありませんか、シルヴィア様。こんないい商品があるのなら紹介してくださいませ」

 

 シルヴィアは国の第六王女イリスから詰め寄られていた。

 彼女の手には聞き取り内容のメモ。

 

「な、なんのことでしょう?」

「リゼット様やアンジェ様から聞きました。なんでも氷のお菓子があるのでしょう?」

「え。……ああ、かき氷のことですね」

「そう、それです。これからの季節にぴったりだと思いませんか?」

「そう言われると、そうかもしれません」

 

 去年、みんなで湖に行った時に神聖魔法で作ったものだ。

 これなら普通に作ることもできそうだとみんな喜んでいた。とはいえ実際に作ったという話は聞かなかったのですっかり忘れていたのだけれど。

 

「では、かき氷の屋台を?」

「ええ。氷を作る魔道具でしたらありふれていますので、元出もあまりかかりません」

 

 氷を作る道具がありふれているというのもすごい。さすが王女様。あと、それを考えると冷凍冷蔵庫がいかに高度かもわかる。

 

「削るのが大変ではありませんか? 細かく削れないと食感が悪くなるかと」

「そこなのです。上手い作り方をご存じないかお伺いしたいと……」

 

 なるほど、と、シルヴィアは頷いた。

 

「そうですね。簡単な機械──工具のようなものを使ってはいかがでしょう?」

「と、言いますと?」

「氷を挟んで固定して刃に当て、回転させて削るのです。これなら少ない力で安定して氷を削ることができます」

「なるほど。確か似たような工具はあったはずですから、発注すれば短期間で作れそうですね」

 

 要するにシンプルなかき氷器。

 シルヴィアの前世ではもはや電動のものを使うかお店で食べるのが主流だったけれど、テレビで見たことはある。

 イリスは忘れないようにすぐさまメモを取って、

 

「ソースはジャムを使うのですよね?」

「ええ。具材の形が残るくらいのものも贅沢で美味しいですが、節約や保存を考えるのであれば液体状にしたものを水で割るのがよいかと」

 

 簡単なシロップの出来上がりである。

 薄める前の状態で、一日に使う分ごとに瓶詰めして保存しておけばある程度はもつ。砂糖は塩と同様に天然の保存料である。

 

「砂糖をたっぷり使うとなるとそれなりのお値段になりそうですけれど……大丈夫ですか?」

「問題ありません。果物と砂糖で釣ってタダ同然の氷を売る。……とてもやりがいのある商品です」

 

 イリスの笑顔がちょっとこわい。

 なんというか、神様から「商人が向いている」とお墨付きをもらうだけのことはある。

 砂糖は上白糖を使いたいところだが、どうせ溶かしてしまうのだしざらめ的なやつでもいいだろう。果物も潰してしまうわけだから、貴族の食べない格落ち品を使えばいい。

 

「暑い夏、かき氷はさぞかし売れることでしょう。夏の名物になるかもしれません」

「あはは……。多少は水分補給になりますし、そういう意味でも悪くないかもしれませんね」

「ありがとうございます、シルヴィア様。こちらも以前と同様の契約で利益をお分けいたしますね?」

 

 それからイリスに請われてかき氷のバリエーションについて思いつくかぎり喋った。

 基本的にはシロップをあれこれ試すのがいいだろう。複数の果物で作って段階的に展開していけば他店が真似をする隙を与えず人気を維持できる。

 削り方によってふわふわ氷を作れることも伝えたけれど、さすがにこれは玄人向けというか、作る職人さんが大変かもしれない。

 それとも鉋的なものを組み込むだけなら意外と簡単なのだろうか?

 

「夏バテ防止というと、欲を言えば塩分も取って欲しいところですけれど……」

「あら、もしかして他にもなにかお考えが?」

「いえ、そこまでは。でも、塩気と水分のある物があってもいいかもしれませんね。煮込み料理のような」

 

 モツ煮? 豚汁? 芋煮? ……だめだ、この手のものはぜんぶ味噌や醤油前提で成り立っている。

 スポーツドリンクの類は調整が大変そうだし。

 昔の日本はなにで夏バテ防止をしていたんだったか。たしか甘酒? うん、これも酒粕か米麹が必要。

 なにかこう、飲みやすくて栄養も取れるスープ的なもの。

 塩分やミネラルだけならポテチのフレーバーに海苔でも追加すれば……いや、だめか。海苔は作るのが大変すぎる。

 待った。確か珍しい食材の中にあれもあった。

 

「……昆布出汁?」

「? いったいなにを思いつかれたのですか?」

「いえ、ええと。ちょっとすぐには準備ができないので、日を置いてまたお会いできませんか?」

 

 一週間ほど待ってください、本当の夏バテ対策をお見せしますよ。……じゃないけれど。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「ああ、あれ? あれなら乾燥させたのがいくらか残ってるけど」

「さすがマリー! あのね、それをスープに使えないかな?」

 

 両親の弟子となって料理の道を歩んでいる旧友──マリー。

 錬金術師の才能を持つ彼女は偶然か必然か、昆布を乾燥させて保管していた。

 

「いいけど。あれ、ぬるぬるしてて具材には向かないと思うよ?」

「あれはあれで使いようによっては美味しいと思うんだけど……そうじゃなくて、出汁、ええっと、つまりスープに味をしみこませるのに使うの」

「ふうん? よくわからないけど、とりあえずやってみよっか」

 

 両親も交えて何度か試作してみるとそこそこいい感じに昆布出汁のスープができた。

 ちょっとひと味足りない気がするのは工程のせいか、昆布の種類か、それとも。

 

「ね、マリー。この海藻って室内干し?」

「そりゃそうだよ。外に置いておいたら汚れがついちゃう」

「なるほど。やっぱり天日干しが必要かも」

 

 せっかくなのでそっちも試してみたい。

 マリーを連れて市場へ。

 

「ほんと、シルってば突然変なことしだすよね。あんななにも具がないスープほんとに売れるの?」

「でもいい味出てたでしょ?」

「うーん。なんか味がするのはわかったけど、すごく美味しいってほどでも」

「そこは『夏の暑さに負けにくくなる』って売るから大丈夫だよ」

 

 前に昆布を売ってくれた商人とコンタクトが取れたので、また手に入ったら売ってくれるように頼む。

 

「珍味としてたまに運んではきていたが、あんなものどうするんだ?」

「少々、料理に使えないかと思いまして。調達してくださればあるだけ購入いたします」

「あるだけ!? そういうことならもちろん協力させてもらおう」

 

 イリスにも(とりあえず室内干しの昆布で作った)出汁を飲んでもらったところ「複雑な味わいですね」との感想。

 

「これで夏の暑さに負けにくくなるのですか?」

「ええ。夏は汗をかきますので、汗の成分に近いものを摂ると体調不良を防げるのです」

「なるほど。夏の外出は本当に暑いですものね」

 

 魔道具による冷房完備の生活が当たり前の王女様らしい感想。

 

「それで、シルヴィア様? その海藻は調達可能なのでしょうか?」

「ひとまず顔見知りの商人に買い付けの話をもちかけました。生の海藻を日光下で干すとより味わいが深くなるはずです」

「さすがシルヴィア様。では、今年の夏はかき氷と昆布出汁で勝負しましょう」

 

 売れたのはかき氷のほうだったけれど、昆布出汁もじわじわと効能が広まったのかそれなりに売れ、シルヴィアとイリスの懐は地味に潤うことになった。

 そこから昆布を使ったスープ、そしてさらなる調理法が少しずつ貴族の料理人にも広まっていくことになるのはまた別の話。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。