わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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竜もやっぱり女の子

 そして。

 招かれざる客は翌日の昼前に空から降ってきた。

 天使たちの結界は意味を成さなかった。

 もともと存在を隠す力、近寄ろうと思わせない力を主とした結界であるため、里の存在を知っていて強く訪れようと思っている強者を阻むことは難しい。

 

 本音を言えば来てほしくなかったけれど。

 

 シルヴィアは昨日と同じ白のドレスを纏い、エリザベート、イザベル、楓を伴って竜を迎えた。

 降ってきた人影は、小さい。

 聞いていた通り、竜と言われて想像するようなトカゲでもなければ巨体でもない。人と変わらないサイズ、というか若い女の身体だ。

 

 とん、と。

 

 軽やかに地面へ着地して見せたことが逆に、どうしようもなく恐ろしい。

 ()()は血のような真紅の髪をかき上げると、同色の瞳で里の様子を一瞥した。文句なしに整った顔、その唇に、にぃ、と笑みが浮かぶ。

 瞳は、最後にシルヴィアへと向けられて。

 

「新しく生まれた天使はお前じゃな、小娘?」

 

 強い。

 天使化によって拡張された感覚がはっきりとその脅威を伝えてくる。単独で天使の里へ乗り込んできたのは伊達ではない。

 

 彼女は、里に大損害を出しうるだけの実力を確かに秘めている。

 

 息を呑みつつその容姿を観察。

 頭とおでこの境目辺りに一対の角。背には深緑色をした硬質の翼。尻の上あたりからはトカゲのそれを思わせる太い尾が伸びている。

 十分に竜らしいと見るべきか否か。それ以外の部分は人と変わらない。肌は白くすべすべだし、つんと張られた胸もなかなかのサイズだ。一糸まとわぬ姿なのでよくわかる。

 

 って、なんで全裸なのこの人!?

 平静を装って立ちつつも脳内は軽くパニックである。ついでに言うと口調もアレだ。ロリではないものの「のじゃ」口調の女子なんて初めて見た。

 本当にいるんだ、すごいな異世界……と、わけのわからない感想をつい抱いてしまう。

 周りには巫女服姿の天使までいるわけで、なんかもう世界が一気に広がりすぎてよくわからなくなりつつある。

 それはともあれ。

 

「確かにわたしが新しい天使です」

 

 シルヴィアはみんなを代表して一歩、前に進み出た。

 

「偉大なる竜よ。お目にかかれたことを大変光栄に存じます。……それにしても、一体何故こちらへ参られたのでしょうか?」

「ほう、なかなかに礼儀がわかっておる。……敵意むき出しの他の天使共よりよほど状況を理解しているらしい」

 

 へりくだった態度がお気に召したのか、竜は笑みを深めて。

 

(わらわ)の名はプルプル。短命な人から天使へと至り、この妾に出会えるとは幸運であるぞ、小娘よ」

「────」

 

 プルプル?

 

「……なんだかとても奇妙な名前ですね?」

「イズ。思っていても口に出すものじゃありませんわ。シルヴィアだって笑うまいと耐えていますのに」

「ええい、そこの人間ども! 妾の名前の何がおかしい!? 返答次第では八つ裂きにしてくれるぞ!?」

 

 いや、だってシリアスなシーンでプルプルはないと思う。

 笑いそうになったのを堪えた結果ぷるぷるしてしまったシルヴィアはなんとか気を取り直して、

 

「大変失礼をいたしました。……偉大なる竜、プルプル様。来訪の理由はこのわたし、シルヴィア・トーにあると考えてよろしいでしょうか?」

「無論」

 

 尻尾をくねらせながら答える竜娘。とりあえずさっきの件は水に流してくれそうだ。

 

「人から変じた新たな天使。それがどんなものか、どの程度の力を持っているのか、この目と身体で確かめに来た」

 

 やはり、そういう要件か。

 話をしに来ただけなら穏便に済ませられたのだけれど、こうなると戦いを避けるのはかなり難しい。

 

「ご存知でしょうが、天使は直接戦闘に向いておりません。この力を披露するのみでお許しいただくことはできないでしょうか?」

「ならん」

 

 尻尾が地面に叩きつけられ、ずん、と音を立てる。地面が尻尾の形にへこみ、その威力を物語った。

 

「その程度では退屈凌ぎにならん。せっかく飲まず食わずでここまで飛んできたというのに、力を披露されて終わり? ありえぬ。披露するなら妾の身体に直接叩き込むがいい。当然、戦いの中でな」

「……どうやら、平和的に終わらせるのは困難のようですね」

 

 ならば、ここは少しでも条件を良くするのみ。

 

「わたしは人間の国で戦略家をしております。得意分野は指揮。ですので、仲間と共に戦うことをお許しいただけないでしょうか?」

 

 すると今度は上機嫌に「構わぬ」という返事。

 

「別に、この場にいる全員が相手でもよいぞ? 勝つのは妾に決まっているだろうがな」

「ならば、もう一日。わたしたちに猶予をいただけないでしょうか?」

 

 これはあらかじめ考えていた話の流れだ。

 今は少しでも戦力が欲しい。だから、

 

「逃げるつもりなら皆殺しにするが。……いや、()()()()の目覚めを待つためか」

「その通りです。このたび、人から天使へと変じることになった者はもう一人。どうせならば一度に味わってみたくありませんか?」

 

 くつくつ、と、竜が笑う。

 腕組み。十分すぎるサイズの胸が持ち上げられ、腕に挟まれて形を変える。

 

「なかなかに面白い提案よの。じゃが、一日も待てとはなかなかに傲慢よの」

 

 どの口が言うか、と思いつつ、

 

「その間、お食事をご用意させていただければと思うのですが、いかがでしょう?」

 

 先ほど、彼女は「飲まず食わずで飛んできた」と言っていた。そりゃあお弁当でも持参していない限りはそうなるだろうけれど、ならばかなりお腹が空いているはずだ。

 そして案の定、プルプルはこれに乗ってきた。

 

「……食事か。よかろう、じゃが妾はこう見えてかなり食うぞ?」

 

 めちゃくちゃ食われた。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 天使たちが総出で肉を焼き、汁を作り、おにぎりを握る。

 竜娘は上機嫌でそれを喰らい、飲み干し、平らげていった。恐ろしい健啖さ。運動部所属の男子高校生がチーム単位でその中に入っているのではなかろうか。

 日本風の食事はなかなかお気に召したようで、焼き鳥に豚汁、しゃけにいくらにたらこに昆布といったおにぎりに舌鼓を打っている。

 一体人間大の身体のどこにそれだけの量が入るのかと不思議だが、

 

「なにを呆けている。食い溜めは妾たち竜の基本特性じゃぞ?」

 

 なるほど、エネルギーを体内に貯めておけるのか。その気になれば冬眠とかもできるのかもしれない。確かに上位種と言って差し支えない。

 

「うむ。これならば十善に戦えそうじゃな。感謝するぞシルヴィア」

「いえ、あなたを強くするつもりはなかったのですが……」

 

 結果的にそうなってしまったかもしれない。

 一応天使の一員ではあるものの、料理よりもプルプルの相手をしてくれとその場に残されたシルヴィアは戦々恐々の思いをしていた。

 ご機嫌を損ねたら殺されるかもしれない。これがまだ国王とかなら部下に「殺せ」と命令するだけだけれど、この女の場合は物理で殺しに来られる。

 しかもなんか思いつきで変なこと言ってくるタイプだし。

 

「それにしても面白いものを連れておるな。魔族が二匹。……まさか売約済みか?」

 

 ほら来た。

 

「その通り。……と言いたいところだけれど、シルヴィアが私たちを『所有』しているの」

「ちょっ、ヴァッフェ!? それわたしが悪女みたいなんだけど!?」

「なるほどの。……ならば、妾の子を産ませても問題ないな?」

「え」

 

 ……いまなんて言いました?

 呆けた表情で視線を向ければ「なにかおかしなことを言ったか?」とでも言いたげに見返されて、

 

「妾が勝てばお主ともう一人を妾の嫁にする。なに、心配するな。毎夜たっぷりと可愛がってやる。竜の体力を舐めるでないぞ?」

「いや、あの、えっと……」

 

 どうしてシルヴィアのところには「力づくで嫁にしようという輩」が次々やってくるのか。

 なんか一応「妾が負けたらお主の嫁になってやろう」とか付け加えてくれるけれど、そういう問題ではないというか。

 どうしたものか。勝てばいいわけだと思っておこうかと考えたところで、

 

「なにを馬鹿なことを言っているんですの、この痴女。今すぐこの剣の錆にして差し上げましょうか?」

「落ち着いてください、エリザベート様! 言動がクレールさんと大差なくなっています!」

 

 シルヴィアの代わりにぶちキレたエリザベートが大変なことになった。

 まあでも、これにプルプルはけらけらと笑うだけで特に怒りはせず、おかげでその日の夜──アンジェの天使化までの時間は稼ぐことができたのだった。

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