わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
聖女修行の道行きは神殿のしきたりにより少人数の護衛だけを付けることになった。
「道中の危険はあるけれど、守ってもらっているだけでは修行にならないでしょう?」
「魔物の脅威を払うのもまた修行、ということですね」
基本、聖女を暗殺して得する者もいない。
とはいえアンジェとシルヴィアに関しては政治的なあれこれで狙われやすいので、アンジェリカも騎士を同行させることを勧めてきた。
そこで名乗りを上げたのがエリザベートだった。
『天使のいる山へ赴くのでしょう? クレールを連れて行って失礼があったらどうするのかしら?』
『失礼な。あたしだってそれくらい分別あるよ!』
『でも、クレールさんは天使にも戦いを挑みそうな気がします』
『……む。天使にも剣使いっているのかな?』
『ダメだね。クレールは訓練と任務で使い倒すことにしよう』
ラシェルとリゼットがいればエリザベートはいなくてもなんとかなる。
若干公私混同感はあるけれど、これを逃すとお互い責任者として忙しくなってなかなか遠征なんて一緒にできなくなりそうだ。
『じゃあ、エリザベートと、あと一人か二人くらい』
『イズでいいと思いますわ。平の騎士団員ですから動かしやすいですし』
『地味にイザベルが役得じゃない、それ?』
『わ、私は喜んで同行しますけど……』
そこに神殿の巫女が三人、都の兵士が八人同行することになった。
もちろんシルヴィアたちのメイドも一緒だ。
……少数? うん、まあ、貴族基準では少数である。
「それじゃあ、ゼリエ。部屋の管理と騎士団の掃除をお願いね?」
「かしこまりました。お任せください、シルヴィア様」
引っ越しの翌々日には馬車に乗り込んだ。
今回、ゼリエはおるすばん。荷物の整理の続きがあるのと、ララたち三姉妹の監督を行うためだ。
今まではなかなかみっちり教えられなかったので細かい部分を完璧に仕上げる、と、大いに意欲を見せてくれた。
「スリス。シルヴィア様をお願いします」
「はい。せいいっぱいお世話させていただきます」
シルヴィアが乗り込んだ馬車には他にアンジェとエリザベート、それからエリザベートのメイドで合計四人。
「イズ。兵の指揮は任せましたわ」
「わ、私がやるんですか……⁉」
「あなただって上級学校で指揮を学んだでしょうに。わたくしは今回、半分休暇ですので」
「エリザベート様は横暴です……」
ぶつぶつと文句を言いつつもイザベルはスムーズに兵への指示だしを進めてくれた。真面目で頭がいいので少人数への指揮には意外と向いているのだ。
目が良いので索敵にも有用。
早くも野外活動においては欠かせない人物となりつつある。
馬車がゆっくりと動き出し、やがて都の門を出て──。
◇ ◇ ◇
「今回は馬車で三日、そこから徒歩で半日の山登りかあ」
「なかなかの道のりですわね。まあ、本番に備えて体力を温存しておきなさい」
「自分は山登りしないからって……」
目的の山は神聖な場所とされている。
修行のために訪れる以上、登るのはシルヴィアとアンジェだけ。
むしろシルヴィアが同行するのも特例であり、本来は引き継ぎのように二代の聖女が連れ立って登るものらしい。先代がいない場合は一人だ。
修行の最中、エリザベートたちは麓の村に滞在することになる。
「国内を移動するだけでも時間がかかるの、なんとかならないかなあ」
「空でも飛ぶつもりですの?」
飛行魔法は魔力消費が激しい上に制御が難しい。
風系の魔法は形が見えないのもあって相性もある。リゼットはかなり得意としているものの、彼女は魔力量も才能も桁外れなので例外。
……当然、魔道具を作るにしても茨の道だ。
「国内の主要な道を石畳で舗装するほうがまだ現実的ですわね」
「イリス様──イリスとスザンナ様が陛下に打診してくれたから、うまくいけば少しずつ始まりそうだけど」
「始めたからといってすぐに完了するものでもありませんわね」
なにしろ国家事業だ。
資源も人員もものすごく必要になる。準備だけで年単位の時間がかかってもおかしくない。
ほう、と、アンジェが息を吐いて、
「シルヴィア様が壁を作ったように、神聖魔法が有効であれば良いのですが」
「わたしの作れる石畳だと馬車が走れるほど均一にはなりそうにないですね……」
「出すこと自体は可能ですのね……?」
なお、コンクリートの道路もやろうと思えば出せるかもだけれど……道路工事で一生を終えることになっても困るのでやめておく。
◇ ◇ ◇
卒業後なるべく早く修行に出たのは四月から忙しくなるのがわかりきっているからだ。
新人騎士の受け入れが落ち着いてから、とか言っていたらあっさり半年くらい過ぎてしまいかねない。なのでさっと行ってさっと戻りたい。
少しでも時短するため山まではなるべく最短距離を行く。
道中でちょっとした魔物を撃退したりしつつ、一日目は適当なところで野営となった。
「シルヴィアとアンジェ様は休んで頂戴」
さすがにここはエリザベートも見張りに参加するらしい。
シルヴィアとアンジェをテントの中に残して外へ出ていく。外には兵士が見張っているけれど、中には二人きりだ。
「……ああ。二人きりだからと言って変なことしないように」
「し──えーっと、うん」
しないよ! と言いかけて止めたのは、状況的な問題以外はクリアされていることを思い出したからだ。
護衛の都合で着替えなども一緒にすることが多いアンジェだけれど、あの場で好きだと伝えあった仲なわけで。
意識してしまうとどきどきする。アンジェのほうも頬をうっすらと染めているような。
「あの、シルヴィア様」
「アンジェ様。……どうして、わたしを好きだと言ってくださったのですか?」
黙っていると変な感じになりそうなので話を振ってみる。それぞれ毛布にくるまってしまえば触れ合うにはひと手間必要になってちょうどいい。
なにかを言いかけたアンジェも「……そうですね」と少し考えるようにしてから、
「シルヴィア様は私の憧れなのです」
「あこがれ?」
「はい。突然現れて、私やアンジェリカ様以上の神聖魔法を扱い始めた方。そのうえ、貴族としても立場を持っていらっしゃる方。……尊敬も、嫉妬もします」
「本質的な技術はアンジェ様たちのほうが上だと思いますが……」
「本質、と言うのであればシルヴィア様です。あなたの神聖魔法には私たちにはない、神への本質的な理解があります」
「……それは」
前世が日本人だったから、というだけなのだけれど。
「歳もほとんど同じですから、私はシルヴィア様に姉妹のような感情を勝手に抱いていたのです。……そして、それは気づいた時にはそれ以上の気持ちに変わっていました」
「アンジェ様……」
「私はシルヴィア様が好きです。あなたと共にこれからも在りたいと思っています」
深い青色の瞳は深海のようでもあり、夜明けに向かう夜空のようでもある。
純粋で、まっすぐな言葉に胸の高揚が締め付けられるような愛おしさに変わっていく。
「はい。わたしも、アンジェ様とこれからも一緒にいたいです」
シルヴィアはかつて──思えばもう三年以上も前になる、アンジェと初めて出会った頃。彼女とアンジェリカの『恩恵』を見せてもらったことを思い出した。
『あなたの真の力、真の役割はその時が来れば自ずとわかる。それまでは明かすことができない』
おそらく、その時はすぐそこまで迫っている。
そして、予想が正しければアンジェと、そしてシルヴィアの役割とは──。