わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「天使化には数日かかりますので、エリザベート様とイザベル様もそれまでご滞在ください」
楓の計らいで、二人は別の家に泊めてもらえることになった。
「さあさあ、こちらへ」
「ご馳走をたくさん用意いたしますね」
「……なんだか別の意味で心配になってきたのですけれど」
「下の部下たちにも連絡をしておかないと……」
「でしたら、そちらも承りましょう」
天使から突然伝言を受ける兵士のみなさんはたいへん驚くことになるだろうけれど、巫女のみなさんがうまくなだめてくれるに違いない。
シルヴィアたちは楓の家へと再び招かれた。
「アンジェ様は私、楓が。シルヴィア様は妹の椿が担当させていただきます」
椿は楓と同じく黒髪だけれど目の色が違う。
そういえば、他の天使もわりと似通った顔立ちをしていたような。世代交代が少ないので先祖の特徴が濃く受け継がれているのかもしれない。
「わたしたちはなにをすればいいのでしょう?」
「まずは湯浴みを。その後、我々が肌に触れながら魔力を身体へ浸透させていきます。聖なる力を身体に慣らしながら、身体を作り変えていくわけです」
案内されたお風呂は──。
「《ユニットバス》……⁉」
「ユニ……?」
「魔道具のお風呂だと思ってください。本来、動力は異なるのですが、ここでは結局、天使様の魔力で動いていると思いますので」
魔道具式のシャワーは騎士団でも使っているので使い方に戸惑うことはほとんどない。
最初こそ驚いたものの、すぐにゆったりと身体を休めることができた。
「なんだか、こうしてご一緒するのは少し恥ずかしいです」
「以前にも一緒に身を清めたじゃありませんか」
「それはそうですが……その、今は想いを伝えあった後ですし」
「………っ」
確かに好きな相手と一緒にお風呂というのは。
話題を変えようとシルヴィアは口を開いて、
「あの、神殿の戒律では『どこまで』の交際が許されているのでしょうか?」
「っ⁉」
「いえ、違います! あくまでも参考と言いますか、今すぐというわけではありませんけれど、知っておいた方が……!」
「だ、大丈夫です。……そうですね、神殿では基本的に、婚姻した時点で巫女を辞めることになっています」
濁してはいるものの、子作りに繋がる行為=結婚相手と行うもの、という認識でいいだろう。つまり現役の間は清い交際しかできない。
「ですが、その。例えば聖女同士で子を成した例はないわけですので……」
「……あう」
天使同士ともなればもっとわからない。
存在自体が清らかなものと見做されるのであればOKでもいいような。OKかNGかを決めるだけで大激論が起こりそうな。
「シルヴィア様は、子供はお好きですか?」
「嫌いではないと思います。……男の子は苦手ですけれど、自分の子ならば可愛がれるかと」
「ふふっ。……私たちの子供なら、女の子しか生まれないのではありませんか?」
「あ。そういえば、そうですね」
話しているうちに和やかな雰囲気になってきて、ついつい少し長湯をしてしまった。
◇ ◇ ◇
「お待ちしておりました。……では、始めましょう」
お風呂から上がって髪と身体を乾かすと、白一色の肌着のような着物だけを羽織らされ、それぞれ別の部屋へと導かれた。
シルヴィアを導く椿は慈愛の笑みを浮かべて、
「シルヴィア様はお布団とベッド、どちらがお好きですか?」
「え? ええと……そうですね。この身体になってからはずっとベッドでしたので」
「でしたら、ご用意したお部屋で問題ありませんね」
宛てがわれた部屋は高級ホテルのような雰囲気の一室。
「こちらを自由にお使いください。お疲れになるでしょうから、施術はベッドに寝た状態で行わせていただきます」
「あの。これってリンパがどうとかそういうインチキなやつじゃないですよね?」
「悪徳マッサージ店ではありませんのでご心配なく」
わかるのか。
椿は「異界の書籍で勉強しました」と胸を張った。
「《日本語で読み書きできなければ読めないので、天使はみんな必死で覚えるんですよ》」
「《なんだか、ここがどこだか忘れてしまいそうです》」
「《シルヴィア様でしたら、この里にもすぐに馴染めるかと》」
施術は、仰向けに寝たシルヴィアの身体に椿がそっと手を触れるだけだった。
「では、参ります」
「……んっ」
触れた箇所から暖かな魔力が流れ込んできて、全身に浸透していく。疲れるどころか本当にマッサージでも受けている気分だ。
お風呂に入ったのもあってなんだか眠くなってくる。
「眠ってしまっても構いませんよ」
「この子が変なことをしたら私が止めてあげるから安心しなさい」
「ありがとう、ヴァッフェ。……じゃあ、お言葉に甘えようかな」
下着から元の姿に戻った女魔族に微笑を返して、シルヴィアは穏やかな眠りへと落ちていった。
◇ ◇ ◇
「シルヴィア。シルヴィア、起きなさい」
「ん……っ。あれ、わたし、もしかしてけっこう寝てた?」
「それはもう。もう夕方よ? 施術は終わって、もうすぐ夕食の時間らしいわ」
ヴァッフェは若干呆れ気味だった。
身を起こしたシルヴィアは窓の外がオレンジ色に染まっているのを見て「うわあ」と呻いた。
身体の調子は……悪くない。
眠ったわりに体力が戻っていない気がするけれど、それとは別に身体が最適化されたような、サウナやマッサージによる『整う』効果の上位版を受けたような気分もある。
変なことをされた形跡もどこにもない。
「心配しなくてもあの子、手のひらしか触れなかったわよ?」
「うん。考えてみると椿様よりヴァッフェのほうが危険だった気がする」
「どういう意味よ」
「言葉通りの意味なんだけど……」
リビングに戻ると夕食の支度がすっかり整っていた。
巫女の衣に身を包んだアンジェがシルヴィアを見て微笑み──それから困ったように首を傾げる。そういえば着替えていないので白い衣一枚だ。
部屋に戻ろうかと思ったところで楓がくすりと笑って、
「魔法をお使いになってはいかがですか?」
なるほど。ここなら外聞を気にする必要もない。天使たちの暮らしぶりを見ていると神聖魔法はかなり応用範囲が広そうだし、
「《セーラー服》」
ぽん、と、独特の上衣とスカート、おまけで黒タイツがシルヴィアを包んだ。ヴァッフェがするりと首から入り込んでブラに変身してくれる。
ショーツは身につけていないけれど、まあ気にしない。
これでよし、と腰を下ろして、
「あの、シルヴィア様? その、おへそが──」
「え? ……わっ、ほんとだ」
「あーもう。あなた、普段人に世話してもらってるからって油断しすぎでしょう」
「いや、これは胸のサイズを見誤ってただけで……うーん、《白ワンピ》」
今度の服は楽だし露出も少なくて無事にみんなからOKが出た。
「さて。シルヴィア様はパンとご飯、どちらがよろしいですか?」
「ご飯……白いお米があるんですか⁉」
「それはもう。ご自分でも出せるはずですし、里では栽培も行っております」
せっかくだからご飯とお味噌汁をいただくことにした。
メインの料理はチキン南蛮。
アンジェはご飯ではなくパンを所望したものの、甘酢あんをかけた鶏の唐揚げへさらにタルタルソースをかけるという手の混んだ料理には「これはいったい……⁉」と驚愕していた。
「タルタルソースは都でも食べられますけれど、唐揚げは醤油がないと作れませんものね」
「はい。これは、カツレツとはまた異なる調理法なのですね」
食事を進めながら進捗について尋ねると、アンジェも無事聖紋を獲得したらしい。どこか嬉しそうに手のひらをかざして見せてくれた。
後はこのままさらに身体を最適化させていくだけ。
なお、ティーアが「あたしにもなにか食べさせなさいよ」と要求してきたので「そういえば前から食べて欲しいものがあったんだ」と猫まんまをご馳走した。
「ふーん? 不思議な味だけれど、食べやすくはあるわね。悪くないわ」
と、普通に喜ばれたのが少し残念である。