わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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卒業式と成人式が一緒に来た感じ

「こうして卒業の日を迎えられたこと、なによりも嬉しく思います」

 

 貴族学校の卒業式。代表として挨拶をしたのは第六王女イリスだった。

 彼女が『殿下』と呼ばれるのは今日この日まで。

 卒業と同時に成人とみなされ、彼女は伯爵となる。

 もちろん王族から外れても「王の子」でなくなるわけではないのだけれど、学校の寮を出ても居所を城へは戻さず街で暮らすと聞いている。形式上、振るえる特権は小さくなるだろう。

 けれど、イリスの表情は晴れやかだった。

 恵まれた身の上でありながら商いで食べていかなくてはならない。不憫だと嘆く者もいる。

 シルヴィアのように、彼女がそれを心から喜んでいると知っているのは一握りだろう。

 

 貴族学校の卒業式では記念品は配られない。

 画一的な証明の品なんてもう必要ないからだ。正式に貴族の一員となった以上、己の身を飾る品は自ら選んで用意するべきだということ。

 貴族になった証明という意味では国が発行する貴族の一覧に名前が載る。学校の卒業者リストも同様。それがなによりの証となる。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 午前中に卒業式を終えた後は少し間を置いて卒業記念パーティだ。

 いったん部屋に戻ったシルヴィアは式の余韻か、なんとなく名残惜しい気持ちになった。

 

「この部屋とももうすぐお別れかあ」

 

 途中で子爵に昇格したけれど部屋は男爵寮のままにさせてもらった。

 最初はすごく広く感じた部屋が今はとても居心地よく感じる。なんだかんだ物が増えたのと、スリスが加わって賑やかになったせいもあるかもしれない。

 そのスリスは笑顔でシルヴィアを出迎えて、

 

「ご卒業おめでとうございます、シルヴィア様」

「ありがとう、スリス。……ええと、それで」

 

 微笑んで答えたシルヴィアはメイドの準備した「もの」をじっと見つめた。

 

「なんだか物々しいのだけれど」

「はい! パーティの支度は私にお任せください!」

 

 卒業式は制服。けれどパーティは盛装がドレスコードだ。

 一生に一度の晴れ舞台だとスリスはシルヴィア以上に張り切っている。

 

『化粧って、自分でするのも楽しいですけれど、人にするほうが楽しいのだと気づきました』

 

 装うこと、飾ることの才能を『恩恵』で約束された娘は意気揚々とシルヴィアにドレスを着せ、髪を整え、化粧を施してくれる。

 先輩であるゼリエは楽しそうにしつつもサブに回って可能な限りスリスに任せている。

 貴族生まれとはいえ神殿育ちのゼリエは、庶民とはいえ夜のお店で経験を積んだスリスに比べてお洒落に疎いところがある。

 適材適所。

 やがてできあがったシルヴィア(パーティ仕様)は飾られた本人でさえ感嘆してしまうほどの出来栄えだった。

 

「……綺麗」

 

 シルヴィアだってお洒落は嫌いじゃない。

 どうしても値段を気にしてしまうので普段はあまり頓着しないだけで、こういう特別な場では素直に楽しめる。

 鏡に映った自分の姿に、ほう、と息をこぼした。

 

 巫女のイメージからドレスの基調は白だ。

 ただし巫女の衣とパーティドレスでは布の質感が違う。より高級感があり華やかに見える生地にはさりげなくも凝った装飾がされている。

 アクセントとなる花型のアクセサリーは百合を模したもの。

 騎士学校の卒業式でもらって以来愛用している髪飾りともよく合っている。

 仕掛け人のスリスも自慢げな笑み。

 

「はい。シルヴィア様はとてもお綺麗です」

「ええ。これならば会場にいる全員を惹きつけてしまうかもしれませんね」

「もう、ゼリエまで。……階級があるのだからわたしが目立ちすぎるのは困るのだけれど」

 

 正直、悪い気分ではない。

 クレールたちも参加できればよかったのに。さすがに無茶なことを思いつつ、シルヴィアは卒業パーティへと臨んだ。

 

 料理と酒、音楽。

 貴族の宴、真似事どころかそのものと言っていい別世界。

 

 人目を惹きすぎてしまうというのはさすがに杞憂だった。みんなそれぞれに気合を入れまくっているので浮くほど目立つわけがない。

 それでも、たくさんの人が褒めてくれた。

 社交辞令だとわかっていても嬉しい。こちらも笑顔で応え、相手のスーツやドレスを褒めた。ついでに口説いてくる男子はさらりとスルー。

 

「シルヴィア様。ご卒業おめでとうございます」

「イリス様。ご卒業おめでとうございます。とても素晴らしいご挨拶でした」

「想いを素直に述べただけです。私、いまとても解放的な気分なのです」

 

 そうだろうと頷くと彼女はにっこりと笑って、

 

「これで私は伯爵。そして商人になったわけです」

「そうですね。おめでとうございます。ようやく夢が叶いましたね」

「ええ。シルヴィア様も子爵、そして戦略家になられたわけです」

 

 そういえばそうか。

 学生のうちからあれこれやっていたのであまり実感がなかった。

 七歳から国の支援を受けて学校に通ってきた成果。目指してきた『戦略家』にいま、ようやくたどり着いたのか。

 そう考えるとなかなかに感慨深い。

 これからの仕事に思いを馳せるだけじゃなくてちゃんと噛み締めておこうと思っていると、

 

「これからは身分の差のない友人、同士、戦友として仲良くしていただけますか、シルヴィア?」

「……イリス様」

 

 不覚にもうるっとしてしまった。

 仲良くなったことで『イリス殿下』から『イリス様』と呼ぶことが増えた。それだけで十分すぎるくらいだったというのに。

 この優しくて頭のいい少女は「違うでしょう?」と笑って言うのだ。

 

「私のことも呼び捨てにしてください。ね?」

「……階級が近づいても元の身分が違うと思うのですけれど」

 

 手袋を嵌めた指で軽く目尻を押さえて、

 

「はい。これからもよろしくお願いします、イリス」

 

 実際、彼女とはこれからもたびたび顔を合わせるだろう。

 商売の話。人材の相談。戦友という表現はなかなかに的確だ。

 彼女と出会えた幸運を噛み締めなければ。

 

「……そういえば、イリス様。いえ、イリスも結婚の予定はないのですよね?」

 

 尋ねると「ええ」と苦笑が返ってきて、

 

「結婚などしていては商売に支障をきたしますので」

「……女性としては少し特殊な発想ですね?」

「あら。シルヴィア? 私は誰かの妻ではなく商人なのですよ?」

 

 お前が言うなという顔で見つめられた。

 

「求婚してきた方には私の商売を邪魔しないという条件を提示したのですが、難色を示すか形だけ承諾しようとする方ばかりでした。とても残念なことです」

「旦那様としては奥様に動き回ってほしくないのでしょうね……」

「そういったことは少なくとも私より稼いでから言っていただきたいものです。クロヴィスお兄様なんて歌姫を囲っているのですよ?」

 

 あれも特殊な例だと思うけれど。

 

「いっそのことお兄様のところへ嫁いでしまおうか、と思うこともなくはありません」

「クロヴィス殿下の困った顔が目に浮かびます」

「はっきり『渋面』と言ってもいいと思いますよ?」

 

 異母兄弟での婚姻は異例というほどでもないのでいいとして、イリス相手だとクロヴィスは食指が動かなさそうだ。

 そのほうがお互いやりやすい、と、白い結婚のままいきそうである。

 それはそれで確かにイリスにとってやりやすそうな──と。

 

「ごきげんよう、イリス殿下。いいえ、イリス伯爵。これからは対等のお付き合いをさせていただいてもよろしいかしら?」

「……カトレア様」

「ごきげんよう、カステル伯爵令嬢。いいえ、歌姫カトレアとお呼びしたほうがよろしいでしょうか?」

 

 赤のドレスで着飾ったカトレア・カステル伯爵令嬢がほんのり赤い顔でやってきた。

 酔ってイリスに絡むとか大丈夫なのかこの娘。いちおう今日いっぱいはまだ王女様なのに。

 対するイリスが「商売をお手伝いしていただく日が来るかもしれませんし」とでも言いたげに穏便な対応なので少しだけほっとした。

 

「あの、カトレア様。とりあえずお水を飲みましょう」

 

 なんだかんだ楽しく過ごすうちに卒業パーティは宴もたけなわを迎えたのだった。

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