わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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あなたと一緒なら

「なんて可愛らしい……! ねえ楓、この子たちにここへ留まってもらってはどうかしら?」

「駄目よ。彼女たちはシルヴィア様の大切な方だもの」

「そう。それは残念」

 

 話の後、シルヴィアは楓に「仲間たちにも先に報告したい」と告げた。

 楓は快諾してくれて、麓の村からエリザベートとイザベルがやってきた……のだけれど。慣れないロープウェーに天使たちの歓待という洗礼のラッシュが彼女たちを襲うことになった。

 丁寧語がデフォかと思ったら天使たちも意外とユルい。

 令嬢二人を取り囲みながらきゃあきゃあと歓声を上げている。

 

「その、なんというか……同性からの熱い視線、というのは慣れませんわね」

「天使様たち……綺麗なのに、私たちなんてその気になれば簡単に負けてしまうのですよね?」

「私たち天使は身体能力的にはひ弱ですよ。人とそれほど変わりません」

 

 若干たじたじのエリザベートたちに楓が微笑む。

 

「あら、そうなんですの?」

「ええ。人間の成人男性を軽くひねれる程度です」

 

 それは十分強いのでは……?

 

「なるほど。クレールのほうがよほど怪力ですわね」

「というかエリザベート様もそれくらいできますよね……?」

「黙りなさいイズ。それではわたくしがあの脳筋と同じにされてしまうでしょう」

「……えっと、うん。ちょっと基準がわからなくなってきたかも」

 

 エリザベートができるならイザベルも一般男性くらい素手で制圧できるはずで。そう考えると確かに天使は大したことない。

 

「それで? いったいどうしてわたくしたちが呼ばれたんですの?」

「うん。それなんだけど、実はね……」

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「なるほどね。予想はしてたけど、やっぱりこうなったか。よくやったわシルヴィア。あんたについてきた甲斐があったってものよ」

 

 話を終えたところでイザベルの服の中から黒猫がひょこっと顔を出した。

 

「ティーア、どうしてそんなところにいるの」

「この子たちが上へ行くって言うから潜り込んだのよ。結界が緩くなっている今なら潜り込めると思って」

「結界があったんだ、ここ」

「あんたたちにとっては空気みたいに自然だろうから逆にわからないかもね。あんたの神聖魔法で死にかけてなかったらあたしたち魔族なんてまともに近づけないわよ」

 

 害意を持たないティーアたちが例外中の例外、というわけである。

 

「いえ、あの、それよりシルヴィアさんが天使になるって……!」

「わたくしは予想していましたわ。この子なら立ち止まろうとはしないだろうと」

「さすがエリザベート」

 

 正確に読まれていたことに感嘆すると、額をこつん、と突かれて、

 

「褒めていませんわ。……まったく。先に話をしてくれたからまだいいですけれど」

「ごめんなさい。でも、止めるつもりもないんだ」

「でしょうね。……わたくしだって、同じ状況ならおそらく飛びついていたでしょう」

 

 嘆息する公爵令嬢を見て、アンジェが「あの」と口を開いた。

 

「エリザベート様は恐ろしいと思わないのですか? 自分が自分でなくなるのですよ?」

「なにも化け物になるわけでもないでしょう」

 

 天使は知的種族かつ人の上位種だ。人に対しても友好的だし、少なくともゴブリンやオークとはぜんぜん違う。

 

「それに、同性への想いを諦めなくて良い……というのはとても魅力的ですわ」

 

 言って、令嬢は左の手のひらを胸に乗せた。

 

「天使も同性での交配が可能なのでしょう?」

「もちろんです。人間との混血も可能ですので、我々としてはむしろ推奨いたします」

 

 楓もそう保証してくれる。

 

「でも、それならどうしてこんなふうに天使だけで住んでいるんですか?」

「我々には争う欲が存在しないからです。人の世を乱すことも、別の国を作って勢力争いをする気概も持ち合わせてはおりません」

「でも、人間と仲良く混ざりあって暮らす気もないのでしょう?」

「人の中には心無い者もいるでしょう? ……自分たちの領域を守るためならば、我々も躊躇なく力を振るうことができます」

「……なんだか、シルヴィアさんにぴったりですね?」

 

 イザベルから苦笑気味に見られて、シルヴィアも似たような表情を浮かべた。

 

「そうかも。わたしの性格にも関係があるのかな?」

「近いからこそ力を与えられたのか、力を与えられたからこそ近しいのか、そこまではわかりません。一つ言えることは、シルヴィア様が人を同族と捉える限り、天使の性質は妨げにはならないでしょう」

 

 同族以外には無関心。ただし仲良くしてくれるなら異種族でも歓迎する。……うん、今までのスタンスと特に変わらない。

 

「わたしはやっぱり天使になるよ。……二人とも、許してくれる?」

「許すもなにも、もう決めてしまったのでしょう?」

 

 エリザベートは紅の瞳で軽くシルヴィアを睨んでから笑みを浮かべた。

 

「あなたに老いた姿を見せることになるのは嫌ですけれど、あなたより先に逝けるのは幸せなことかもしれませんわね」

 

 イザベルは「シルヴィアさんの決めたことなら」と微笑んだ。

 

「あの、翼を手に入れたら触らせてもらってもいいですか……?」

「もちろん。気になるよね、あのふわふわ」

「でしたら私の翼を好きなだけ触っていただいて構いませんが……いえ、それで満足されてしまっても困りますので止めておきましょう」

「楓様。天使になるのには時間がかかりますか?」

「天使の助けがあれば二、三日で完了いたします。それほど拘束することはありませんよ」

「なら、早いほうがいいかもしれませんわね」

 

 さすが、騎士団メンバーは異常事態に慣れている。

 さっさと頭を切り替えたエリザベートは今後のことを考え始めたらしい。

 早く天使化を終わらせて都に帰ろう……とか、まるでスーパーで買い物をするくらいの気軽さだけれど、それくらいのほうがシルヴィアとしても気が楽だった。

 

「じゃあ、さっそく──」

「待ってください」

 

 そこで、呼び止める声。

 

「アンジェ様」

 

 話に置いて行かれる形になった銀髪青目の聖女見習いは、真摯な瞳でシルヴィアを見つめて、ゆっくりと告げた。

 

「私も、シルヴィア様と一緒に天使になります」

「──よろしいのですか?」

 

 真っ先に反応したのは楓。

 喜色の隠しきれない表情と声に、アンジェは「はい」と頷く。

 大きな決断に気負っている様子はあるものの、迷いや後悔を抱いているようには見えない。

 

「あなた様は次代の聖女。制限をかけた聖紋を手に入れる選択も立派なものだと思いますが」

「ですが、それではシルヴィア様が一人になってしまいます」

「───っ」

 

 少女の答えがシルヴィアの胸を強く打った。

 

「天使の寿命は人と異なるのでしょう? ならば、シルヴィア様は大切な方の死をすべて看取っていくことになります。……共に歩み続けられる人間が一人もいないのは、とても寂しいことだと思います」

「私がいるけれど」

「あたしだっているわよ?」

「うーん……まあ、もちろん嬉しいけど。ヴァッフェとティーアは家族や友達とはちょっと別枠っていうか」

「なによそれ、酷くないかしら」

「というか、大事なところなのだから黙っていてくれませんこと?」

 

 エリザベートが苦言を呈するも、ティーアがさらに、

 

「寿命ならあのハーフエルフの娘もいるじゃない」

 

 これにアンジェは若干むっとしながら返した。

 

「私がシルヴィア様と共に在りたいのです……! それではいけませんか……⁉」

 

 これに、その場にいたほぼ全員がぽかんとした。

 場が静まり返った理由に本人は遅れて気づき「も、申し訳ありません!」と謝ったものの、いつになくはっきりとした物言いはもう取り消すことができない。

 

「アンジェ様がそこまで思ってくださっているなんて……わたし、知りませんでした」

「あの、その。……はい。勢いに任せてしまいましたが、私の想いに嘘はありません」

 

 シルヴィアが人を超えれば人の世は変わることになる。

 ならば、天使に成った者が二人になっても問題はないかもしれない。

 

「……なんだか、アンジェ様が羨ましくなってきましたわ」

「はい。みなさんとずっといられるのなら、私も……」

 

 エリザベートとイザベルがそれぞれに呟く中、シルヴィアは手を伸ばして。

 

「一緒に歩いてくれますか、アンジェ様?」

「はい。私を、一緒に連れていってくださいませ、シルヴィア様」

 

 少女の細い指がそこへそっと重なった。

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