わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「『銀百合』に隣接する形であれば好きにするが良い。ただし、魔物の侵入に対して脆弱となる事があってはならぬ」
「ありがとうございます、陛下。外壁の設置に関しては十分に留意いたします」
というわけで、王からの許可はあっさりと出た。
城から出費してもらう必要はないし都の外だし、門のない方角だから通行の邪魔にもならない。
あとはちゃんと壁を設置できるかどうか、という問題。
「魔法を用いても、広い石壁を作り出すのはかなり大変なのですが……」
許可を得たシルヴィアはさっそく次の休日に壁の建設を行うことにした。
騎士団の隣に作るので移動は簡単。
都の外周にあたる壁は厚く造られており、上部には弓手や伝令が通行したり腰を落ち着けられるようになっている。
内側にある足場を利用して登ったら、向こう側に飛び降りるだけでいい。高いので着地の際にはリゼットの魔法に助けてもらった。
幸い付近に魔物の姿はなし。
護衛として来てもらったイザベルと、確認のためにやってきたエリザベートは壁の上に。
「神様の魔法は手順をぽんと飛び越えますので」
答えて、シルヴィアは右の手のひらをまっすぐに伸ばした。
「《石垣》」
神の言葉──日本語の発生に応じて銀色の光が地面に降り注ぎ、徐々に持ち上がるようにして石づくりの壁を形成していく。
できあがったのは長さ三メートルほどの石垣。
すなわち、日本のお城なんかに見られるような壁である。
作り上げられたそれを見て、リゼットはほう、と感嘆の吐息。
「同じことをしようとすればかなりの魔力が必要でしょうね」
「つくづくシルヴィアは変なことをしますわね。……まあ、一般的な石壁よりはだいぶ雑ですけれど」
この世界、というかこの国で使われている石壁は石材を均一にカットしてブロック状にしたものを積んでいくので、シルヴィアの作った石垣よりも断然形が整っている。
当然端材も大量に出てコスパは悪いはずだけれど……天然の石地が魔力で回復するこの世界だからこそという部分もあるだろう。
「でも、ひと目見た印象よりはだいぶしっかりしているみたいです」
そう。
石垣も馬鹿にはできない。当然、ちゃんと崩れないように組まれている。むしろ石同士が噛み合うので崩れにくさでは上かもしれない。
「ひとまず魔物の侵入を防ぐには十分でしょ? ちゃんとした壁は後から作ってもいいんだし」
魔物の接近を防ぎながら石壁を立てるとなると職人も大変だし費用も大きくかかる。この方法なら費用は大幅カットだ。
リゼットも微笑んで頷いて、
「作物を育てるのであれば下に石畳を敷く必要もありませんし、敷地は簡単なもので十分なのですね」
「はい。作業を進められる状態にするまで、これなら一日で持っていけるかと」
続けて魔法を使っていけば壁はどんどん伸びていく。
「後は土がどの程度適しているかだね。場合によっては土を運んでくることも検討しないと」
「土壌の品質改良であれば魔法もお役に立てるかと」
細かい性質変化は条件指定のしやすい魔法の領分だ。
できあがった土壌をさらに神聖魔法で祝福してやれば生育に適した条件にかなり近づけられる。
しばらく眺めていたエリザベートが呆れたように肩をすくめて、
「シルヴィアとリゼット様がいればたいがいのことはできてしまいそうですわね」
なお、この作業の結果を見て、リゼットの助手であるアンと植物研究所の所長となるロゼは歓声を上げてくれた。
◇ ◇ ◇
「ありがとうございます、シルヴィア様! まさかこんな短期間で土地が確保できるなんて!」
「まだ仮の囲いを作っただけですけれど、魔物の侵入は十分防げると思います。土地の開墾や研究所の建設は相談しながらやっていきましょう」
「はい! ……ああ、これからが楽しみです!」
ロゼにはひとまず騎士団寮に一室をあてがった。
なにせ隣なので現場にはそこから通ってもらうのが近い。
仮の小屋を立てるよりは寝泊まりするのに不自由しなくてすむ。
「仮の役職として、ロゼには『銀百合騎士団』魔法課に所属してもらいます」
リゼットが責任者を務める魔法関連専門部署だ。
今まで構成員はアン一人だったけれど、これで二人になる。
ロゼも貴族学校を卒業しているし魔法はある程度使える。研究に魔法を使うこともあるのでここに所属してもらうのがちょうどいい。
本人も「かしこまりました」と快諾して、
「ところで、あの、シルヴィア様? 実は騎士団を紹介したい知人が何名かいるのですが……」
「知人? 植物の研究者の方ですか?」
「当たらずとも遠からず、ですね」
新しいことに挑戦するのが好きで両親と馬が合わない農家の次男に、魔法薬の研究をしているけれど予算の関係で困っている魔法使いギルド員、土系の魔法が得意だけれど男が苦手で建築・採掘現場には向いていない貴族令嬢。
「研究の力になってくれるかと思い、現在軽く誘いをかけておりまして。許可をいただければ本格的に口説こうかと」
「設立に際して募集した時はそんな人員、全く引っかからなかったのに……」
「具体的になにをやるか決まっているとだいぶ違いますよ。それに、今は騎士団も動き出して知名度が上がってきていますので」
シルヴィアはこれを快諾した。
もちろん、本当に雇うかどうかは上層部による面接を行ったうえでの判断だけれど。
……結論を言うと全員採用になった。
ひょんなことから魔法を使える人材が増えて騎士団としてもほくほくである。持つべきものは奇人変人とその人脈。
「植物の研究には時間がかかると思いますので気長に行ってください。予算は出しますが、追加に関しては都度相談で」
「かしこまりました。精一杯、努力させていただきます」
時間がかかるとは言ったものの、この植物研究チームは一年目からある程度の成果を挙げた。
難しいのは新しい種を作り出すこと。
別の土地で生育している種を都で作るだけなら土壌や水のやり方、日の当たり具合を整えてやればかなりうまくいく。
ロゼやその仲間たちはこの手の知識に事欠かなかった。特にロゼは買い付けのためにしばらく各地を回っていたし、それ以前から文献等で植物の育て方を読み漁っていた。分野が狭い分、その深さは侮れない。
温室や降水機などが必要なら魔道具でなんとかなる。
騎士団内に魔法課があるとこういう時に「自分たちで作る」と言えるので楽だ。外部に発注するよりもコスパが良い。
「シルヴィア様。魔道具の製作用に魔法使いギルドから人員を引き抜きたいのですけれど、いかがでしょうか?」
「いいと思います。リゼット様とアンだけでは大変でしょうし」
ロゼが言っていた通り、設立前よりもすんなり引き抜きが行われて、さらに騎士団にスタッフが増えた。
もちろん、人件費もそれなりにかかるのだけれど、
「開発した魔道具を外部に販売すれば採算は取れるかと」
アンの使っている絵合わせパズル式補助杖の簡易版を試しに販売したところ、高位貴族の子供の練習用にいくつも売れた。
将来的には、必要だから作った農業用の魔道具も園芸が趣味の貴族などに売れ、人件費をかなりの割合で賄うことに成功。
唐辛子など、買い付けに頼っていた食材を作れるようになるとイリスの商売の幅も広がり──こうなると欲が出てくるのが人間というもの。
「ねえ、シルヴィア? 近場に池かなにか作れない?」
植物の次は魚だ。
釣りにおいて比類ない才能、というか魔法以上に非常識な能力を持っている上級騎士サラからの要望を受け、植物研究所の一角に池が作られた。
数種類の魚が放されたこの池は調理で出た端材を処理したり、疲れた騎士が心を癒やすのに重宝された他、サラが非番の際に釣りをしては食材を増やすのに利用。
サラが釣ると「魚が増える」けれど他の人が釣ると当然魚が減るので、基本的にサラ以外の者は釣り禁止という謎スポットである。