わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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平穏無事とは言いづらい帰還

 そして。

 

「お帰りなさい、アンジェ、シルヴィア。……いいえ。あなたたちにはもう『様』をつけるべきかしら」

「ほう、これが聖女か。人間にしては悪くない。大人しく天使になっていればもっと上に行けたものを」

「竜に、天使だと!?」

「馬鹿な、一体どうなっている!?」

 

 帰還したシルヴィアたちは、都の寸前で兵と騎士に移動を止められた。

 大騒ぎにならないようにと先触れを送っておいたのだけれど、それでも大手を振って歓迎、というわけにはいかなかったらしい。

 聖女アンジェリカが一緒にいたのは純粋にシルヴィアたちを迎えるため。

 

 動員された騎士の中にいたクレールは「ほらね。そんなことだと思った」と笑って、

 

「でも二人とも? 天使になって戻ってくるなんてあたし聞いてないんだけど!?」

「う。それについては……ごめんなさい。あの時点ではまだどうなるかわからないところがあったし、あんまり言いふらしていい内容でもなかったから」

 

 詳しい話をせずに天使になってしまった件についてはしっかり怒った。

 

「……もう。別にいいけどさ。シルヴィアもアンジェも変わりないみたいだし」

「えっと、もしいろいろ変わってたら?」

「最悪ぶん殴ってたかな」

 

 こわい。アンジェと顔を見合わせて震えていると、その間にクレールは竜娘──プルプルへと視線を向けて、

 

「でも、ぶん殴るならこっちのほうが面白そう」

「ほほう。お主、なかなかに見どころがありそうじゃの。良いぞ、いつでも稽古をつけてやる。なんと言っても妾はシルヴィアの嫁じゃ」

「嫁ぇ!? シルヴィア、その話は聞いてないんだけど!?」

「こんなの伝令の兵士さんが話しても誰も信じないでしょ!?」

 

 ぶっちゃけ「二名が天使化したうえ、竜を手なづけて帰還します」だけでギリギリというか、大幅にアウトである。

 実際、シルヴィアたちと一緒に竜娘が普通に大人しくしている光景、しかもシルヴィアたちはわかりやすく翼を広げた状態に、あっさり「ま、いっか」と順応したのは『銀百合』の面々ばかりで。

 残りの兵士や騎士たちはというと、

 

「おい、本当に大丈夫なのか?」

「あまりにも事態が非常識すぎる」

「竜が本当に実在したとは……。こんなもの、都の中で暴れられればどうしようもないぞ?」

 

 さもありなん。

 彼らの反応ももっともなのだが、足止めを食らったことに当の竜はお怒りで、

 

「おい、そこの雑魚ども。なんなら力ずくで押し通ってやろうか?」

「プルプル」

「言うな。力の差もわからぬ愚か者共はいっそ消えてしまったほうが良かろう」

「皆様。過度な警戒はむしろ竜を刺激するだけです。こうして実在を確認できた以上、襲われれば大打撃を受けることは確実。であれば、戦うよりも共存の道を探るべきではありませんか?」

 

 アンジェリカの訴えに、頭痛をこらえるような表情で前に出てきたのは、

 

「騎士団長」

「もはや名ばかりの団長職だがな」

 

 元副団長である彼は『銀百合』とのあれこれで求心力を失った挙げ句、王権派関連の煽りを喰らってさらに不安定な立場になっている。

 現在の騎士団は副団長も同派閥の人間であり、人を入れ替えるとするならば団長副団長両方──しかし、すぐに交代できる人員はいないため、ひとまずそのままに地位に留め置かれている。

 別に解任されても逮捕されたりはしないはずだが、現時点で減給処分を喰らっており、肩身の狭い立場にはあるらしい。

 いろいろな意味で辛そうな彼はため息をついて、

 

「陛下がお会いになる。大人しくついてこい」

「なんじゃ。こやつ大して強くないではないか。魔力は多いくせに使いこなせておらぬ。いっそ魔法使いにでもなればよかったものを」

「プルプル。人間は神託で職業が決まるんだよ」

「個体では狩りもできん弱小種族は面倒事が多いな」

 

 言いたい放題の竜娘を大勢の人が「こいつ俺達より強くなかったらぶっ殺してるぞ」という顔で見ていた。

 なお、プルプルにはひとまず長い布を巻き付けたような服とも言えないような服を着せている。面倒だから服なんて着たくないらしいけれど、さすがに男の前で全裸はまずいので応急処置である。

 シルヴィアはこくりと頷いて、

 

「なんの抵抗もいたしません。先導をお願いいたします」

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「……おお、これは」

 

 人から天使へと変わった者が二人。

 天使を皆殺せる力を持った竜が一人。

 その竜から「竜殺しに匹敵する」と評された騎士が二人。

 そうそうたる面々を前にした国王は目をみはり「跪く必要はない」と告げた。

 

「シルヴィア、そしてアンジェよ。我が前へ」

「ですが、陛下」

「構わぬ。其方らを見下ろす事こそ不敬であると我は考えている」

「おお、なかなかに身の程をわきまえているではないか、人の王よ」

 

 このやり取りに、脇に控えた王妃・重臣・騎士・兵士らが揃ってどよめく。一国の王であり、地位としてそれ以上はないところにいる男が自分を下に置いて「不敬」と口にしたからだ。

 そして、シルヴィアとアンジェが恐る恐る段を上がり、玉座の王を立ったまま「見下ろして」も、それにプルプルがついてきても、彼はなにも不満を口にしなかった。

 

「偉大なる天使よ。大いなる竜よ。……我は、其方らと生きて出会えた事に感謝する」

 

 彼の瞳には涙さえも浮かんでいた。

 

「陛下! 恐れながら、貴方様はこの国の最高権力者! そのように謙るべきでは──」

「ならぬ。確かに我は王。なれば、他国の王とも形の上では対等である。相手の国に住まうのがエルフや魔族であろうとも、だ」

 

 そこで「しかし」と言葉を切って、

 

「シルヴィアとアンジェはこの国の住人である」

「っ」

「我が国に属する『天使』。それが竜を従えて戻ってきたのだ。彼女らを下に置くことなどできはしない。むしろ、望まれるならばこの玉座を明け渡すことさえ考えるべきであろう」

「陛下。わたしたちはそのようなことを望みません。あくまでも臣下であり、国に反旗を翻すつもりは──」

「わかっておる」

 

 シルヴィアたちは前代未聞と言っていいほどに強大な力を手に入れた。プルプルがいることを考えれば『銀百合』だけ連れて国を出てやりたい放題することも不可能ではない。

 逆に、シルヴィアたち三人がこの国の利益のために力を振るえば、他国も容易に戦争を仕掛けることはできなくなる。

 

「だからこそ、我は其方らに報いたい。可能な限りの願いを叶えてやりたい。何でも言って欲しい」

「……そう言われましても」

 

 困ったシルヴィアはアンジェと顔を見合わせる。

 プルプルは「くれるというのだからもらっておけば良かろう」と適当なので頼りにならない。エリザベートやクレールも同席しているけれど、こちらも段の下で似たような顔をしていた。

 というかエリザベートなんか「可能な限りふっかけておきなさい」と目で訴えている。

 いやいや、そんな「今何でもくれるって言ったよね?」なんて国王陛下相手に言えるわけが、

 

「あの、でしたらお願いがございます」

「アンジェ様」

「うむ、言ってくれ」

 

 畳んだ状態ではあるものの、白い羽毛の翼を生やしたままのアンジェは胸に手を当てて、

 

「天使としてのこの力を私の裁量で振るう許可をくださいませ。聖女見習いとして、誓って悪事に使うことはいたしません」

「それは当然許可しよう。むしろそれを禁ずることなどできようはずがない」

「ありがとうございます。……では、もう一つ。私にシルヴィア様と同等の地位をいただけないでしょうか?」

「子爵位を、か。其方らの力は公爵位にも値すると思うが」

「そこまで望むつもりはありません。ただ、貴族に等しい『自由』をいただきたいのです」

「なるほど。わかった。そのように計らおう」

 

 国王に「ありがとうございます」と頭を下げたアンジェがシルヴィアを隣に見て、

 

「翼があれば辺境まで飛んでいくこともできます。聖女としてのお仕事も今までよりもたくさんこなせます。……そうすれば、一緒にいられる時間がもっと取れるでしょう?」

「……アンジェ様」

 

 胸が締め付けられるような思い。

 彼女との、彼女たちとの未来。そうか、そういう望みならシルヴィアにもある。

 

「陛下。であれば、わたしからも一つお願いしたく存じます」

「うむ。どのような望みであろうか?」

「はい。わたしに、あらゆる制限を排した『結婚の自由』をいただけないでしょうか」

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