わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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章間 番外編
【番外編】正妻問答


「本日、集まっていただいたのは他でもありませんわ」

 

 夜、騎士団の主な業務が終了した後。

 騎士団は緊急の要請にも応じる必要があるため完全なオフではないものの、逆に言うと緊急の用件以外はスルーできる。

 

 場所は、戦略家用の執務室に併設された仮眠・休憩用の部屋。

 

 話を始めたのはエリザベート。他のメンバーはクレール、イザベル、リゼット、アンジェ、それからイリス。

 将来を見越して(公爵令嬢が使う可能性もゼロじゃない)広く造られているため狭苦しくはないものの、現在の主のはずなのに隅っこにちょこんと座らされたシルヴィアはちょっと手持ち無沙汰である。

 その理由は単純。

 

「この場にいる全員、シルヴィアとの婚約を結んだも同然の者たち。わたくしたちの中で『順番』を決めようと思います」

 

 いろいろあって先延ばしになっていた話が進む時が来たからだ。

 エリザベートの宣言に娘たちは真剣な面持ちで頷いてみせる。全員、その瞳には強い意思が宿っていた。つまり「棄権する気はない」ということである。

 なお、シルヴィアに求婚した面々のうちラシェルは「ボクは最後でいいよ」と不参加、緊急時の対応のため騎士団長室に詰めている。

 マルグリットはサラに「大事な話がある」と呼び出されて私室にいるはずだ。うまくいった場合は行くところまで話が進むかもしれない。

 プルプルとヴァッフェ、ティーアも順番にはこだわらないというか「初めてが自分たちじゃ後が心配だから」と余裕の棄権。ちょっとこわい。

 

 というわけで。

 

「みんな下りる気はないよね?」

 

 クレールの問いにリゼットが「もちろんです」と即答。

 

「争いは避けよう、ということで納得はいたしました。けれど、女として一番愛されたいという気持ちはございます」

「はい。シルヴィアさんが他の誰かと……と思っただけで……!」

 

 一番大人しい、というか理性的かと思ったイザベルでさえ拳を握りこみ、手のひらに血をにじませている。アンジェがすぐに治療してくれたけれど、その彼女も「絶対に譲りません」という顔をしていた。

 そこまで!? と思う一方で、シルヴィアが例えばエリザベートの立場だったら絶対嫉妬している。誰が一番でも恨みっこなしで納得するけれど、どうせなら自分が一番になりたい。

 その分だけこの状況は胃が痛い。

 

「シルヴィア様が選んでくれるのが一番早いのですけれど」

「イリス様……。この状況では選びづらいこと、よくわかっているでしょう?」

「ええ。けれど、やはりあなたが選ぶべきではないでしょうか?」

 

 それはまあ、そうだった。

 当事者中の当事者。シルヴィアが「この子!」と決めてしまえば文句は言えない。もちろんそういう観点から前もって悩んではいた。

 選ぶと言っても順番の話で、勝者が一人になるわけじゃない。

 なら、気持ちが命じるままに選べばいい。

 

 むしろシルヴィアの気持ち以外を考慮すると、公爵令嬢であるエリザベートやリゼット、天使となったアンジェ、王家の血を引くイリスを蔑ろにできない。序列順で決まってしまう可能性が高い。

 全員が期待の眼差しを向けてくる中、シルヴィアは一人の名前を口にした。

 

「なら、最初はクレールがいい」

「っ!」

 

 名を呼ばれたクレールが瞳を輝かせ、他の面々が落胆の息を漏らす。

 胸の痛みを感じつつ、シルヴィアは言葉を続けた。

 

「小さい頃から一緒にいた、わたしの幼馴染。……ううん、もうクレールとは姉妹みたいなもの。きっとクレールがわたしの初恋」

 

 元はといえば彼女からの告白の返事を待ってもらっていたのがすべての始まり。だから、一人を選ぶならば他にありえない。

 クレールもまた「信じてた」と言うようにシルヴィアを見つめて、

 

「待ってくださいませ」

「っ、エリザベート!? ここで『待った』はおかしくない?」

「おかしくありませんわ。わたくしは異議を唱えます」

「いや、シルヴィアが決めたらそれに従うって流れだったよね!?」

「判断材料を増やしてはいけないという決まりはありませんでしたわ。それにクレール、あなたには決定的に足りないものがあります」

 

 紅の瞳に見つめられると一瞬動揺を見せたものの、クレールはすぐに胸を張った。

 

「あたしが最初にシルヴィアと会ったんだもん。あたし以上にふさわしい人なんていないよ」

「わたくしはシルヴィアが戦略家見習いに任命された日、城でその姿を見ていますわ」

「なにそれ、初めて聞いたんだけど!?」

「初めて言いました。……あら、これではわたくしのほうが先になってしまいますわね?」

 

 一方的に認識していただけの関係を幼馴染と呼んでいいかはともかく、クレールは悔しそうに「ぐぬぬ」と呻いた。

 さらにイリスが手を挙げて、

 

「でしたら私からも意見を。……クレール様、いえ、クレールは初めての相手には不適当かと」

「イリス様まで!? 今度はなんで!?」

「あなたは夜の作法について詳しくないでしょう? お互いに初めて同士、しかも受け身では上手くいくものもいかないかと」

「!?」

 

 普段は凛々しい女騎士の顔が真っ赤に。「さ、作法って」と指をつんつんする姿は確かに、貴族的な淑女教育をしっかり受けているようには見えない。

 平民出身かつ単身で貴族になったシルヴィアもそんなもの受けていないけれど。

 王族や公爵令嬢である面々は「将来旦那様となる方を喜ばせられるように」と、同性の教師や道具を教材に作法を教え込まれているはずで。

 要約すると「どうせお前土壇場でヘタレるじゃん」とクレールは突きつけられたわけで。

 

「────」

 

 彼女は勢いに任せてなにかを反論しようとしてから、はあ、と息を吐いてそっぽを向いて、

 

「そんなことないもん」

「クレール? どうしてそこでテンション下がるの!?」

「しょうがないじゃん! じゃあシルヴィアはこういう時どうしていいかわかるわけ!?」

 

 シルヴィアは目をそらした。

 前世にはたくさんの物語が溢れていた。えっちな本や画像、動画も見ようと思えばいっぱい見られた。死んだ時にはお酒を飲める年齢だったわけで、当然、知識だけならいろいろある。けっこうある。

 もし、同性の恋人がいたらしてみたいこともいっぱいある。でもこの状況で言えるかというと。

 

「あの、でしたら私なら身体も丈夫ですし、互いに癒やしを掛け合えるかと」

「アンジェ様!? シルヴィアになにされる前提で話してるの!? っていうか身体ならあたしだって丈夫だし!」

「あの、シルヴィアさん。……私、痛いことでも恥ずかしいことでも大丈夫ですから、その、どうでしょうか?」

「イザベルまで……。うん、わかった。よくわかった。なら誰が一番身体が丈夫か、殴り合いで決着をつけようよ!」

 

 破れかぶれになったクレールがすごいことを言い出した。

 追い詰めた側にも責任はあるような気がするけれど、エリザベートとイザベルはジト目になって、

 

「ですから、ヘタレに用はありませんわ」

「自分が一番有利な勝負を持ち出すのは卑怯だと思います」

 

 なんというかみんな言いたい放題。良くも悪くも純粋で真っ直ぐなクレールはすっかりいじられる役回りだった。

 どうして話がこんな方向に向かってしまうのか。

 それぞれのメイドには執務室で待機してもらっているけれど、話を聞かれていたら「主がこんな馬鹿な話を……」と頭を抱えてしまうかもしれない。

 

 ああもうめちゃくちゃだよ!

 

 で、そこからさらにわいわいやった末、当初の決定通りクレールが一番に選ばれた。

 この騒ぎはいったいなんだったのか。

 まあ、エリザベートたちも文句を言いたかっただけ、納得したかっただけで無理やり決定を捻じ曲げたかったわけではなかった……のかもしれない。どうだろう。あわよくば、くらいの狙いはあったかもしれない。

 ともあれ。

 

「えっと。じゃあ、クレール。……する?」

 

 上目遣いで問いかける。

 貴族令嬢に傷をつけるのであれば結婚してからがベストだけれど、当人同士で婚約を合意していれば十分ではある。

 そもそも女の子同士だから物理的な喪失は発生させずに終えられるわけで、特に今夜でもなんの問題もないのだけれど。

 クレールはさっと目をそらして、

 

「ちょっ、ちょっと待って。そのさ、もうちょっと心の準備を」

「クレール? あなたぶん殴りますわよ?」

 

 こうして。

 最初は物凄く揉めたものの、全員が一巡した後はスムーズに話が進むようになって。

 夜ごと誰かが寝室を訪れるので「夜にシルヴィア・トーの寝室を侵すのは絶対に避けなくてはならない」と、後に『銀百合』騎士団に不文律が生まれたとか生まれなかったとか。

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