わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「シルヴィア様、ご相談があるのですが……」
「卒業後、騎士団でお手伝いをさせていただけないでしょうか?」
年末が近づいてきた頃、三年生のご令嬢から複数、卒業したら『銀百合』に務めたいとの申し出があった。
なんだか最近大人気である。
シルヴィアは平静を装いつつティーカップを手にし、尋ねた。
「なにかご事情がおありなのですか?」
「事情、というほどのことではないのですけれど」
「結婚までに少々期間が空いてしまいそうですので、その間、なにかできることがあればと……」
多くの令嬢が卒業後は結婚に向かう。
けれど、全員がすぐに結婚できるわけではない。相手が決まっていてもお互いの事情で婚期を遅らせることもけっこうある。
例えばお相手のお兄さんがまだ結婚してないのでそれを待つとか。お相手が遠方で仕事をしているので帰ってくるまで待つとか。後は結婚式のタイミングが他とかぶらないよう調節するためとか。
神託で『◯◯夫人』と出た者はたいがい手に職を持たない。一年とか二年とか短い間だけ従事できる仕事を求めているわけだ。
「『銀百合』騎士団内であれば男性がほとんどおりませんから、身の危険も少ないでしょう?」
「そうですね。裏方であれば戦いの場に出ることもありません」
騎士団側としても人手は多い方がいい。
欲を言えば長く務められる人材が欲しいところだけれど、そこは使いよう。
短期の人材に当たり障りのない仕事を任せて幹部クラスに重要な仕事を振るのは現代日本でも当たり前に行われていたことだ。
「かしこまりました。騎士団長に相談してみようと思います」
「本当ですか? 是非、よろしくお願いいたします」
「ええ。……もちろん、採用の前に面接等を行うことになると思いますが、そちらはあらかじめご了承くださいませ」
エリザベートやラシェル、リゼットも新規採用には賛成の意を示した。
「その場で釘を刺してくれたのも助かりますわ」
「全員採用するわけにもいかないだろうしね」
「噂を聞きつけて他の方が希望を出さないとも限りません」
相手も貴族令嬢なので能力以外に派閥の問題等もある。
シルヴィアに恨みを持っていそうな王権派貴族はスパイの可能性もあるし騎士団内には入れられない。
「面接の時、イリス様にも来てもらえないか相談してみようかな」
「是非お願いしたいですわね。もしかすると何人か引き抜かれるかもしれませんけれど」
「いいんじゃない? イリス殿下の商会はもう騎士団と提携してるようなものだし」
その後、さらに何人かの令嬢から応募があり、面接の結果、騎士団で三名、イリスの商会が二名を採用することになった。
騎士団に採用された者は一人が事務仕事を、一人が魔道具を使った清掃を、一人が食堂の仕入れ管理と魔道具の手入れに。
短期で結婚していなくなってしまう人材なので毎年、卒業が近づいてきた時期に貴族学校で募集をかけ、順次入れ替えていくことにした。
◇ ◇ ◇
年末。
貴族学校が終わってシルヴィアたちの手が空くと、騎士団に珍しい来客があった。
「これが新しい騎士団なのね……!」
「あそことはなにからなにまで大違いだわ」
二十代後半から三十代の御婦人方。
多くが背が高めで、どこか貫禄のようなものを感じさせる人たち。これは、すでに出産と子育てを経験していることだけが理由ではない。
「私たちの頃からこんな騎士団があればね」
「もう少し騎士を続けられたかもしれないのに」
彼女たちは元騎士。結婚によって騎士団を離れた者たちなのである。
「みなさま、未練がおありなのですね」
主だった応対を買ってでてくれたのは上級騎士のマルグリット。
『銀百合』構成員の中ではかなり年長の彼女は元女性騎士の皆様ともかなり面識がある。その表情はどこか懐かしそうであった。それも、お互いに。
「立派になったわね、マルグリット。もう私じゃ勝てないかしら」
「試してみますか? あの頃の私ではないことをお見せできるかと」
「……あら。そう言われると血が騒いでしまうわ」
元騎士からの見学依頼はもちろん快く受け入れた。
これもスパイの可能性がないとは言えない──彼女たちの夫が男性騎士だったりするので危険はあるのだけれど、機密の置かれた場所には案内しないし、あまり排他的になるのもまずい。
なぜなら、
「トー子爵。私たちが復帰を希望しても騎士団は受け入れてくれるのかしら?」
「もちろんです。『銀百合』は人数が少ないので、戦力が増えるのは大歓迎ですよ」
「もちろん、感覚が戻るまでは訓練漬けになってもらいますけれど」
うまくいけば仲間が増える。
シルヴィアの返答にマルグリットが補足すると、ご婦人たちの目が輝いた。
「……復帰すれば、もう一度剣を振るえるのね」
神託で『騎士』に選ばれた者は合計九年の学校生活を経て騎士団に入り、任務に追われる生活を送る。
結婚してからは出産や子育てで体型を維持するための運動さえ十分にはできなかっただろうけれど──七歳から培われてきた感性はそう簡単に変えられるものではない。
剣を振りたい。己の技を磨きたい。
一度は辞めた騎士。それでもその道を、子供がある程度大きくなった今、再び歩んでみたいと思う者は少なくないらしい。
「皆さまは豊富な経験をお持ちなのでしょう? それを今の騎士に分けていただけたらどれだけの力になるか、想像しようとしてもしきれません」
「あら。今の女騎士はとても強いと聞いているけれど、私たちなんかに教えられることがあるかしら?」
「単純な力や技とは異なる『強さ』がベテランの方々にはあると思っております」
「……『銀百合』の専属戦略家殿は人を口説くのがお上手ね」
見学会は好評のうちに終わった。
本人たちが希望していても家の人間が許すとは限らない。見学に来てくれた者の何割かとは連絡が途絶えてしまったけれど、何名かは見事、復帰の許可を勝ち取って喜びの連絡をくれた。
翌年四月付での騎士団復帰。
復帰に備えて、ということであらかじめ寮に荷物を運び込んだり訓練に参加する者もいて、騎士団の賑わいがまた少し増した。
新人騎士を対象に導入した独自の評価システムも好評。いくつかの改善点を加えたうえで上の騎士たちにも段階的に適用し始めている。
「これなら、四月からはもっと賑やかになるね」
「ええ。……はっきり言って、次の新人たちはかなりのじゃじゃ馬ですわよ?」
次に入ってくるのはとうとう、シルヴィアたちの同期である。
騎士学校の四年生時点からクレールたちの鬼のような強さを目の当たりにしてきた彼女たちは、はっきり言ってそれまでの世代とは意識がだいぶ異なっている。
『女でも男に勝てる』
男子一位のダミアン・デュクロがクレールに負け続けたことで培われたその観念は女性騎士見習いの全体的なパワーアップに貢献。
目立つ三人娘のせいでなかなか注目はされていないものの、粒ぞろいの精鋭に育っている。
剣術馬鹿のクレールもうきうきした表情で、
「楽しみだなあ。みんなこれからもっと強くなるだろうし、ライバルが増えるよ」
「本当に、それで喜べるんですからクレールさんはすごいです」
年末にシルヴィアの誕生パーティが少し豪華に行われて。
年が明けるともう、卒業まではあっという間だった。