わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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情報収集はすべての基本

「シルヴィア! 本当に心配したんだよ、まる一日以上目を覚まさないし、今日来たら『大事な話の最中』とか言われるし……!」

 

 入り口すぐのホールにて合流すると、親友はシルヴィアの顔を見るなり飛びついてきた。

 間近に黄緑色の綺麗な瞳が来て、

 

「もう大丈夫? 痛いところとかない?」

「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫だよ。むしろお茶とお菓子でお腹がたぷたぷなくらい」

「なにそれ、いったいなにやってたの!?」

 

 なにをどう説明したものか。

 苦笑を浮かべて悩んでいるとエリザベートがクレールの首根っこをぐいっとつかまえて、

 

「復調したのならなによりですわ。昨日一昨日とこの娘の落ち込みようといったらありませんでしたし」

「エリザベート、それは別に言わなくても」

「ううん、ありがとうクレール。すごく嬉しいよ」

 

 素直な気持ちを口にすれば、クレールは感無量といった表情で視線をそらした。

 そっと涙を拭う様子も真っ赤になった頬も丸見えだけれど指摘しないほうが良さそうだ。

 控えめに立っていたイザベルが花束を抱えたまま進み出てきて、

 

「シルヴィアさん、もう一泊されますか? このお花は必要なかったでしょうか」

「わざわざ用意してくれたの? なんだか本当に申し訳ないなあ」

「いいえ、これはエリザベート様からのお見舞いの品です」

「イズ! それは言わなくてもいいでしょう!?」

 

 真っ赤になった公爵令嬢を見てクレールがにやりと笑う。

 つんつんと腕を突かれ「これでおあいこだね」と囁かれると、エリザベートは「納得いかない」という顔で腕を払った。

 はあ、と、ため息の後。

 

「なにがあったのか話してもらえるかしら? 騎士学校の生徒でありわたくしの友人でもあるあなたを拘束したのだから、神殿の意向くらい聞いておかなければ」

「では、私から説明させてくださいませ」

 

 ゆっくりと、白い衣を着た銀髪の少女が歩いてくる。

 一瞬、その姿に見惚れるように硬直したエリザベートはすぐに我に返って、

 

「白の衣……。まさか、聖女見習い様ですの?」

「ご明察の通りです。エリザベート・デュ・デュヴァリエ公爵令嬢様。どうか私のことはアンジェとお呼びください」

 

 神殿内の一室に場所を移してアンジェから説明を受けた。

 他の巫女も数名控えているうえ、セキュリティ的にも聖女の部屋には及ばない。

 外部に出せる話には限りがあるのだろう。シルヴィアに神聖魔法の素質があること、神殿としても丁重に扱いたいこと、そしてゴブリン事件に元巫女が関わっていることが主な内容。

 

 ちなみにラシェルは本日不在。

 上級学校を毎日抜け出してくるのも大変なのでシルヴィアの見舞いはクレールたちに任されたのだそうだ。

 

「なにか策はありませんの? 十中八九その人物が関わっているのなら居場所を特定することも可能でしょう?」

「残念ながら神殿にそこまでの力はございません。ですが現在、城や騎士団、衛兵隊が策を講じているはずです」

 

 神聖魔法は浄化や治療、防御のためのものが多い。

 居場所の探知などは別系統の魔法に属しているため、城から魔術師をあたることになる。

 

「でも、それならどうしてあたしたちにこんな話をするの?」

「なんの説明もなしでは皆さまも納得できないでしょう? それに、相手が皆さまを特別とみなす可能性があります」

「あ……。私たちがあの場を収めたから、ですか?」

「そうです。皆さまがいなければもっと被害が出ていた。邪魔者と判断して今後、狙われてもおかしくありません」

「一度狙われているんですもの。二度目がないとは限りませんわね」

 

 四年生の遠征訓練の件はおそらく偶然だろう。

 けれど、これからはそうもいかない。

 事件が解決してくれればいいけれど、それまでは身の振り方に気をつけないといけない。

 

「わたしたちは学校で訓練だし。そんなに心配ないと思うけどね」

「ラシェル先輩のいる上級学校はなおさら狙いにくいだろうし」

「怖いのは休日と遠征訓練の時くらい、ですね」

「…………」

 

 イザベルの声に一同が押し黙る。

 それこそ二年続けて襲われているのだ。ありそう、と思うのは当然。

 

「十分にお気を付けください。その上で早期の解決を願いましょう」

 

 話が終わる頃にはもう日が暮れかけていた。

 早く帰らないと寮の門限が過ぎてしまう。シルヴィアはアンジェにもろもろのお礼を言って、

 

「あ、この衣は洗って返したほうがいいですか?」

「いいえ、その衣は差し上げます」

「でも」

 

 値が張る品だろうし外部にほいほい流す物でもない。

 けれど返ってきたのは穏やかな笑みで。

 

「神殿にお越しになる際など是非ご利用ください。よろしければいつでも遊びに来てくださいね」

 

 結局、衣の上にマントを羽織って帰ることになった。

 神殿を出て外の空気を吸い込んでいると隣のクレールが頬を膨らませて、

 

「聖女見習い様と友達になるなんて、本当になにがあったのシルヴィア」

「うーん……。わたしが見様見真似で神聖魔法を使ったから『すごい才能だ!』ってなったみたい」

「本当にそれだけ?」

「今のうちに白状したほうが身のためですわよ、シルヴィア?」

 

 二人とも目が怖い。

 イザベルが「落ち着いてください」と宥めてもそれは変わらず、

 

「ごめん。詳しいことは口止めされてて言えないの」

「それ、なにかあったって言ってるようなものじゃん」

「……まあ、仕方ありません。実際、ただの騎士見習いに話す内容ではないのでしょう。ひとまず納得しておくしかありませんわ」

「でもさ、エリザベート」

「どうしてもと言うのなら別の手を使うまでです。違いまして?」

 

 公爵令嬢の笑みを見たクレールは「別の手って?」と首を傾げる。

 

「例えば、わたくしたちで犯人を捕まえるとか、ですわ。有用と判断されれば神殿側も態度を変えるのではなくて?」

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 自分たちで捕まえると言っても無茶はできない。

 

「具体的にはどうするのさ、エリザベート?」

「下手に動けばわたくしたちが上の邪魔になりかねません。となれば、まず行うべきは手近な相手からの情報収集でしょうね」

 

 教師たちに復帰の報告をしたシルヴィアはその足で男子寮に向かった。

 騎士学校の風紀は前世ほど厳しくない。

 互いの合意があれば相手の寮に顔を出すことも簡単だ。

 向かうのは同学年の、ある意味で気心の知れた少年のところ。

 

「ダミアン、いる?」

 

 既に夕食時は過ぎている。

 予想通り、ノックするとすぐ部屋の中から反応があった。「し、シルヴィア!?」ばたばたと片付けか着替えをする雰囲気があって、それからドアが開く。

 寝間着を纏ったダミアン・デュクロが張りつけたような笑みと共にシルヴィアを迎えた。

 

「帰ってきたんだな。体調はもういいのか?」

「うん。ゆっくり休んだからもうすっかり」

 

 少年は頬を染めたまま「そうか」と答える。

 さっきの慌てようからしてえっちな本でも隠したのだろうか。

 彼もそろそろ年頃だし悪いことをしてしまったかもしれない。

 

「どうした? お前が男子寮に来るなんて珍しいじゃないか」

「うん。ちょっと話があるんだけど、部屋まで来てもらってもいい?」

「っ」

 

 やっぱり取り込み中だったのか。

 息を詰まらせる少年を見て「日を改めようか?」と言うと、ダミアンと同室の男子が、

 

「いいから連れてけよ。告白は思い立った時にやるもんだ」

「ばっ!? お前、なんてこと言うんだ!?」

「あはは、そうだよ。そういうのじゃないから安心して」

「…………」

「…………」

 

 何故か少年二人から「マジかこいつ」という目で見られたシルヴィアだったものの、ダミアンは同行を了承してくれた。

 女子寮への道中は何故か気まずい空気が流れて。

 

「いったい僕になんの用なんだ?」

「聞きたいことがあるんだよ。ダミアンじゃないとだめなの」

「ふ、ふーん」

 

 寮に入ったら入ったで女子たちから好奇の視線を向けられた。

 それでもなぜか満更でもない様子の少年を連れて自室に入り、

 

「待っていましたわ、ダミアン」

「こ、こんな時間にすみません」

「あ、お腹空いてたら適当に食べていいよ。多めに買ってきたから」

 

 エリザベート、イザベル、クレールが食事の手を止めないままに彼を出迎えた。

 食事中なのは夕食を取り損ねたからで、部屋で食べているのは食堂の料理の代わりに街で買って来た軽食をとっているからなのだけれど。

 くすんだ赤髪の少年は拳をぐっと握って、

 

「なんなんだよお前ら!?」

 

 なぜか怒られた。

 

 

 

 

 

「……まあ、僕も本気で期待していたわけじゃなかったが」

 

 少年が仏頂面をしつつホットドッグ的なものに齧りつく。

 二人分しか椅子がないので対面にはクレールに座ってもらった。他の三人はベッドの上である。

 同じホットドッグ(仮)はシルヴィアも食べているがこれは美味しい。長いウインナーというのはやっぱり食べごたえがある。

 

「で、話ってなんだよ?」

「他でもありません。ゼリエ・デュクロについて知っていることを教えてくださいませ」

「ああ、なるほど。そういうことか」

 

 用件を聞いたダミアンはため息と共に椅子に背を投げだした。

 

「城の使いからも聞かれたよ。姉上とはもう何年も会ってないっていうのにな」

「ゼリエはデュクロ家に帰っていないんですのね?」

「家から巫女が出るのは名誉だけど家との関りはほぼ断たれるからな。まして途中で逃げ出したんじゃむしろ家の恥だ」

 

 神託には絶対的な意味がある。

 なので、場合によっては一つの家から人がばんばん出ていってしまうことにもなる。

 娘が巫女、息子の一人が騎士適性を得たデュクロ家もなかなか災難である。

 

「デュクロ君はそのゼリエさんがゴブリン召喚できるって知ってたの?」

「知らないさ。姉上とは歳が七つも離れている。僕が生まれた頃にはもう神殿の巫女だった」

「では、ほぼ会ったこともありませんのね?」

「二、三度、家に顔を出した程度だよ。あまり話もしなかったし、聞かされた話も正直、僕にはよくわからなかった」

「具体的には、どういったことを聞かされたんですか?」

「だいたいわかるだろ? 人間の国も女が治めるべきだっていう戯言だよ」

 

 少年の返答にシルヴィアたちは一斉に黙った。

 家父長制の強いこの国においては確かに戯言だ。けれど、権力の強い側にそれを言われるのは弱い側として良い気分じゃない。

 ただ、言い返しても何にもならない。

 

「姉上は小さい頃から変わっていた。神託で職業が決まることにも『なんで?』と異を唱え、巫女になってからも『この国はおかしい』と事あるごとに言っていたらしい。変な考え方に取り付かれていたんだよ」

 

 シルヴィアから見ればおかしいのはこの国のほうだ。前世の日本では男女平等が掲げられていた。そのうえ今、不自由な側にあるのだから不満はある。

 上位種の事情を思えばゼリエの主張はむしろ正しく思える。ただ、正しさというのは環境や教育によって簡単に変わる。

 

「おかしいだろ? 男がいなきゃ女は子供を産めないんだ。力だって俺たちより弱い癖に」

「デュクロ君、それくらいにしなよ。そういうのはあたしに剣で勝ってから言って」

「っ」

 

 少年を制止したクレールはいつになく真剣な表情をしていた。

 気圧されたように口ごもった少年は「なんだよ」と吐き捨てて、

 

「エルミート。雌種優性思想(ししゅゆうせいしそう)は異端だぞ」

「知ってるよ。だけど、頭から『駄目だ』って言わなくてもいいじゃない」

「はっ。僕だって姉上が罪人になんてならなきゃもう少し歩み寄れるさ」

 

 思想として正しいとしても、支持者が犯罪行為に手を染めたのでは印象は悪くなる。

 ゼリエも「他にどうしようもない」と考えたからこそ極端に走ったのだろうけれど、世の中は本当にままならない。

 

「もういいかい? あまり話していて気持ちのいい内容でもないんだ」

「うん。ごめんね、ダミアン。こんな時間に呼び出して」

「ああ。次はもう少し楽しい話にして欲しいな」

 

 しっかりとホットドッグ(仮)を食べきった少年は席を立ち、ドアの前までたどり着いてから、

 

「そもそも、ゴブリンを呼ぶ程度の力で世の中を変えられるわけがない。姉上は遠からず捕らえられて処刑されるさ」

 

 その声には複雑な感情が入り混じっていた。

 よく知らないとはいえ実の姉。面白いはずがない。

 少年を見送った後、シルヴィアは自分の分の軽食を齧りつつため息をついた。

 

「処刑なんて聞いちゃうと『早く捕まればいいのに』とも言いにくくなるね」

「シルヴィアは気にし過ぎですわ。罪人は罪人。無暗に許されるわけではありません」

「でも、確かにゴブリン程度じゃ国家転覆は難しいですよね?」

 

 イザベルの指摘に、シルヴィアはあの時出会ったゼリエ(?)の姿を思い起こしてみる。

 急なことだったのでしっかりとは確認できなかったけれど、ローブ姿の人物には確かに好感度表示が付随していた。

 数字は残念ながら思い出せない。

 見なかったのではない。今思えば、表示が()()()()()()うまく判別できなかった。

 だとすれば、それはどういう意味なのだろう。

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