わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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【番外編】それぞれの想い

 姉妹のようなもの、と言うなら確かにそうだ。

 クレール・エルミートにとってもシルヴィア・トーは妹のような存在だった。

 可愛くて、人懐っこくて、賢くて、クレールよりもずっと優秀な妹。

 

「クレールはすごいね」

 

 何度も何度もそう言ってもらったけれど、クレールからすればすごいのはシルヴィアのほうだ。戦いが得意なだけの自分と違って、彼女は視野が広く、いろんなことを知っていて、先を見通している。

 彼女はいつか自分を置いていってしまうんじゃないか、と、ずっと思っていた。

 実際、神様の文字が読めると言い出したり、神聖魔法を使い始めたり、天使になって帰ってきたり、竜を従えてみたり、都全体を綺麗にしてみたり、シルヴィアはどんどん先に行ってしまう。

 

 けれど、彼女はその度に帰ってきてくれる。

 

「わたしの居場所はここだから」

 

 すごいけれど、シルヴィアは一人だとどこか危なっかしい。

 だからクレールがシルヴィアの騎士をする。

 ダミアンから告白されたシルヴィアのために初めて戦った時。あの時にはもう、一生この子を守っていこうと心に決めていた気がする。

 

 想いは、気持ちを重ね合っても変わらなかった。

 それどころか、前よりずっと強くなってしまった。

 

 子供だった頃とは違う意味で。

 二人で夜を明かして、穏やかな彼女の寝顔を見つめながら、クレールは囁いた。

 

「大好きだよ、シルヴィア」

 

 

    ◆    ◆    ◆

 

 

 一目見た時から「綺麗だ」と思っていた。

 公爵令嬢として生まれ、何不自由なく育ってきた自分。エリザベート・デュ・デュヴァリエは確かにあの時、シルヴィア・トーに嫉妬を覚えた。

 なにも持っていないはずの平民。

 城内で右も左もわからず、両親と共に困惑していた彼女。その彼女がこんなにも美しいだなんてエリザベートには許せなかったのだ。

 

 だから、彼女のことは無視することにした。

 

 父がその日お城へ連れて行ってくれたのは彼女が同じ学校に入るから。平民でありながら貴族社会に加わることになる少女の顔を覚えさせるため。

 顔は覚えた。けれど、それがなんだというのか。

 殊更気にかけてやる必要はない。気に入らないからと言って排斥するのもプライドが許さない。だから、存在は認めながら、必要がなければなんのアプローチもしないことにした。

 

 最初はただ、それだけだったのに。

 

 身体を動かすこと全般で同学年最下位。だというのに知識の吸収速度と理解力では誰よりも上。まるで、一度なにかの学問を修めたことのある者が別の分野に取り組んでいるかのような才能。

 そして、まさに神から恵まれたとしか言いようのない──神の文字を読むという異才。

 結局、エリザベートは自分から声をかけた。そして、気づいたら目が離せなくなっていた。

 

 優秀なくせにそれを鼻にかけず、他者の長所を妬まず褒める。時折見せる子供っぽい部分が「放っておけない」と思わせ、時折覗く誰よりも鋭い部分に努力を喚起させられる。

 食事が良くなって、美しさにもさらに磨きがかかった。

 もう、手放すことなど考えられない。

 

「あなたのすべてを束縛させてもらいますわ。……わたくしたち全員で」

 

 なにもかもさらけ出して共に眠ったその夜の経験は、エリザベートをさらに一歩、大人へと進ませた。

 

 

    ◆    ◆    ◆

 

 

 自分は、彼女にとって特別な存在だ。

 イザベル・イストは密かにそう思い続けている。

 平民出身の準男爵と男爵家の令嬢。立場も比較的近かったし、騎士学校での成績が振るわなかったのも親近感があった。

 なにかにつけて張り合うエリザベートとクレールを一緒に見守ることだって何回もあった。

 

 シルヴィアから武器をもらったのも、イザベルが最初。

 

 彼女の任務に同行した回数だって多い。

 前に出て戦わなければいけないエリザベートたちと違い、イザベルはシルヴィアの傍で戦える。シルヴィアに教えてもらった弓の道が、シルヴィアを助けるための力になっている。

 

 もちろん、自分に魅力が足りないことはわかっている。

 

 地味な藍色の髪。同色の瞳。

 家柄でも他の女性たちに大きく劣る。勝てなくても仕方ない。

 別の意味で大切で尊敬しているエリザベートがシルヴィアと結ばれてくれたらそれだけで十分、それなら自分との縁も切れない……と考えたこともあった。

 

 なのに、イザベルは許された。

 

 たった一人しか選ばれないのならば絶対に選ばれなかった。けれど、シルヴィアが選んだ「全員」の中に自分はしっかりと入っていた。

 こんな幸運、あっていいのだろうか。

 毎日でなくてもいい。彼女の隣りにいられる幸せがあれば、これからなんだって頑張っていける。

 

「愛しています、シルヴィアさん。……これからも、ずっと」

 

 身を引くことなんてもう考えない。

 彼女との平穏を挫こうとする者が現れるのならば、何度だって弓を引こう。きっとそれがイザベル・イストの使命なのだから。

 

 

    ◆    ◆    ◆

 

 

 彼女との出会いはきっと運命だったのだろう。

 出会いから仲良くなるまでに時間はかからなかった。今思えば、惹かれ合うとはああいうことだったのだろうと思う。

 リゼット・プレヴェールはずっと籠の鳥だった。

 籠から出してくれようとする者はたくさんいた。けれど、彼らはみな別の籠へ移そうとするだけだった。ただ一人、シルヴィアを除いては。

 

 リゼットはエルフの王族とこの国の王妃の間に生まれた子だ。

 

 ハーフエルフという境遇だけでなく、どこか本質的な部分で「自分は人とは違う」といつも感じていた。それはもしかしたら「男性を愛せない」ということだったのかもしれない。

 エルフの血がそうさせるのか、それとも個人の性質なのか。

 同性といる時間が心地よく、ずっと続いてほしいと思う。

 けれど、公爵令嬢という肩書きとハーフエルフという特別性がリゼットに「本当の友人」を作らせてくれなかった。シルヴィア・トーがそっと寄り添ってくれるまでは。

 

 彼女との出会いで、リゼットの道は開けた。

 

 王子からの求婚をはねのけ、貴族学校という檻から抜け出した。行動制限は有名無実化し、街に出るのも今はずっと楽だ。

 シルヴィアと婚約を決めたことで、男性からの求婚に悩まされる心配も完全になくなった。

 彼女が自分に自由をくれた。

 友情を、愛情を、未来を夢見ることを教えてくれた。

 

「シルヴィア様。……わたくしは、自分が思っている以上に情の深い女なのかもしれません」

 

 そっと抱いた腕の温もりを、ずっと手放したくないと心から思った。

 

 

    ◆    ◆    ◆

 

 

 始めは噂を聞いて「興味深い」と思った。それだけだった。

 平民から貴族になり戦略家を目指す少女。それは王族でありながら商人の道を示され、伯爵になることが決まっていた自分と逆のようだと思った。

 

 イリスは子供の頃から変わっていた。

 

 商人の気質なのだろうか。それともそう示されたから興味がそちらに向かったのか。金、というものが不思議で、気づくとそのことばかり考えていた。

 多くの姫、貴族令嬢にとって金銭とは数字に過ぎない。

 自分で一枚一枚数えることなんてないし、あるのが当然。だからイリスは浮いていた。人付き合いはできるほうだったけれど、それは心の奥底を隠して、当たり障りのない範囲で立ち回っていたからだ。

 

 けれど、シルヴィア・トーには隠しごとをする必要がなかった。

 

 節約する。値切る。金を稼ぐことが当たり前の平民出身。それ以上に彼女は頭ごなしに人を否定しない。困った顔をすることはあってもイリスの想いを受け入れて尊重してくれる。

 おまけに、イリスの相談に乗っては期待以上の答えをくれる。

 商人として、利害関係、利用し合う関係は当たり前だ。……それでも、そういったものを超越してなお、彼女との縁を大事にしたいと思った。

 

 商売として成功するだけならばシルヴィアを切ったほうがあるいはうまくいったかもしれない。彼女を尊重したせいで関係を切らざるをえなくなった貴族もいたし、一つ一つは大した儲けにならない平民向けの商売も続けることになった。

 それでも。

 笑顔が好きだと言ったあの言葉に嘘はない。むしろあれこそが本心だと言っていい。

 

 利害はない。今はもう、ただ純粋に。

 

「運命共同体として、これからもよろしくお願いいたしますね。シルヴィア様」

 

 商売のことを完全に忘れてのひとときは久しぶりだと、彼女の髪をそっと指で梳きながら思った。

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