わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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いわゆるひとつの修行というやつ

 よく見るとアルファベットだこれ。

 物凄く崩した筆記体なうえに文字ひとつひとつが大きいのでわかりにくいけれど、繋げると神聖なイメージのある単語になるっぽい。

 左右対称になっていてぱっと見ただの模様っぽいのもちょっとお洒落である。

 

「あら、なかなか綺麗じゃない」

「言っている場合じゃないでしょう、ヴァッフェ! これはあまりにも目立ちすぎます」

「大丈夫よ、ゼリエ。ほら、自分の意思で消せるみたいだから」

 

 念じると光が収まって紋様自体が消える。

 なくなったわけではなく、再び念じるとひとりでに現れる。

 スリスが、はあ、と息を吐いて。

 

「身体に文字や絵を描く、という発想は昔の職場でもありましたけれど……。シルヴィア様はどうしてそんなに落ち着いていらっしゃるのですか?」

「だって、神聖魔法自体が不思議なものでしょう?」

「……シルヴィア様はやはり少し浮世離れしていらっしゃいますね」

 

 シルヴィアと他の人では「不思議」の基準が違うので仕方ない。

 

「とにかく、アンジェリカ様へ面会依頼をお願い。この『聖紋』? について聞かなくちゃ」

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「お忙しい中、お時間を取っていただき申しわけありません」

「構わないわ。さすがに落ち着いてきた頃合いだもの」

 

 聖女の部屋。

 いつものように三人だけの空間だ。ただ、見慣れた空間に新しい家具や荷物が増えている。

 アンジェが使うこともできるようにいろいろ運び込まれているらしい。

 

「神殿長ったら、以前からかなり私へ仕事を振っていたみたいね。おかげで覚える仕事が少なくて助かったわ」

「ただ、アンジェリカ様が外出なさるとその分、仕事が滞ることになりますので……。私が遠征を代行する必要がありそうです」

「早急に書類仕事や下への指示出しができる聖職者を育てないとね」

「魔物討伐に関しては陛下や『銀百合』にもご相談ください。お手伝いできると思います」

「ありがとう。……それで、シルヴィアから会いたいなんて珍しいけれど、いったいどうしたの?」

「はい。実は、これについてお教えいただきたいのです」

 

 言って、シルヴィアは聖紋を顕にする。

 手のひらにまで及ぶので服を脱がなくても十分、その意味は伝わった。アンジェが目を丸くし、アンジェリカはむしろ納得したような表情。

 

「そう。やっぱり、あなたにも聖紋を持つ資格があったのね」

「聖紋……。聖女だけが持つ、神の愛し子の証を、シルヴィア様も」

「ということは、アンジェリカ様もお持ちなのですか?」

 

 前に裸を見せてもらった時はなかったはず。

 

「あなたと同じように普段は消しているの。神殿内ならともかく、外の者に知られるとややこしいことになるから」

 

 実際にアンジェリカも身体に聖紋を浮かべてくれた。

 光の色が微妙に異なるものの、そこから感じる雰囲気は同じだ。

 

「ごめんなさい。これについてはあなたにも秘密にするしかなかったの」

「いいえ。……それより、アンジェ様も聖紋をお持ちなのでしょうか?」

「アンジェはまだよ。通常、聖女は就任時に聖紋を授かるから」

 

 ということは、勝手に浮かび上がるものではないのか。

 シルヴィアの思考を読み取ったようにアンジェリカが頷いて、

 

「幼い頃から神のお力に触れ、身体を慣らしてきた私たちと、急激に神のお力に身を浸したあなたでは過程が少し異なるのでしょうね」

「あの。授かるというのは神から、ということですか?」

「そうだとも言えるし、そうでないとも言えるわ。……聖女はね、先代から役割を引き継ぐ際に特別な修行をするの」

「この国で一番高い山に登って、とある種族と会うのだそうです」

 

 アンジェの言葉で、シルヴィアの脳裏に山の位置、そして種族の名前が浮かび上がる。

 

()使()

「そう。この国で唯一、天使と接触可能な場所よ」

 

 天使。

 エルフや魔族と同じく上位種に位置づけられる種族だ。

 長命であるのも他の上位種と同じ。他の特徴としては()()()()()()()()()()()()。その背に羽毛の翼を備えていること。

 さらに、天使はエルフや魔族と違って独自の国を持たず、高い山の上に集落を作って生活していることが多い。

 ある意味、魔族以上に接触することが稀な存在である。

 

「では、天使に会って聖紋を授かるのが『修行』なのですね」

「そういうこと。私も聖女になる際に山へ登ったわ。……その時のことは詳しく覚えていないのだけれどね」

「たしか、天使は相手の記憶を操ることがある……のですよね?」

「ええ。だから、彼女たちがどのような暮らしをしていて私になにを告げたのか、私はおぼろげにしか覚えていないの」

 

 ファンタジー種族のくせにセキュリティ意識がしっかりしている。

 

「アンジェリカ様。シルヴィア様に聖紋が現れたのは、その。次代の聖女に相応しいのは私ではない、ということなのでしょうか?」

 

 アンジェが不安げに視線を向けると、アンジェリカは微笑んで首を振った。

 

「そんなことは絶対にないわ。私はアンジェ以外を後継者にするつもりはないし、シルヴィアだって嫌だと言うはずよ」

「はい。……その、正直そんな余裕はないと申しますか」

 

 あまりにも率直な返答にアンジェまでふっと笑みをこぼす。

 

「ありがとうございます、シルヴィア様。アンジェリカ様。少し心が楽になりました」

「なら良かったわ。最近忙しかったから心が疲れているのかもね」

 

 シルヴィアだけでなくアンジェにも休息が必要だったか。

 

「シルヴィアにも聖紋が現れたのも、もしかすると神のお導きかしら。アンジェに『修行』に行ってもらういい機会かもしれないわね」

「アンジェリカ様、引退なさるおつもりですか?」

 

 彼女が神殿長になってアンジェが聖女に就任する。そうすると収まりはいいし、アンジェリカも巫女であることには変わりない。

 聖女でなくなっても通常の最高位──太陽巫女の地位があればぶっちゃけ今と大差ない。

 

「そうね。別に引退してもいいのだけれど、時期をすぐと決めてもいないわ。ただ、アンジェに本格的なお手伝いをお願いする兼ね合い」

「確かに、それなら先に修行しておいたほうがいいかもしれませんね」

「それにシルヴィアも天使のこと、気になるでしょう?」

「そうですね。正直、気になります」

 

 ヴァッフェたちが口にした内容と総合すると、シルヴィアがなりかけている上位種がなんなのかもおのずとわかる。

 なら、その種族に会っておくほうがいいはずだ。

 シルヴィアの返答に、アンジェリカは頷きを返して、それから少し考えるようにした。

 

「それなら、シルヴィアが貴族学校を卒業した後にしましょうか。正式な代替わりはまだだから焦る必要はないわ」

「あの山に登るとなるとしばらく都を離れることになりますものね」

 

 どうせほんの数カ月後だ。

 あれこれ準備している間にすぐその時が来るはず。

 アンジェもほっとしたように胸に手を当て、

 

「シルヴィア様とご一緒なら心強いです」

「ふふっ。……いいわね。私の時は一人だったもの」

 

 懐かしそうに目を細めたアンジェリカが独り言をこぼすように、

 

「これからは同世代の見習いが複数現れることも出てくるかもね」

 

 これもまた、人間の進化と無関係な話ではないのだろう。

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