わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「もう君のする事に私達ではついていけないよ……」
「……あはは。その、ごめんなさい」
「気にしないで。きっと必要なことなんでしょう? あなたは、あなたの大切な人と一緒に進んで行きなさい」
国王陛下に「誰とでも、何人とでも好きに結婚する権利をください」と言った。
両親からはドン引きされた。ドン引きされたうえで応援してもらえたのは本当にありがたい。こうなると騎士団内に両親がいるのは若干気まずい気もするけれど。
「なかなか大きく出たよね、シルヴィア。でもこれで問題は解決かな?」
各種の報告を終えて騎士団に戻ってきた後、ラシェルからそう言われた。
「そう、ですね。無事にお許しがいただけたので」
国王は「随分と安い願いだ」とシルヴィアの願いを聞き入れてくれた。
確かに「いいよ」と言えばそれで済むわけで。コストがかからないという意味では安い。けれど、これはある種、国どころか人間という種族のあり方にさえ影響する話だ。
シルヴィアは同性と結婚でき、かつ重婚が可能になった。
誰かが異議申し立てを行おうと「国王陛下の許可を頂いているので」で終わりである。これは本当に強い。最強だ。
国としてもメリットはある。
天使となったシルヴィアはこの国が保有する最高戦力の一人と言っていい。その子供は多い方が良いわけで、多くの相手を宛がえるのは願ったり叶ったりだ。
もちろん、相手役として男がお呼びじゃないのはいろんな人にとって不服だろうけれど。
「これでシルヴィアと結婚できるってことでしょ!? やった、ありがとうシルヴィア、天使になってくれて!」
「……もう、クレールってば。さっきあんなに怒ってたのに」
「それはそれ、これはこれだよ! みんなもそう思うでしょ?」
振り返った先には、シルヴィアと思いを伝えあった女の子たちが揃っている。
「本当に、あなたは驚くようなことばかりしてくださいますね」
ハーフエルフの少女、リゼットは微笑を浮かべて、
「わたくしに、愛する方との結婚が許されるなんて。……これ以上の幸せはありません」
エルフの血を国内に広げないために婚姻を制限されていたリゼット。けれど、シルヴィアと結婚する場合に限りその制限は無視される。
リゼットに結婚を認めないことがシルヴィアの結婚を制限することに繋がり、王が前言を翻したことになるからだ。
もちろんいろいろゴネる余地はあるものの、文句を言われるようならこちらも「じゃあ国外に出ますね」と言えばいい。亡命を希望すれば周辺諸国は喜んで受け入れてくれるだろう。なにしろ天使とハーフエルフと竜のセットだ。
公爵令嬢であるエリザベートも笑って、
「まったく、予想以上ですわ。……ですが、これで憂慮の種がほぼなくなりました。敢えて難を挙げるとすれば、わたくしたちの子が必ず女の子になることですけれど、そこは目を瞑りましょう」
彼女との娘は公爵家の血を引き、天使の血を半分受け継ぐ子になる。男の子ならば次期──正確にはエリザベートの兄の次なので次の次の公爵に指名されてもおかしくなかった。
「シルヴィアさんと結婚したら私、子爵夫人になるんでしょうか? ……私にはそれだけで栄転です。そのうえ、好きな人と結ばれていいなんて」
イザベルは男爵家から子爵家に嫁ぐ形になる。
シルヴィアの翼が娘にも受け継がれたとして──自ら飛行しながら弓を射る騎士はちょっとその、ゲーム的に考えても強すぎやしないだろうか。
「この命が尽きる時まで、あなたの傍に置いてください。私はこの先なにがあろうともあなたの隣りにいます、シルヴィア様」
アンジェとは「人から天使になった者」として、世界に唯一と言っていい同族になった。
寿命も延びてしまった彼女たちにとってこの絆は切っても切り離せない。彼女とはこれから永遠のように長い付き合いになることだろう。
シルヴィアは、みんなの気持ちを受け止め、胸に抱いて。
「うん。みんなのこと、絶対に大切にする。だから、わたしとずっと一緒にいてください」
これは、実利的に見てもいい話だ。
同性同士の婚姻であり、かつシルヴィアの家はシルヴィアが「初代」であるために融通がきく。妻として夫の家に入る必要がなく、クレールたちは騎士としての仕事を続けられる。
生まれた子は彼女たちの実家に入れてもいいし、トー家の子として育ててもいい。
「……ただ、その。天使の魔法でできるのは『相手に子供を産ませる』ことだから、みんなに産んでもらうことになっちゃうんだけど」
ちょっとその点だけは心苦しい。
シルヴィアだって女なので自分の子供を抱く感覚に興味がないわけではないし、相手に一方的な負担を強いるのは申し訳ないのだけれど。
「そういえば、天使はどうやって子供を作るんですの?」
「エルフとほとんど変わらないみたいだよ」
要するに魔法的な方法で遺伝情報を相手に送るわけである。用いるのが神聖魔法か魔法かの違いだけ。
ぶっちゃけ、男のアレを生やすタイプだったらどうしようかと思っていたので少しほっとした。天使=両性具有のイメージがあるし。
「では、エルフから教授されずとも、シルヴィア様の方法の応用でわたくしも習得できるかもしれませんね」
「あ、そっか。リゼット様は方法さえわかれば大丈夫なんですよね。それなら……」
「ちょっとシルヴィア。私たちの相手もちゃんとしなさいよ」
「そうよ。なんのためにあんたの傍にいると思ってるのよ」
ここで魔族二人が抗議。彼女たちに関してもシルヴィアが出産を担当することができる。
「妾も忘れてもらっては困るぞ。なに、安心せよ。竜の繁殖は単純じゃ。お主の腹に卵を産み付けてそれが孵るまで温めてくれれば──」
「却下!」
そのまま斬り殺そうとするんじゃないか、という勢いでクレールが前に出て、
「卵を産み付けられるとかシルヴィアが可愛そうだよ! 却下! 絶対却下だから!」
「ほう、威勢がいいな人間の騎士よ。じゃが、お主とはまだ戦っておらぬ。その実力をはっきりと認めたわけではないと覚えておけよ」
「じゃあ今すぐでも戦ってあげるよ! 表に出ろこの野郎!」
いや、この野郎ってクレール。
「二人とも落ち着いて! これなら仲間としてやっていくんだから仲良くしようよ」
「あはは。本当にここも賑やかになったね。……外聞の問題もほとんど解決しちゃったし、ボクもシルヴィアに娶ってもらおうかなあ」
「というかシルヴィアさん、プルプルさんは騎士団所属ということでいいんでしょうか?」
「ん? 妾は面倒な組織に縛られる気はないぞ? 女騎士共を暇つぶしに鍛えてやるくらいは請け負ってやるが」
「要はシルヴィアのペット兼騎士団の指導役ですわね。いいんじゃありませんこと? 食費以外は問題ありませんわ」
旅から帰ってきたばかりなのもあってわいわいと話が終わりそうにない。
そのうち部屋のドアがノックされて、マルグリットが困り顔で顔を出した。
「はいはい。いつまでも上層部で集まらない。会議ならともかく、くだらない話をしているだけでしょう?」
「お言葉ですけれど、マルグリット様。これはとても重要な話ですわ。婚姻を急がなくとも良くなれば勤続年数を伸ばせるのですから」
上級騎士として務め、婚期を逃しているマルグリットは「なるほど」と頷いて、
「シルヴィアと結婚すれば出産しても長く休まずに復帰できるわね。……私も立候補しようかしら?」
それは約一名異議を唱えそうな人がいるけれど……と思っていたらちょうどその人、マルグリットへ密かに思いを寄せているらしい上級騎士サラが追いかけてきて、
「待った! そういうことなら私も立候補するから! 絶対するから!」
「ええ? サラさんは無理しなくても……」
「いえ、シルヴィア? それならば偽装として十分機能するのでは?」
「……あ、なるほど」
表向きシルヴィアと結婚してもらって、裏ではマルグリットとサラでいちゃいちゃしてもらえばいいわけか。マルグリットが女同士でもOKということになればサラ的にはかなり前進なわけで、後は告白してOKをもらうだけである。
「ふふっ。これから大変になりそうですわね?」
「……あー、うん、それはそうかも」
実際、この後シルヴィアには無数の求婚が殺到し、大変なことになった。