わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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【番外編】『銀百合』騎士団の噂話

「こうしてお前と酒を飲むのもいつ以来か」

「お互いに歳を取ったものだな」

 

 騎士学校で教鞭を執っている『彼』は、ある日、かつての戦友から酒に誘われた。

 使用人を排した、まるで若い頃のような気兼ねのない乾杯。

 ぐっとエールを煽るとなんとも爽快な気分だった。

 

「美味いな」

「だろう? エールは樽で用意した。つまみもたっぷりあるからな」

「おいおい。大盤振る舞いだな」

「なに。もう金の使い道もそうないんだ」

 

 妻に先立たれた友人にとって仕事と酒がなによりも楽しみなのだ。

 子供達もそれぞれに独立した今、こうして友と酒を飲むのも自由だけれど同時に寂しくもある、というわけか。

 

「潰れたらベッドまで運んでくれよ」

「おいおい。先生がそんな事でいいのか」

「あいにく明日は非番なんでな」

「教師は休みが取りやすくて羨ましいな」

「そういうお前は大丈夫なのか?」

「酒に弱くて騎士が務まるものか」

 

 暴論ではあるが、彼らが若い頃は先輩方からしこたま飲まされるのが恒例だった。もちろん、だからといって翌日の訓練が免除されるわけではない。

 時には先輩方と一緒に青い顔をしながら必死に身体を動かしたものだ。

 

「で、どういう風の吹き回しだ?」

「なに。最近調子はどうかと思ってな」

「つまり、俺から何か聞きたい事があるってわけか」

「バレたか」

「その程度、察しがつかないとでも思ったか」

 

 すると、旧友はしばらく間を置いた後で静かに尋ねてきた。

 

「どうだ? 『銀百合』は」

「ああ、やっぱりその件か」

「そこまでわかっていたのか?」

騎士学校(うち)からは騎士団が近いからな。大方、近くにいないとわからない情報が欲しいんだろう?」

「まあ、な」

 

 苦笑して酒を呷る旧友。

 

「気に入らないのか?」

「いや。……いや、完全に許せるかと言えば違うがな。その金をこちらに回してくれればもっといい環境が得られるのに、とは思う」

「騎士団がもう一つ出来た事自体にはさほど思うところはない、か」

「華がなくなって暑苦しくなったのは事実だが、同時に気を遣う必要もなくなったからな」

 

 昔は上役からの下品な冗談は笑って受け止めるのが騎士団内の常識だった。

 しかし、強い女騎士が異を唱えたり、女に不必要な性的接触(セクハラ)を繰り返した男性騎士が距離感を誤って覚えた結果結婚相手に困ったりといったあれこれがあって徐々に待遇が改善。

 女からすればまだまだ不遇だと言うが、男は男で面倒を強いられていた。

 男同士、好きに軽口を叩けるようになったのは良い事かもしれない。

 

「で、どうなんだ?」

「……そうだな。と言っても、訓練場の様子は騎士学校からも見えないんだが」

 

 訓練内容を秘匿する意図もあるのだろう。

 掛け声がしっかり聞こえてくるものの、訓練の様子は正門からもほとんど覗く事ができない。隣接しているとはいえ、騎士学校との間には高い壁があるため覗くのは至難。

 

「中に入った事はないのか?」

「ある。正規の手続きを踏めば男でも歓迎される。立地上、協力する事も多くなるからと何度か相談に行った」

「どうだったんだ?」

「ああ。……少なくとも、そちらのような汗臭さとは無縁だな」

 

 旧友の手にしたフォークが肉料理を突き刺した。

 

「訓練は、していないのか?」

「汗のにおいはするさ。だが、男と女では汗の質が違う。……さらに言えば、構成員の年齢層がだいぶ違うだろう?」

「っ」

 

 女騎士は多くが結婚を機に引退する。

 男性騎士の中には老齢にさしかかった者もそれなりにいるが、女騎士は圧倒的に若い。

 いわゆる加齢臭とは無縁というわけだ。

 

「建物が新しいのもあるだろうな。加えて毎日掃除が行われている。……掃除婦が獣人なせいで獣の毛はあちこちに落ちているが」

「何故、わざわざ獣人を掃除婦に?」

「可愛いからと戦略家殿が連れてきたらしい」

「……あの若い女男爵は頭がおかしいのではないか?」

「そう言うな。獣人というのは案外悪くないものだぞ。清潔にしている個体ならば犬猫と同じような愛くるしさがある」

 

 ふさふさの尻尾が歩くたびに揺れる様を思い返して彼は頬を緩めた。

 

「むう。……なら、肝心の戦力はどうなんだ。我々に比べると見劣りするのではないか?」

「見劣りしていると思うか?」

「…………」

 

 黙った。答えないのは自覚のある証拠だ。

 正直なのは良いことだ。認められず、攻撃的な言動を繰り返す者もいると聞く。

 

「騎士団同士、どちらかが潰れるまでの抗争となれば勝つのはお前達かもしれん。そもそもの数が違いすぎる。総力を何よりも重視するのであれば戦力的にはまだまだだ」

「ならば」

「個々の戦闘力においては既に我々の常識を超えていると考えていい」

「馬鹿な」

 

 呟く旧友だが、当人も理解はしているらしい。

 彼は「信じたくはないがな」とため息をつき、

 

「俺はあの子達の大半以上をよく知っている。正直、騎士学校時代のあの子達がここまで伸びるとは思わなかった」

「そこまでか?」

「来年正規騎士となるクレール・エルミートは魔法抜きなら前騎士団長と互角かもしれん。

 エリザベート・デュ・デュヴァリエは一対一ならば前騎士団長に勝る可能性がある。

 イザベル・イストの放つ矢は厚い木板を軽く貫通する」

 

 正規の構成員でない、未だ上級騎士学校の一員である少女達がこれだ。上の者達の実力は推して知るべし。

 

「まあ、今挙げた三人は別格だがな」

「クロヴィス公爵がまだ殿下だった頃、あの方の率いる騎士と決闘をしたのだったな」

「ああ。……正直、あの三人に関しては騎士学校時代から『こいつらは間違いなく頭角を表す』とわかったよ」

 

 あれからたった数年。

 たった数年で、彼女達は国内騎士でも有数の実力を手に入れている。

 個の力で言えば並の男性騎士をはるかに上回っているだろう。

 

「『銀百合』は飯も美味いぞ。歳が近いせいか騎士学校の生徒にも親身になって接してくれるし、子供達からの評判もいい」

「やけに褒めるじゃないか」

「そちらの騎士団長様が騎士を派遣してくれないからな。関わりの深い相手に甘くなるのは仕方あるまい」

 

 旧騎士団も人数が減って苦しい状況ではあるのだろう。けれど、騎士学校との繋がりを手放し、あまつさえそれを『銀百合』に渡したのは悪手だ。

 数年後「自分も『銀百合』に入りたい」と訴える男性騎士見習いが出てきたとしても彼は驚かない。

 

「……それほどに差があるのか。これでは我々があまりにも惨めではないか?」

「お前達──いや、俺達が懸命に頑張ってきたのは当然わかっている。だが、事実は事実だ。頑張りだけでは埋められない何かがあるのかもしれん」

「その何かがお前にはわかっているのか?」

 

 睨むように、あるいは救いを求めるように見てくる旧友に、彼は苦笑して答える。

 何もかも包み隠さずに答えるのならば、騎士学校時代から「あの三人」の傍にいた「もう一人」の名を答えるべきなのだろうが。

 

「『銀百合』は体制自体がお前達とは違う。整っている──いや、整いすぎていると言ってもいい」

 

 未だ試用期間中だと言っていたが、おそらく今のままの仕様でも従来の騎士団とは運用の容易さが段違いだろう。

 

「彼女らは騎士をどのように評価し、どのように運用していくのかを公にしている。これによって一騎士からの信用を得ている」

「そんな事をすれば誤魔化しがきかない。いや、絶対的な基準を作るなんて、そもそもどうやって?」

「悪い事は言わない。本当に対抗したいのなら『銀百合』のやり方を盗め。その情報を集め、自分達の運営に活かすよう騎士団長に進言しろ」

 

 有無を言わさぬ口調に、旧友はさらに酒を呷って「わかった」と答えた。

 

「まあ、進言したところであの騎士団長が聞いてくれるかはわからないがな」

「団長が変わって団が若くなった。普通ならば風通しが良くなるはずなのだがな」

「前騎士団長は本当のお歳からは考えられないほど若い方だったからな。いっそ、本当に若返ってくれれば良かったのだが」

 

 ため息をつく苦労人を見て、彼は「ま、飲もう」と優しく声をかけた。

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