わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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新しい流れと否定する者 2

 嫌がらせは商品の仕入れだけに留まらず。

 

「魔物の討伐要請です!」

「またですの? 既に今日二件目ですわよ?」

「はい……。どうやら騎士団が手一杯らしく、こちらで対応をとのことで……」

「そう。場所はどこですの?」

 

 馬で半日ほどの距離にある村の近辺だった。当然、往復だと一日以上かかる。村で一泊するとして二日を見たほうがいいだろう。

 魔物の種類はゴブリン。

 発見されたのは数匹とのことだけれど、

 

「ゴブリンは一匹見かけたら十匹いると思え、と言いますものね」

「うーん。あんまり人を減らしたくないんだけどなあ。どうしよっか、エリザベート?」

「そうですわね……」

 

 騎士団に要請が来るのは急ぎの件か大規模な討伐、後は遠くの案件が主。今回は楽な案件だけれど、だからこそ微妙な遠さが悩ましい。

 

「そうだ、わたしが行こうか? 一人ならさっと行って来られるし」

「あなた一人って……ああ、飛ぶ気ですのね?」

「そう。早いし楽なんだよね、これ」

 

 空からなら当然、道の影響を受けないし馬を休ませる必要もない。天使になって身体も丈夫になったためちょっとやそっとじゃ疲れない。

 

「こんな時にあなたを一人にするのは気が引けるのですけれど……」

「大丈夫だよ。お守りも持ってるし」

 

 軽く首のチョーカー──のふりをした魔族ヴァッフェを撫でる。

 エリザベートもこれには「そうですわね」と頷いて、

 

「わかりましたわ。でも、無理はしないように。別に日帰りの必要もないのですから」

「うん。ゴブリンを探すのに時間がかかるかもしれないしね」

 

 朝から食料の件があってそれなりに時間が経っている。シルヴィアは多めに昼食をとってから任務へと飛び立った。

 プルプルを連れていければ一番なのだけれど、ゴブリンごときに動かす戦力じゃないし、竜を不用意に人目にさらすと警戒される恐れがある。

 まあ、天使は天使で目立つのだけれど。

 

「すっごく見られてるなあ……」

「それはそうでしょう。飛行魔法を用いる魔法使いだって一握りなんだし」

 

 街中から多くの人がこちらを見上げ、中には指をさしてくる者もいる。さしづめ「鳥だ、飛行機だ」といったところか。

 この世界に飛行機はないけれど。

 他に飛ぶものがないということは空が自由だということ。電柱も高層ビルもないのでぶつかる心配がほとんどない。

 他とスピードを合わせる必要がなければ、まだまだ天使初心者のシルヴィアでもかなり速く飛ぶことができる。

 

 一度門で用件を伝え、許可をもらってから再度飛行。

 街道を見下ろしながら飛ぶのはなんとも気持ちいい。馬車に揺られるだけの旅とは大違いだ。

 

「ね、ヴァッフェ? この要請ってなにかの陰謀だと思う?」

「どうかしらね。あなたを確実に引っ張り出すのも難しいと思うけれど……なにかあると思っておいたほうがいいんじゃない?」

「だよねえ」

 

 要請のあった村には夕方になる前に着いた。天使の翼を物珍しそうに見られつつも、巫女の衣代わりの白いドレスと騎士団の紋章によって信用してもらう。

 

「ゴブリンが出たのはどのあたりですか?」

「村はずれの柵の辺りでございます。その方向には森がございまして……」

「では、森から来た可能性が高いですね」

 

 エリザベートにはああ答えたものの、早めに解決するに越したことはない。今日のうちに様子を見ておくことにする。

 村人たちはどこか怯えている様子。

 ゴブリン騒ぎ自体が嘘とは考えづらいけれど。

 

「巫女様……いや、その、天使様。どうかお気をつけください。痕跡は数匹でしたが、奴らは何匹いるかわかりません」

「痕跡? ゴブリン自体を見たわけではないのですか?」

「え、ええ。足跡と動物の死骸が転がっていただけで」

 

 なるほど。シルヴィアは「ありがとうございます」とお礼を言って森へと飛び立った。神聖魔法で明かりを浮かべれば視界は問題ない。

 飛んでいくシルヴィアを年寄りの何人かが祈りの姿勢で見送るのが見えた。

 

「村ぐるみの罠ではなさそうね」

「あんまり疑ってかかるのも良くないんだけどね……」

 

 森までは飛べばすぐだけれど、村からは多少離れている。森の傍でなにかあっても村にいる者には詳細がわからないだろう。

 徐々に暗くなり始める中、明かりと共に飛来したシルヴィアは、もし何者かが潜んでいるのならば格好の的のはずで。

 

「いるね。……ゴブリンじゃない。これって人間じゃない?」

「わかるようになったのね? あなたがこっち側に来てくれて本当に嬉しいわ」

 

 魔力や生命力を感知すれば相手のサイズや形はだいたい掴める。森に散らばった人間が全部で十人程度。魔力の高い者がそのうち三人。

 そこまで把握したところで木々の間から矢が飛んできた。

 無理にかわさず、障壁を展開して防ぐ。射手は五人といったところか。全てが当たるわけではないけれど、防いだことでシルヴィアの動きが鈍る。

 そこへ、森の端から腕を出した三人が、広範囲の風の魔法を放ってきた。

 障壁を維持。

 完全に動きを止めたシルヴィアに、残りの二人が何かを放ってくる。クロスボウを改造した射出機に載せられているのは魔道具だ。

 

 魔力の高まり。

 

 爆音が空に響き渡り、爆炎で視界が塞がれる。

 かなりの威力だ。リゼットが実戦で用いるレベルの爆発。魔道具は蓄積した魔力量に応じて制作者の実力以上の威力を持たせられるのがメリット。

 個々にそれだけの威力を持ったものが、二発。

 暗殺者の一件で摘発された魔道具も多かっただろうに、まだ隠し持っていたのか。あの時対象にならなかった者の所蔵品か、それとも新造したのか。

 

「……やったか?」

「油断するな。姿が見え次第、更に攻撃を行う。絶対に生かして帰すな」

「あらあら。これはまた、わかりやすい刺客ね。あなたかなり嫌われてるじゃない」

「そうみたいだね」

 

 魔道具の爆発を受けてもシルヴィアは無事だった。

 来るのがわかっている攻撃を、既に展開した障壁で受けただけ。この条件ならあの程度の攻撃でどうにかなるわけがない。

 それにしても。

 

「わたしだって、別に博愛精神の持ち主ってわけじゃないんだけどな」

 

 殺そうとしてきた相手に情けをかける義理はない。それに、彼らは村にも迷惑をかけている。

 返り討ちにされる覚悟で襲ってきたのだろう。

 飛翔。

 こちらから姿を現すと、弓や魔道具を向けてくる相手に聖光を放つ。衝撃は最小限、浄化と気絶を目的とした一撃が次々と敵の数を減らしていく。

 伏兵がいると厄介だけれど──シルヴィアの感覚にも、ヴァッフェの感知にも引っかからない。

 

「これなら私が対処するまでもないわね」

 

 森の木々に紛れて逃げようとした者もいたけれど、天使と魔族の感覚を紛れさせられるわけがない。十人は全員、無事に捕縛された。

 頭で思い浮かべただけでロープが生み出され、ひとりでに刺客達へと巻き付く。ついでに目隠しをして口も塞いで、めぼしい持ち物は没収した。

 それにしても、

 

「これ、どうやって運ぼうかなあ」

 

 一人二人なら持ち上げられるけれど、さすがに十人となると無理がある。

 悩んだ末、シルヴィアはまた神聖魔法で解決した。

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