わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
振るわれる爪のことごとくが剣で弾かれ、その威力を殺されていく。
「ふむ、面白い技を使う。型通りなのではなく」
「その通り。型こそがわたくしの技ですわっ!」
エリザベートは竜の馬鹿力へ正直に応じるのではなく、その技量をもっていなしている。まさに、純粋な身体能力では劣る彼女がクレールに張り合える理由でもある。
竜の娘──プルプルはにやりと笑って、
「ならば、左も加えてやろう!」
かすっただけで骨を粉々に打ち砕くような暴力をまるで軽やかな舞のごとく振るい続けながら、攻め手を右の爪のみから左右の爪両方へと変化させる。
二つ以上の得物を持つ利点は、それ自体がフェイントとして機能すること。
これが二刀流であれば重量というデメリットが存在するものの、己の身体と魔力のみで二つの武器を用意している竜の娘にはそれは当てはまらない。
攻撃パターンの増加量はさっきまでの二倍以上。
加えて攻撃のテンポまで増したことで、さすがのエリザベート・デュ・デュヴァリエも徐々に押され始める。
「しょうがないわね。あたしの魔力を持っていきなさい!」
そこに介入したのはティーアだ。
接触しているとはいえ、他人の身体強化をブーストするのはかなりの高等技術。ハーフエルフであるリゼットでも真似できるかどうか。
これにより令嬢の動きが格段に良くなった。急に変化した身体の状態にエリザベートは戸惑いつつも柔軟に対応し、動きを調整、左右の爪をしっかりと弾き返していく。
「礼を言いますわ。……それにしても、魔力の量でこれほど戦力に差が出るとは」
「身体強化を行っているのは妾も同じ。当然のことであろう? ……もっとも、竜は人に比べて身体そのものが上質であるがなっ!」
「っ!」
「これ、やばっ!?」
脈絡もなく、竜娘の後ろ側から竜の尾が振るわれた。
当人が言った通り、それ自体が柔軟かつ丈夫にできた太い尾は、プルプルの尋常ではない膂力によって振るわれることでトロールの拳以上の一撃となる。
さすがのティーアも焦った声を上げて障壁を展開、エリザベート自身も敢えて剣で受けず地面を蹴って身体を後方へと逃がすも、完全には間に合わない。
時速数十キロの自動車で思いきり壁にぶつかった時のような衝撃音。
吹っ飛んだ令嬢の身体を天使たちの魔法がふわりと受け止めダメージを殺してくれるも、着地したエリザベートはあからさまに顔をしかめていた。
当然だ。
なんの対処もしていなかったら彼女は今頃肉塊に変わっている。ドラゴンと生身で殴り合える、というかドラゴンの力を人の身に凝縮したのがこの世界における竜という種族なのだから。
「エリザベート様!」
悲鳴を上げたアンジェが癒やしの光を向けたのも無理はない。
「……強い」
竜は、強い。圧倒的に、シンプルに強い。
「様子見で殺されるところでしたわ。これが竜の力ですのね」
「お主も人にしてはなかなかやるではないか。じゃが、妾相手に様子見とは、さすがに高慢が過ぎるのではないか?」
「お生憎ですけれど、こちらは一人で戦っているわけではないのですわ。死ななければ負傷など安いもの。それよりも、仲間にあなたの戦いを見せるほうがずっと重要」
「ほう? それはつまり──」
「そういうこと、ですわ」
高速で飛来した矢が魔力障壁『竜鱗』に衝突して火花を散らす。それは一秒もしないうちに力を失ってしまったものの、矢が落ちるより早く二の矢、三の矢が竜を襲った。
イザベル。
適度に離れた建物の上に陣取った彼女は、椿から受け取った特別な矢を矢筒に満載、余りを傍らに山積みして射の姿勢を取っている。
椿の作り出した矢はカーボン──この世界には存在しない物質で出来た上質なものだ。神聖魔法を介して作られたことで魔法的な力をも帯びている。竜鱗をもってしても一瞬で弾かれることがないのがその威力の証拠。
次々に弾かれながらも次々に襲いかかり、竜娘の魔力を僅かなりとも削り取っていくその矢を見て、プルプルが哄笑。
「っ、はははははっっっ!! なるほど、わざわざ竜との戦いに連れてくるだけのことはある!」
烈風。
いや、単に「力を解放しただけ」で強烈な余波が発生したのだ。それによって空中の矢が数本まとめて地面に落ち、
「若い竜が相手ならばあるいは、お主等二人だけでも
無造作に開かれた口から高圧縮の大気が吐き出される。人の身体など当たった端からえぐり取って粉々にするだろうそれを、
「防御は任せなさい!」
ヴァッフェの張った障壁が辛くも防ぎきる。
「っ、やあああああぁぁぁっっ!」
──『ラピッドアロー』『ピアシングアロー』。
重ねがけされる切り札。雨のように降り注ぐ矢一つ一つが硬い守りを貫く威力を持つ。矢は『竜鱗』に衝突するとその一枚と相打ちになって砕け散るも、その数をもって竜の守りを削り取っていく。
それでも、小さな障壁を無数に展開しているが故に、プルプルの肌を貫くには至らない。
同じ場所に飛来した二本目の矢も、瞬く間に復元された鱗が弾く。
「面白い、存外面白いではないか!」
ずん、と、竜娘の立つ地面がへこむ。
大きく跳躍し、イザベルを強襲しようとした彼女は「む?」と動きを中断。右の爪を振るい、飛び込んできたエリザベートの剣を防いだ。
「──あら、残念」
「ほう。どうやら気づいたか、妾の『逆鱗』に」
竜の逆鱗。
唯一の弱点とされるそれは、魔力障壁であるプルプルの『竜鱗』にも備わっていた。左斜やや下にある一枚。それだけが他と異なる色合いをしており、シルヴィアの目にも脆そうに見える。
おそらく、そこだけは容易に攻撃を通すのだろうが。
「やっぱり、弱点を突かせてはいただけませんのね?」
「無論。どうやらあまり手加減も必要なさそうだしの!」
「ならば!」
オートクレールの刀身が炎を纏う。
神聖なる力に加えて炎の魔力を帯びた剣が、まるで舞うように美しく、鋭く高速で振るわれる。即席魔法付与の必殺技に乱舞系の必殺技の組み合わせ。
当然、隙も大きい。加えて魔力も消耗してしまうけれど、
──戦術スキル『気力充填』。
シルヴィアの力が、仲間たちが切り札を吐き出し疲弊し始めたタイミングでそれを補充。イザベルのスキルクールタイムも回復し、エリザベートやヴァッフェ、ティーアの魔力も補われた。
そうなれば、連続して繰り出されるオートクレールの刃は竜にとっても脅威。
プルプルは爪で、爪で防ぎきれない分は竜鱗で剣を防いでいくも、
「ほう、
刀身を叩きつけられた竜鱗が砕け、刀身がさらに迫る。位置を組み替えられ、刃に追いついた別の鱗がそれを阻むも、
「どうやらその鱗も無敵ではありませんわねっ!」
「それがどうした。鱗はすぐに再生──っ!?」
隙をついて放たれた一本の矢が狙い違わず逆鱗に迫った。目を見開く竜娘。一瞬にして逆鱗が隣と
「……なるほど。やはり逆鱗の位置も変えられるのですわね」
「面白い。本当に面白いぞ、お主等!」
ギアを少しずつ上げながら一筋の勝機を狙い、同時に敵の手の内を一つずつ暴いていく。場合によっては今ので決まっていてもおかしくなったのだけれど、どうやらこの竜はこれで終わらないほどに、強い。
「良かろう。ならば四肢とこの尾をもって相手してやる。あっさりと死んでくれるなよ、人間の英雄よ!」
「ちょっ──」
「冗談ではありませんわ……っ!」
その猛威は、凝縮された嵐そのもの。
エリザベートの技にイザベルの援護、魔族二人の魔法をもってしてもなお、1秒後には瓦解しているのではないかという恐怖。
コンクリの壁をあっさり粉砕しそうな攻撃が一秒未満の間隔で次々に繰り出されるのだから、こんなもの、天災あるいは化け物と呼ぶしかない。
並みの兵では万を用意しても討伐できないだろう。
そんな、過去最大の敵に対して。
ギリギリ。本当にギリギリのタイミングで飛び込んだ聖なる光が、竜鱗の数枚を一気に削り取り、竜娘の動きを止めさせた。
アンジェ。
「あら。なんとか目が慣れてきましたわね、アンジェ様?」
天使の聖光は、当たりさえすれば竜にも有効打になりえるようだ。