わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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新しい流れと否定する者 1

 二人のほかは信頼のおける使用人しかいない部屋。

 盗み聞き防止も行われている。

 さっきまでとは別の意味で胸が締め付けられるのを感じながら、シルヴィアは「いいえ」と首を振った。

 

「わたしにそんなつもりはありません」

 

 シルヴィアはただ認めてほしかっただけだ。

 自分のしたいことを。ひいては女性の権利を。

 人の世が停滞しているというのなら、シルヴィアとアンジェの天使化が進化を、発展を促すことに繋がるだろう。

 将来、性別がひとつに統一されれば、男が女を支配する構図はなくなる。

 

 ──そう、当然のことを言ったつもりだった。

 

 シルヴィアの回答に、けれどイリスは厳しい表情を崩さなかった。

 

「でしたら、その考えは甘いと言わざるをえません」

「……え」

「おわかりではありませんか? シルヴィア様、あなたはこれから人の何倍も生きるのですよ? 人より強い力を持って、私も含め、多くの相手と子を成して」

「イリス様の先ほどの告白は嘘ではないのですね。……まず、そこは安心いたしました」

「もちろん。私の気持ちは本物です。だからこそ、あなたの意思は確認しておかなければならないのです」

 

 考えてみれば、イリスの意見はもっともだ。

 例えば現時点で国王とは懇意にしている。彼に影響を及ぼせる人間を、次の王が蔑ろにできるだろうか? さらに次の王は?

 次の王が即位する頃には、シルヴィアは王よりも多くの知識を蓄え、王よりも長生きする存在になる。

 シルヴィアの娘たちが国の中枢に食い込めばその影響力はさらに大きくなるわけで、

 

「あなたが望む、望まないに関わらず、あなたの影響は今後拡大し続けます。それこそ、王を動かすことさえ可能なほどに」

「わたしに国を私物化するつもりはありません。あくまでも、みんなの幸せが望みです」

「理解しています。そんなあなただからこそ、みな助けたいと思うのでしょう。だからこそ、これから訪れる波を覚悟しなければなりません」

「波?」

「程なく、国が二つに割れます。間違いなく、あなたを否定しようとする者たちが現れます」

「それは、王権派のような?」

「もはや派閥は関係ありません。これまでの人の営みを守ろうとする者たちすべてがあなたを否定しようとしてくるでしょう」

 

 これもまた、当然の話だ。

 あまりにも急激な変化。エリザベートたちと「できるだけ反発を抑えよう」と言っていたはずなのに、気づけば全速力どころかワープする勢いでここまでたどり着いてしまった。

 おかげで生きているうちに「人の進化」を見届けられそうな気がしてきたけれど、そんなスピードに全員がついてこれるわけがない。

 

 本当に、人の半分──あるいはそれ以上を相手にしないといけないのではないか。

 恐ろしい想像に襲われ、シルヴィアは身を震わせた。

 

「どうして、それがわかっていてイリス様は」

「あなたと懇意にしてきたのは、私があなたに賭けたからです。世界が良く変わる可能性に乗ったからです。もちろん最後まであなたと共に駆け抜けるつもりですよ」

 

 だからこそ、言うべきことは言わなければならない。

 

「今はまだ接触はありませんか?」

「はい。求婚は無数に来ていますけれど……」

「まだほんの数日ですからね。ですが、もう間もなくでしょう。あなたは、これまでとは異なる規模で『否定』されます」

 

 イリスはシルヴィアの右手に自身の手のひらを重ねると、優しく告げた。

 

「共にそれを乗り越えましょう」

 

 予言は間もなく現実のものとなった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「騎士団に納入されるはずの食材が届かない?」

 

 貴族学校を卒業したシルヴィアは騎士団の専属となった。

 城や神殿に顔を出す時以外は騎士団内、戦略家用の執務室にいるようになったのだけれど──イリスから警告を受けた翌日の午前中、彼女はエリザベートの執務室に呼び出された。

 行ってみると告げられたのが食品納入の不備である。

 困り顔で立っていたのは他でもない、食堂の責任者──つまりはシルヴィアの父である。

 

「はい、トー子爵。肉、野菜、調味料、全て届いておりません。確認を取ったところ『お前達に売る品物は無い』と」

「なるほど。シルヴィアおよび『銀百合』騎士団に対する嫌がらせですわね」

 

 イリスの懸念については主要メンバーに共有してある。エリザベートは騎士団長席に座ったまま深くため息をついた。

 

「誰の差し金か知りませんけれど、またくだらない真似をしてくれたもので」

「そうは言ってもけっこうまずいんじゃない? みんな食べなきゃやっていけないよ」

「はい。ひとまず備蓄分で賄うとしても──切り詰めて一週間が限度かと」

 

 食料庫にも限りがあるし、その全てを魔道具の冷蔵庫にできるわけでもない。冷蔵庫に入れても永遠にもつわけではないのだから、備蓄はそう多くない。

 併設した研究所はこういう時のための備えにもなるけれど、

 

「ロザリーのほうの進捗はどうなんですの?」

「さすがにまだ動き出したばかりだから、食事を賄うほどの量は採れないよ。まともに使えるのは池の魚くらいだと思う」

「……ひとまずサラ先輩にお願いして魚を調達してもらいましょう。理論上は無限に調達可能なのですし、こういう時こそ頼らなくては」

 

 サラの恩恵は『釣りゲームの主人公』。

 ゲームの仕様をリアルに落とし込んだ結果、魚のいる水場で釣りをすると魚が増殖するというおかしな現象を起こせる。

 物流がバグるので普段はあまり使わないようにしてもらっているけれど緊急事態なので仕方ない。

 父は頷いて、

 

「念の為、ロザリーにも確認を取り、提供できる食材は提供してもらいます」

「お願いしますわ。出入りの商人にはこちらから働きかけを行いましょう」

 

 父が出ていくと、エリザベートは「面白くなってきましたわね」と呟いた。

 

「そんなこと言ってる場合じゃないとおもうけど……」

「それはそうですけれど、でも面白いじゃありませんの。いったいどれだけの貴族を敵に回したか、相手は本当にわかっているのかしら?」

 

 それはまあ、二つの公爵家を筆頭に大勢の令嬢が迷惑するわけだけれど。

 

「そもそも、食材の調達は長期契約で、支払いを月ごとに行っています。契約を切るつもりなのか、今月の支払いはどうするのか『きちんと』確認しなくてはいけませんわ」

「まさか、エリザベートが直接乗り込むつもり?」

「こういう時に公爵家の威光とわたくしの容姿を使わずにどうするんですの」

 

 商人さん泣いちゃわないか心配だけれど、元はと言えばやってきたのは向こうである。

 

「敵としても、シルヴィアや騎士団を直接攻撃はできないのでこういう手を取っているのでしょうね。あなたを否定することは国王陛下の方針に異を唱えるも同然、場合によっては反逆ですもの」

「逆に言うとそのリスクを犯してでも攻撃してきてるってことだよね」

「そうですわね。……それにしても、本当にわかっているのか怪しいものですわ。よりにもよって食料に手を出したりしたら──」

「おい! 食事の量が減らされるというのは本当か!? どこを狩れば妾の食事を確保できる!?」

「ほら、こうなりますわ」

 

 どうしてそんなに耳ざといのか、さっそくプルプルが殴り込んできた。みんなに聞かれると騒ぎになるから止めてほしいのだけれど。

 

「……現在の状況とわたくしたちの態度について、騎士団全体に共有したほうが良さそうですわね」

「うん。わたしはとりあえず、神聖魔法で食材を用意するよ。肉と野菜と調味料があればいいんでしょ?」

「その通りですけれど──事もなげに食料を調達されるとなんというか。竜だけでなく天使も大概でたらめな生き物ですわね」

 

 串に刺さった調理前の焼き鳥(冷蔵庫いっぱい)。

 にんじん、じゃがいも、たまねぎ(それぞれ百個)。

 塩と砂糖(一キロの袋×十袋)。

 ぽんと出して「これだけあればひとまずなんとかなりますか?」と聞いたら父に「少しは加減してください!」と怒られた。

 うん、まあ、多用すると市場価値が大暴落なのだけれど、今回は仕方ないじゃないか。

 

 なんてやっているうちにイリスの商会から使いが来た。馴染み深い元お頭が「厄介なことになったね」とため息をついてから、

 

「商会の仕入れにも多大な影響が出ている。だけど商会長は徹底抗戦するつもりだよ。これを機に取引先の見直しを徹底的に行うそうだ」

「であれば、騎士団の仕入れは全面的にそちらへお任せしたほうが良さそうですわね」

 

 内輪で繋がりすぎ? 確かにその通りだけれど、この世界、この国ではそんなの当たり前だ。気分で納品をストップするような業者をいつまでも使っていられないので、信用のおける知り合いに頼むほうがいい。

 

「こちらも徹底抗戦ですわ。団員の伝手も使えるだけ使わせていただきましょう」

 

 なんというかエリザベートは本当に楽しそうで、本当に頼もしかった。

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