わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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明日へ

 大規模浄化が行われたことで、都は外見だけでなく中身も少し様変わりした。

 一時的にではあるけれど犯罪や揉め事の類が激減したのだ。

 儀式の後、シルヴィアはさすがに疲労困憊、神殿内の部屋でぐっすり眠らせてもらったのだけれど──目覚めた後、儀式後の感想をみんなに尋ねたところ「すっきりした」と揃って回答があった。

 

「苛立ちなどのもやもやした気持ちがまとめて吹き飛ばされましたわ」

「うん。昨日はおかげでぐっすり眠れたよ」

「本当? わたしが大好きになったり、わたしのお願いならなんでも叶えてあげたい、みたいな気持ちにはなってない?」

「シルヴィアさん。それは私たちに聞いても正確な回答が出せないと思います」

 

 もともと大好きなのでよくわからない、と言われて真っ赤になった。

 

「シルヴィア様。城に『自首』してくる者が多く出ているそうですよ」

 

 悪いことをしました、ごめんなさい、と何人も偉い人に言いに行っているらしい。

 その影響か、儀式の後は少しずつ、騎士団への要請ラッシュも収まっていった。

 後から聞いたところによると都にいる貴族たちが地方にいる部下に「嫌がらせキャンセル」の命令を出したことで時間差で収束したそうだ。

 

 数日経つとシルヴィアたちは再び城へ呼び出され、事情を聞かされた。

 

「これまでの生活が──いいえ、人の営みそのものが脅かされる恐怖に心が侵されていたのです」

 

 邪心は浄化したものの、人の信条や立場まで浄化したわけじゃない。中にはシルヴィアたちへの敵意を再発させる者もいるかもしれないけれど、多くの人は行いを反省してくれた。

 人間が「人ですらないもの」に取って代わられるかもしれない、というのを考えれば彼らの焦りや恐怖もわからなくはない。

 

「殿下に陳情を行ってもお考えを変えてはくださらなかった。苛立ちは募り、暴力的な方向に思考が向かっていきました」

「最高権力者が自分の考えを採用してくれないから実力行使に出よう、という考え方そのものがありえないと思いますけれど」

「今ならばはっきりと過ちだったと理解できます。我々はやり方を大きく間違えた。犯してはならない罪を犯しました」

 

 人が変わったような反省ぶりは、一度気持ちを忘れて冷静になったおかげだ。今更後に退けない、といった気持ちは思考を一方向に凝り固まらせてしまう。

 

「……申し訳なかった、シルヴィア・トー。アンジェ殿。そして『銀百合』騎士団の方々。謝っても謝り切れない事はわかっているが、それでもせめて謝らせて欲しい」

 

 自首してきた貴族の証言によって嫌がらせ、攻撃に加担した貴族の多くを特定することができた。

 騎士を動かして儀式を妨害するのも、他者の領地で妨害工作を行うのも、民衆をいたずらに扇動するのも大きな罪であり、処刑されても文句は言えない。

 それでも、国王は温情を出す決断を下した。

 

「こちらの用意した公の場で正式な謝罪を行った者には大幅な減刑を行う。他でもない被害者達が、いたずらに命が損なわれる事を望んではおらぬ」

 

 甘い措置ではある。

 ただし、温情を受けるにはシルヴィアたちに公的な謝罪を行わなければならない。これは罪を認め、膝を屈したも同然だ。大事なプライドを傷つける行為に他ならない。

 今後何代にもわたって「お前の家は天使様を不当に傷つけたんだよな」と言われ続ける根拠となるわけで、人によっては「死んだほうがマシ」と考えてもおかしくない。

 加えて、減刑された場合でも私財の大幅な没収や当主の交代、爵位の降格などが行われる。没収された財産は被害を受けた領地への補填やシルヴィアたちへの賠償に用いられる。

 

 それでも、多くの貴族が謝罪した。

 全員が全員、シルヴィアたちが正しいと認めたわけではなかったけれど、

 

「私はお前達のやり方にはついていけぬ。正しいとも思わぬ。しかし、気に食わぬ者を抹殺すれば丸く収まる、などという思考は誇りある者としてあってはならないものであった。……私が間違っていた。本当に申し訳ない」

 

 悪意ある工作が止まればシルヴィアたちの積み重ねてきた実績、功績が正当に評価され、都の住人たちも口々に謝ってくれた。

 もともと一般の人々は躍らされていただけの者がほとんど。頭が冷えればごく普通の人々である。そもそも全員が嫌がらせに加担していたわけでもない。

 貴族や騎士に石を投げる行為も重罪ではあるものの──その罪を今回の件で再認識させられたこと、誰がどんな罪を犯したか確定するのが困難なことから今回は基本的に不問となった。

 重大な罰を受けたのはごく一部。

 浄化を免れた地方貴族のうち、嫌がらせに加担したとして名前の挙がった者については「浄化を受けるか、それとも重い罰を受けるか」を選択。

 国全体を揺るがす『大掃除』はなんとか最小の被害で収束へと向かったのだった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「やっとのんびりできるよ……」

 

 戦略家用の執務室で文字通り羽を伸ばしていると、ゼリエとスリスがくすりと笑った。

 

「慌ただしいこと続きでしたものね」

「戦略家は本来、普段から忙しい役職ではないのですよね? シルヴィア様は少し働き過ぎだと思います」

「うん。これを機に、少しは仕事を減らしたいな」

 

 卒業したばかりだというのに一生分働いた気分である。都中を綺麗にしたのだからその考えもある意味間違ってはいない。

 少しくらいご褒美があってもいいのでは。

 むむ、としばらく悩んだシルヴィアはぼそっと呟くように、

 

「《シュークリーム》」

 

 生み出されたふわふわ生地を齧り、中のクリームをたっぷりと味わう。

 

「ゼリエ、お茶を淹れてくれるかしら?」

「かしこまりました。……ですが、シルヴィア様? あまり間食をするとお太りになりますよ?」

「大丈夫。天使は太りにくいし肌荒れもしにくい体質なの」

 

 楓や椿から聞いた本当の特性である。竜ほど極端ではないにせよ、ある程度の食い溜めが可能。また摂取した栄養素を別の栄養素に変換して身体のバランスを取ることが可能らしい。

 大儀式を行った後なのでむしろ身体は栄養を欲しており、シュークリーム一個くらいではどうにもならない。

 というか、シュークリームならこの世界のシェフにも作れるわけで。チョコレートとかいちご大福とか、他じゃ絶対食べられないものを我慢しただけ偉いと思う。

 シュークリームの甘みを紅茶でさっぱりとさせ、またシュークリームを一口。

 

「ああ、幸せ……」

「まったくもう、安い幸せね」

 

 ヴァッフェが若干の呆れ声で言ってくるけれど、

 

「いいの。わたしは別に贅沢したいわけじゃないもの」

 

 『普通の暮らし』の基準が前世の自分にあるので平民の生活ではたぶん満足できない、というのは置いておくとして。

 

「平和が一番だよ、本当」

 

 争いごとなんてできるだけしたくない。

 魔物がいる以上、人同士がいがみ合わなくても戦いは起きる。それを防ぐには、やはり土地の浄化を行って回るしかないだろうか。

 長期的に安定させるには、各地に神像のようなものを設置してみんなに祈ってもらうべきか。

 

「戦争とか起きないといいけどなあ」

「あなた、それじゃ戦略家の仕事がないんじゃないの?」

「それでいいの。戦略家なんて出番がないほうが幸せなんだから」

 

 天使であり巫女でありみんなのお手伝いでもあるシルヴィアには他にもやるべきこと、やれることがたくさんある。

 それをひとつひとつやっていこう。

 そして、ようやく落ち着いたのだから、これからみんなとの関係を。

 

「ちなみに、誰を正妻にするかは決めたのかしら? 序列は付けないにせよ、手をつける順番は絶対に発生するでしょう?」

「う、それは」

 

 みんなとの関係を、一歩ずつ進めていきたい。

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