わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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求婚は嬉しいけれど返答に困る

「シルヴィア。今こそ僕の気持ちを受け取って欲しい。トー家の婿になる覚悟はできている」

「ごめんなさい。わたし、男の人と結婚する気はないから」

「それはあまりにも酷な回答過ぎないか!?」

「そう言われても……。っていうかダミアン、婚約者が決まったんでしょ? 結婚の準備もそろそろ始まるのに」

「……最後のチャンスだと思ったんだがな」

 

 ダミアン・デュクロからの何度目かわからない求婚は、シルヴィアへの求婚のほんの一例だった。

 変に断るより「男全体駄目」と言ったほうが諦めがつくかと思ったのだけれど。

 結婚がほぼ決まっても求婚してくるとは。確かにギリギリ間に合うタイミングだけれど、あまりにも婚約者さんに申し訳ない。ささやかな贈り物と一緒に「わたしにその気はありません」と手紙を贈っておいた。

 

 そもそも、天使の魔法でできるのは「自分と相手の子を相手に産ませること」だ。

 子供を育み、産む能力のない男性には効果がない。

 となるとシルヴィアが産まないといけないわけで──男性と結婚する意味がそもそもあまりない。どうしてもという場合でも一人いればいい。とりあえず片っ端から結婚すればいいじゃん、とはならなかった。

 

 ダミアンの他にも婚約者や妻がいるのに求婚してきた不届き者はけっこういたのだけれど、そういうのは全部丁重にお断りした。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「おお、シルヴィア様」

「なんと神々しい……」

 

 都に戻ってきてから神殿に行くと崇められるようになった。信心深い都の住人もそれに倣うので、次第に都全体に「シルヴィア・トーが天使になった」ことが知られていきそうである。

 これについて神殿長にして聖女のアンジェリカは「仕方ないわね」というスタンス。

 

「本当なら私だって跪いて頭を垂れるべき立場だもの」

「本当にそれは勘弁してください」

「アンジェからもそう言われたわ。……それにしても、二人ともよく決断したわ」

 

 天使になる、という選択は今までの聖女が誰もしてこなかったもの。

 

「世への影響を考えると、私には選べなかった。……いいえ、それだけじゃない。人でなくなる恐怖に耐えられなかったのも大きい」

「……アンジェリカ様」

「アンジェを迎えて育てている時、そしてあなたと出会った時、変化の予感はあった。けれど、大きな変化を迎えるのは次世代かその次だと思っていた。意外と、変化というのは早く来るものなのかもしれないわね」

 

 アンジェリカからは「できるだけ翼を隠さないでくれないか」と頼まれた。

 

「神殿としては信徒を増やす最大のチャンスなの。あなたたちが侮られたり攻撃されないためにも、どうかしら?」

「そうですね……。建物の中だとときどき邪魔なのですけれど」

 

 貴族向けの建物は広く作られているので基本的には問題ない。翼を出しているほうが文字通り「羽を伸ばしている」感覚があって気持ちがいいし。

 特別に意図のない時は翼を表に出すことをアンジェと相談して決めた。

 

「あの、アンジェ様はこれからどうなるのでしょうか?」

「天使の力があれば聖女を引き継ぐのに申し分ない──と言いたいところだけれど、むしろアンジェはもう聖女の枠に収まる存在ではなくなってしまったわ」

 

 現聖女のアンジェリカを魔力でも、神聖魔法の威力でも圧倒できるうえに神の寵愛を姿かたちで表しているのだから、別に肩書きなんて今更いらない。

 

「聖女に据えるのは失礼にあたる、という声もあるし、シルヴィアともどもまったく新しい階級についてもらうことになるかしら」

「それって」

「それはもちろん『天使』よ」

 

 もはや聖職者の階級ではない。AランクのうえにSランクができたようなものである。

 

「神殿の手伝いはしてもらうけれど、それ以外は騎士団で過ごしてもらって構わないわ。……それから、あなたたちが直接請われて力を振るう時の対応も決めておかないとね」

 

 アンジェともども魔力は有り余っているけれど、頼まれたからとほいほい癒やしたりしていては不公平が生まれてしまう。

 シルヴィアだって怪我や病気の人間を二十四時間三百六十五日癒やし続ける生活なんて送りたくないし、それをやっていたら神殿が潰れる。

 

「神殿の料金体系と揃えるのが無難でしょうか?」

「そうね。あなたたちに力を貸してもらえるなら多少、全体的な値を下げることもできるかもしれないけれど……」

 

 神殿長が変わって資金繰りが厳しくなったタイミングのため、これはひとまず保留となった。寄付や寄進がどの程度あるか様子を見ながら変更しても遅くはない。

 シルヴィアが外で請われて力を振るった場合、礼金は懐に入れていい……と、アンジェリカは言ってくれたけれど、

 

「纏まった額になったら何割か神殿に寄付いたしますね」

「断るべきなのでしょうけれど……正直助かるわ。ありがとう」

 

 資金繰りに余裕ができたらシルヴィアとアンジェの像を作り、神像の傍に飾るつもりだとも言われた。神の眷属であることを考えれば当然だけれど、その、物凄く恥ずかしい。

 

「……いっそ自分で作りましょうか? そのほうが多少マシのような」

「それならお互いの像を作ったらどうかしら?」

 

 神聖魔法で本格的に作った物は壊れにくく汚れにも強い。神殿そのものがその例だ。だから、シルヴィアたちが天使像を作るのは理に適っていると言う。

 もちろん謝礼は払ってくれるという話で──。

 

「それは悪いような……。というか、あまり職人の領分を侵すなとみんなからも言われているのです。残念ですが、出来上がった像に保護を施す程度で留めさせてください」

「そうね。確かにその通りだわ。それじゃあ、とびきり美しく作ってもらうようにお願いしなくちゃ」

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 騎士団内の空気は天使になってもそんなに変わらなかった。

 団の掃除担当である狼獣人のララ、リリ、ルルなんかはむしろもふもふに馴染みがあるのか率先して翼をもふってきたし、マルグリットやサラも「綺麗ね」で終わり。

 一般の騎士たちはというと、

 

「戦略家殿でも天使様でも、敬意を払うことに変わりはありません」

 

 とのこと。こういう時、体育会系の面々はさっぱりしていてありがたい。脳筋? それは言わない約束である。

 歳が近い面々はシルヴィアたちがあれこれやらかすのに慣れているというのもあるだろう。神聖魔法による治療も日常的に受けている。

 あと、騎士団の隣にある騎士学校の生徒なんかは、ふらりと飛んで訓練の様子を覗くと、

 

「あ、天使様だ!」

 

 と指をさして喜んでくれる。わかっているのかいないのか。とりあえず有難がられるのは悪い気分ではない。指をさした当人は教師から拳骨を喰らって怒られるのだけれど。

 

 

 

 

 

 さて。

 求婚を送ってきたのはなにも男ばかりではなかった。

 女性からの申し込みも思ったよりも多く寄せられた。その中には未亡人や人妻からのものも。

 国王と約束してもらったのは「あらゆる制限の撤廃」なのでルール上は人妻の略奪もできる。さすがにどうかと思うものの、美人女性からの申し込みは悪い気分ではなく。

 こちらは一つ一つ精査して返答していくことになった。

 単なる政略なのか、本当に好いてくれているのか、なにか特別な事情があるのかによっても対応は変わる。力になれることがあるなら協力したいというのもある。

 

 そんな中、

 

「シルヴィア。どうか、私の想いも受け取ってください」

 

 白い花だけで作った花束と共に求婚してきた女性がいた。

 元第六王女イリス。現伯爵は、真剣な表情で愛の告白を贈ってくれる。

 

「あなたと話している時間がなによりも楽しい。あなたの笑顔をもっと見ていたい。……駄目でしょうか?」

「もちろん、すごく嬉しいです。けれど、イリスならいくらでも相手がいるでしょう? それに、元とはいえ王族との婚姻なんて」

「天使様がなにを言っているのですか。陛下が認めた以上、あなたは王妃を略奪することさえ許されているというのに」

「それはそうですけれど」

「……承諾していただけるなら、私を好きなようにして構わないのですよ?」

 

 どきっとした。

 

「もちろん、誰にも身を許していません。たった一人の結婚相手のために磨き上げ、守り抜いてきた私のすべてをあなたに差し上げます」

 

 殺し文句にもほどがある。それはまあ、男性のように衝動的な欲望というのは少ないのだけれど、美しい女性を抱きしめたり押し倒したい気持ちは、もちろんある。

 

「……どうして、わたしをそこまで?」

 

 尋ねるシルヴィアに、イリスは熱を帯びた微笑を浮かべて、

 

「言ったでしょう? あなたとの時間が楽しいから、ただそれだけです。私は男性自体にそれほど興味はありません。……むしろ、商売の邪魔をされるのが煩わしいくらい」

 

 本当に、シルヴィアのところには変わった女性が集まってくる。

 そういうことならば。

 

「わかりました。……あなたの想い、一生大切にいたします」

 

 シルヴィアは元王女の手を恭しく取り、将来を誓った。

 そして。

 とろけるような笑みを浮かべたイリスは、ふっと表情を戻して、

 

「シルヴィア様。あなたは、この国を裏から支配するおつもりですか?」

 

 特大の重い質問を投げかけてきた。

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