わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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究極の選択は後悔しないことを一番に

「前世の記憶……」

「前世でのわたしはただの人間です。緑茶も羊羹も、わたしにとってはありふれた飲食物でしかありませんでした」

「我々天使も『その世界』を直接知っているわけではありません。シルヴィア様はある意味で、我々よりもさらに神に近い存在と言っていいでしょう」

 

 そんな大層なものではないのだけれど。

 シルヴィアはただ、アンジェが話の内容に追いつくのを待った。それにはさすがにしばらくの時間がかかって、

 

「……シルヴィア様は、どこにも行かないのですね? 私たちの味方でいてくださるのですね?」

「行きません。アンジェ様やみんなのいるところがわたしの居場所ですから」

 

 その返事で、少女はほっと胸を撫で下ろした。

 

「あなたと出会えたことは私たちにとって、そして国にとって大きな幸いだったのですね」

「……どうでしょうか。特に国にとっては、良かったとばかりも言えないかもしれません」

「私もそれには同意見です」

 

 言って、楓は話の主導権を取り戻す。

 

「過ぎた力は人を惹きつけます。逆にそれを忌避する者もいるでしょう。……だからこそ、歴代の聖女は『人』であることを望みました」

「天使になることもできた。けれど、敢えて人として生きることを選んだ……そういうことですね?」

「いたずらに世を騒がせることはできない。……言葉の選び方は違えど、みな同じようなことを言っていました」

 

 彼女は、今まで何人の『聖女』を導いてきたのだろうか。

 

「この地での体験は人の記憶から徐々に薄れていきます。アンジェリカ様も詳細な話は覚えていないでしょう」

 

 『聖女』が聖紋によって天使になる。

 これは人の進化の可能性そのものだ。もっと記録が残っていてもいいようなものなのに、そうならなかったのは聖女当人がそれを望まなかったことと、記憶の消去が理由。

 

『私たち魔族が焦れる理由もわかるでしょう?』

 

 進化の道も示されているのにいっこうに進もうとしない。

 それは確かに「その意思なし」と見做されても仕方ない。

 

「人の世はいまだ男性が支配しているのでしょう? そこへ『人から天使へと成り上がった者』が現れれば反感が生まれるでしょう」

「……アンジェリカ様はそれを避けるために聖紋に制限をかけることを選んだのですね」

「聖女は人としての最高到達点のひとつ。人を超えずとも、その神聖魔法は十分すぎるほど強力です。……むしろ、それ以上の力は人の身には余ります」

 

 二人の視線がシルヴィアに向けられた。

 

「……言われてみると、心当たりがたくさんありますね」

「神の言葉による長文詠唱。高負荷による昏倒。前例のないほど短期間での大量魔法行使が、シルヴィア様の身に聖紋を宿させました」

「わたしはまだ、人でいることもできるのでしょうか?」

「可能です。聖女同様、リミッターをかければ抑えられるでしょう。もちろん、神聖魔法の威力は加減していただく必要がありますが」

 

 今までみたいにぽんぽん長文で祈るな、ということか。

 

「……そうなると、緊急事態に対応できなくなるかもしれませんね」

「本来、個人にそれほど大きな力が必要となる事態は極稀です。国や街の危機であれば抗する方法を別に有しているでしょう?」

 

 それこそ騎士団がそうだ。

 今までのように魔族と出くわしたり、暗殺者の集団を差し向けられたり、そんなことがほいほいあっても困る。

 ……ほいほいあったからこそ、これから同じことが起こらない保証はないのだけれど。

 

 そこで、楓はシルヴィアの胸をじっと見つめた。

 

 なかなか自慢できるサイズに育っている。

 楓自身のものよりも大きいし羨ましくなってもおかしくはないけれど──もちろん、このタイミングでそんな話が始まるわけもなく。

 

「あなた方魔族としては人の進化を望むのでしょうけれど」

「あら、バレていたのね。そうよ。と言ってもあなたたちだって同じじゃない?」

 

 声をかけられたヴァッフェが開き直って答えれば、楓も「そうですね」と頷く。

 

「同族が生まれるのは喜ばしいことです。それも、人から天使に『成った』者となれば」

「あなたたちにとって見れば、代々の資格者に拒絶されてきたようなものだものね」

 

 楓はそれに答えなかった。

 答えなかったという事実こそが答えだった。

 人の世の安定を維持するため──そんな理由があったとしても、天使になることを拒否したのは事実。

 お前たちの仲間にはならない、と言われて寂しい気持ちになるのは当たり前だ。

 

「もちろん、我々はお二人の選択を尊重いたします」

「天使になるか、聖紋に制限をかけるか、ですね」

「アンジェ様には『聖紋を得ない』という選択肢もあります。聖女としては失格でしょうけれど、あるいはそのほうが、人という種を存続させていく意味ではいいのかもしれません」

 

 天使は既に種として存在している。

 聖女が天使になるのは人が上位種になることではなく、人の上澄みが天使に取り込まれること、とも取れる。

 なら、聖紋に制限をかけて聖女の恩恵を得ていること自体が不健全かもしれない。

 

 そこで、シルヴィアは以前から考えていた疑問を楓に投げかけた。

 

「楓様。天使とは、()()()()()()()()()()()()()()なのではありませんか?」

「ええ。シルヴィア様の仰る通りです」

「……やっぱり、そうなのですね」

 

 人は個々の恩恵を得られるが、エルフや魔族は画一的な恩恵しか保持していない。

 

「秀でた恩恵を持つ人が、()()()()()を確立したことで生まれたのが上位種」

「はい。天使だけでなくエルフも魔族も、竜も、人から枝分かれして生まれた種です。ドワーフや獣人も同様ですが、彼らは恩恵の遺伝こそ確立したものの、上位種には至らなかった例ですね」

「……ヴァッフェ、これ知ってた?」

「知ってたわよ。人間の学者だっておおよそ予想はしているはずだけど」

 

 知ったところで得はしないし、公表する意味もないということか。

 小学校の友人が一流大学を出て一部上場企業を経営し美しいパートナーと結婚していると聞かされても「それでどうしろと?」となるというか。

 

「ここ最近、人から新しい種は生まれていないわ。それこそ完全な別種として扱われるくらいの時間が経ってしまっている」

「可能性が閉ざされてしまったのか、そう考える者も少なくありませんが、シルヴィア様の存在はそうした停滞を崩す要因となるかもしれません」

 

 人から『成り上がった』者の出現は人の可能性を広げることに繋がる。

 そんなことができるなら自分も、と思う者が出てくればさらなる上位種も生まれるかもしれない。

 

 ──要するに、みんな仲間が欲しいのだ。

 

 シリーズ最新作で遊んでいる人間からしたら数世代の前のシリーズ作品をこすり続けている層は「もったいない」と思える。

 最新作を買ってくれれば一緒に遊べるのに、と思うのも無理はない。

 勝手な話ではある。

 昔の作品を遊んでいる層だって好きで遊んでいるのだし、もしかしたらやりこみによって新たな発見があるかもしれない。

 必ずしも最新作が一番面白いとはシルヴィアは思わないけれど。

 

「どう、シルヴィア? 天使になって人の可能性を広げてくれないかしら?」

 

 魔族からの甘い誘惑に微笑んで答える。

 

「うん。わたしは天使になるよ」

「……シルヴィア様」

 

 アンジェが目を見開き、シルヴィアの服の袖を掴む。

 楓もまた息を呑んでから「よろしいのですか?」と尋ねてきた。

 

「人の身を捨てることになりますよ? 恐ろしくはないのですか?」

「あら。誘惑しておいて随分親切じゃない?」

「我々天使はあなたたち魔族ほど自分勝手ではないのです」

「あはは。……大丈夫です、楓様。覚悟はできています」

 

 身体が変わると言っても天使はそれほど人から遠いわけじゃない。

 

「聖紋は消せるし、翼が生えて長生きになるくらいでしょう?」

「翼も邪魔な時は消せますが……長生きになる『程度』と言い切れるのは何故なのでしょう?」

「大した理由はありません。ただ、わたしは欲しいだけなんです」

 

 言った通り、アンジェたちから離れるつもりはない。

 

「大好きな人たちと結ばれてもいい理由。……天使になれば、女同士で結ばれることができるでしょう?」

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