わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
好感度の下がらなくなる効果がどういうものかは詳しく検証したことがない。
例えばクレールへ徹底して冷たい態度を取ったら。
それでも変わらない態度を取り続けてくれるのだとしたら、それはもう洗脳の域だ。
たぶん、好感度というのはそうじゃない。
好きなのは変わらなくても苦言は呈するし、嫌なことは嫌だと言う。好きな人だからこそ許せないこともある。そういうものだと思う。
だから、クレールたちが受け入れてくれるとは限らない。
受け入れてもらえる前提で口にするのも卑怯だ。
誰かが、あるいは全員がノーと言っても仕方ないと覚悟を決めて、
──はあ。
エリザベートのため息にびくっとした。
濃い金髪に紅の瞳。ちょっと目つきがきつめなのもあって、真剣な顔をしていると怖く見えることがある。
お嬢様は「呆れた」と言いたげな表情を浮かべて、
「つまり、シルヴィアは自分のための
ハーレム。大奥。
権力者のやることはだいたいどこも一緒だ。国家元首の血を絶やさないようにするという意味でも合理的ではある。
だからこそ、それを国王以外が、しかも同性同士でやろうとするのは特殊すぎる。
ゲームやマンガやラノベでほいほい形成されるので感覚がおかしくなっているだけだ。
それでも、
「……うん」
はっきりと頷いて答える。
「ごめんなさい。わたしには一人だけ、なんて選べない」
「そう」
もう一度ため息をついたエリザベートはゆっくりとシルヴィアに歩み寄って──ぷに。人差し指で柔らかな頬を突いた。
「わたくしたちに『一番』を要求しておいて、それは本当にわがままですわね」
「うん、わかってる。……怒られてもしょうがないって思う」
やっぱり、この要求はさすがに虫が良すぎた──。
「別に、それでも構いませんわ」
「え?」
あらためて見つめると、エリザベートは苦笑を浮かべていた。
「あなた、わたくしたちが本当に気づいていないと思っていたんですの?」
「いや、みんなの気持ちはもちろんわかって……え? あれ?」
くすり。
もうひとりの公爵令嬢。黄緑色の髪に紫の瞳を持つハーフエルフの少女が笑みをこぼした。
「この日のために、みなさまとお話をしたのです。……シルヴィア様がどのようなお返事をくださっても驚かないように」
「はい。そして、私たちもシルヴィアさんへちゃんとした答えを返せるように」
藍色の髪と瞳。大人しくて引っ込み思案なイザベルも驚くほど落ち着いている。
「それって……」
バレていたのか。
シルヴィアが思っている以上に、彼女たちはシルヴィアのことを想ってくれていた。
わがままで欲張りなシルヴィアの想いまで受け入れる準備をしてくれていた。
すっ、と。
前に出てきたのは淡い金髪のポニーテール。成人してもなお、黄緑色の瞳の奥に子供っぽさを残したクレールだ。
まっすぐ瞳を覗き込んできた彼女は笑って、
「それってつまり、シルヴィアの『一番』はあたしたちみんなってことでしょ?」
「……うん」
「あたしたちの誰も、シルヴィアのこと諦めなくていいってことでしょ?」
「うん」
「なら、それでいいよ」
ぎゅっ、と、手を握られた。
「いいの?」
「いいよ。……それはまあ、独り占めしたいのはやまやまだよ? ずるいなあ、とも思うよ?」
「う」
「でも、あたしたちだって友達同士で喧嘩とかしたくないし」
恋と友情。どっちを取るかと言われたらたいていの答えは前者だ。
友達と喧嘩になるのを恐れて諦めるのならそれは本気の恋じゃない、と言っても過言ではないだろう。
そこでクレールは少し照れたように目をそらして。
「……例えばさ。シルヴィアがリゼット様とお付き合いするって言ったら、あたしエリザベートと付き合ったかもしれないし」
「え」
「わたくしも初耳なのですけれど」
「だ、だって仕方ないじゃん! 女の子好きになっちゃったんだよ⁉ 他の女の子見ても『あれ、可愛いな』とか思うじゃん⁉」
「うん。その……わかる」
「わかるのもどうかと思うんですけど」
イザベルのツッコミはこんな時でも鋭い。
「シルヴィア様のお気持ちは、私もとても嬉しく思います」
弛緩しかけた空気を引き戻すようにアンジェが静かに告げる。
銀色の髪と青い瞳はこうして見てもやはり親近感を覚える。もし二人の子供ができたら高確率で銀髪青目が──もとい。
「私は聖女を継ぎ、次代に継がせるまで結婚できません。……ですから、他の方が選ばれたとしてもシルヴィア様を想い続けるつもりでした」
「アンジェ様」
「想いを告げることを許されるのならば、私の気持ちも受け取ってください」
どうやら、シルヴィアはとんでもない幸せものらしい。
「みんな、本当にいいの? ……きっとすごく大変だよ?」
「仕方ありませんわ。そういう相手を好きになってしまったんですもの」
「いざとなったらみなでエルフの国に逃げましょう。そこならばきっと許されます」
確かに、それもいいかもしれない。
両親や友人が困らないように整える必要はあるけれど、この国は今のままだとシルヴィアたちには狭すぎる。
シルヴィアは深く「うん」と頷いて、みんなの手を取った。
「細かいことはまた今度話せばいいよね?」
「うん。荷物を整理したら山へ修行に行かないとだから、今はあんまり落ち着いてる暇がないし」
「む。……そう考えるとあたしもついていきたいんだけど」
「……確かに。同行なさる方だけ抜け駆けできてしまいそうです」
「言っておきますけれど、わたくしは絶対についていきますわよ? 前回は一緒に行けなかったのですから」
と、そこで、ここまで話に加わっていない一人の存在に気づいた。
視線を向けられたラシェルは苦笑を浮かべて、
「あ、ボクは保留で」
「保留?」
「シルヴィアのことは好きだけど、なりふり構わずっていう気分にはなれないよ。結婚する気になるまで自由恋愛、っていうことじゃダメかな?」
「はい。……もちろん、ダメじゃありません」
ラシェルのスタンスのほうがむしろ普通に近いだろう。
今のままじゃ子供も作れないのだから男と結婚したいと思うのも無理はない。
……子供に関してはもしかすると、今度の修行でどうにかなるかもしれないけれど。
「ちょっと。解決したような雰囲気出してるけど、私のことも忘れないでよね?」
「わ、ヴァッフェ⁉」
するっとブラが外れたかと思うと魔族の美女が首に腕を絡みつかせてくる。というかいつ以来の人型なのだろうか。
「ちょっとヴァッフェ、シルヴィアから離れて!」
「あら。私はこの娘の身体をすみずみまで知っているのよ? 胸なんて私が育てたようなものだし」
負担もなく形を整えて保持しながら適度な刺激を与えてくれるブラにもたいへんお世話になりました。貴族の栄養ある食事とのコンボでシルヴィアの胸は立派に自慢できるサイズに。
「……うん。まあ、それはありがとうっていうか」
「クレールさんって本当に自分に正直ですよね」
「シルヴィア? あなた、ここにいる全員だけで『ふーやれやれ』みたいな雰囲気出してるけど、たぶん他にもまだ希望者はいるわよ?」
「それは、ええと、うん」
もうひとりの魔族、ティーアとか。
イリスやゼリエ、スリスもちゃんと話をしたらOK してくれるかもしれない。
もしかしたらまだ他にも……。
「どうせ受け入れるなら全員受け入れなさい。そのくらいできてようやく、人間の進化を促すきっかけになるんじゃない?」
「う、うん」
こうして、シルヴィアと仲間たちの関係は少し変わった。
これから少しずつ話し合って本格的に変えていくことになるだろう。
とにかく今は、関係が決定的に崩れなかったのが嬉しい。その幸せを噛み締めながら、シルヴィアは退席していたメイドたちを呼び戻すのだった。