わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「くそ、シルヴィアの奴。一人で何人も女を持っていきやがって」
「気づいたらいい身体に育っているし、本当に腹立たしいな」
こいつら相当酔ってるな。
ダミアン・デュクロはちびちび盃を傾けつつそう思った。
ここは騎士団寮。同期三人の部屋に別部屋の三人が集まって酒盛りの最中だ。
同期だけだし、敷地内に女性騎士は誰もいないので遠慮はいらない。普段は友人同士であっても話しづらいことも酒の勢いでぽんぽん飛び出してくる。
まあ、言いたくなる気持ちもわからなくはない。
シルヴィア・トーは彼らにとってはよく知った相手。騎士学校卒業と同時に接点が薄くなったため、印象が「万年最下位の劣等生」「クレールがいないと喧嘩もできない奴」で止まっている者も多い。
ダミアンにしたところであの少女にはいろいろと言いたいことがある。
何度求婚を断られたか。挙げ句、いつの間にか婚約者と仲良くなっていた。好きだった相手、というか今でも想いを燻らせている相手に他の相手との結婚をお膳立てされた気分といったら。
……いや、まあ、それはいい。
要は同期、それからダミアンたちより下の世代は先輩たちほどシルヴィアに変な敵愾心は持っていない。対抗意識はあってもどこか舐めているというか、得体の知れない相手としては扱わず人格を認めている。
あれは同性に甘く、甘いものが好きで、剣が苦手で、発想が突飛なだけの女だ。
天使になってもそれは変わらない。
なので逆にこうして遠慮なく話もできるわけだが、
「なんだよあの胸の大きさ。あれを両手で包みこんで思う存分揉めたらと思うと……」
「ああ、女に独占させていい大きさではないな」
本人が聞いたら憤慨しそうな話である。
「まあ、エルミート達と婚約したって言われた時はさすがに少し驚いたが」
「『そうだよな』と妙な納得もあったな」
「……だけど、彼女はエルミートやデュヴァリエを独占するんだよな」
ごく、と、ダミアン以外の五人が唾を飲む。
「やっぱり羨ましすぎる」
「なんだよそれ。女同士とか重大な損失だろう?」
「だがある意味男の夢じゃないか? 妻と愛人に囲まれて夜を明かしたいと思った事くらいあるだろう」
「そこに俺がいなきゃ意味ないだろうが!」
本当に酔ってるなこいつら。
適当に「ああ」とか「うん」とか相槌を打ちつつ話を流していると、彼らはどんどんエスカレートして、
「夜って、どんな感じだと思うよ?」
「そりゃあ女同士だろ? ……女同士ってどうするんだろうな?」
「想像しただけで興奮してくるな」
クレールたちはともかくシルヴィアで妄想するな、と言いたかったが、婚約者に言いつけられたら困るので黙っておく。
そして話は一人一人の夜を想像する方向に行って、
「エルミートとか激しそうだよな」
「体力が有り余ってるからな。……上に乗って跳ねて欲しい」
「剣の扱いが上手いのが自慢なんだからちゃんと上達してもらわないとな」
本当こいつら言いたい放題だな。
確かにイメージとしてはその通りだが、さて、本当のところはどうなのか。ダミアンには知る由もない。
〜 〜
「……あはは。これ、思ったより恥ずかしいね? えっと、その、いいよ? シルヴィアの好きなようにして」
「だ、だって恥ずかしいじゃん! やったこともないし。逆にシルヴィアはなんでそんなに落ち着いてるのさ!?」
「……そ、そっか。我慢してくれてるんだ。なら、やめちゃいなよ、我慢。あたしは大丈夫だから、ね?」
◇ ◇ ◇
「デュヴァリエ公爵令嬢はどうだ?」
「口だけは達者だけど下手そう」
「いちいちキスを強請ってきて面倒臭そう」
「夜の衣装の選び方が独特で若干萎えそう」
「匂いと身体だけは一級品」
万が一知られたら殺されるぞお前ら。
〜 〜
「んっ、ふっ……。ふふっ。今日は何度でも、口づけをしていいのですわよね? 何度でも味わわせてくださいませ。シルヴィア、あなたを……っ」
「可愛い、と言ってくださるのですか? ありがとうございます。どれがいいか散々迷った末に選んだのですわ」
「あらあら、シルヴィアったらなにを慌てていますの? 言ったでしょう? 殿方相手の想定ではありましたけれど、教育はきちんと受けていると」
◇ ◇ ◇
「イザベルかあ。あいつはよくわからないな」
「夜はねちっこい印象があるな」
「ああ。地味なくせにえんえんと強請ってきそうだな」
「素っ気なくすると泣いて縋ってくれそうではある。それはそれで滾る」
ダミアンは窓から矢が飛んでこないか警戒しつつ、座る位置をさりげなく射線から外した。
〜 〜
「こうしてあなたと触れ合えるなんて夢みたいです。……ずっと、こうしていたい」
「んっ、はいっ、お好きなようにしてください。あなたに触れられただけで、私……っ!」
「私にも教えてくださいね? どうしたらいいか、ちゃんと覚えますから……っ」
◇ ◇ ◇
「聖女見習い、もとい、もう一人の天使様まで相手か。まあ天使ってのはそういうものなんだろうが」
「俺、聖女を娶りたい奴らの気持ちはなんとなくわかるんだよな」
「わかる。清らかなものを穢したいというか、大事にしてきたものを奪うのは興奮するよな」
〜 〜
「あの、シルヴィア様。我儘を言ってもよろしいですか? その、ぎゅっ、と抱きしめていただきたいのです」
「温かい……。人肌の温もりというものはこんなにも心地いいものなのですね。人が相手を求める理由がわかります」
「理解できました。愛とは、与え合うものなのだと。愛しています、シルヴィア様。これからも、ずっと」
◇ ◇ ◇
「……イリス殿下は、どうなんだ?」
「そりゃああの美しさだけでお釣りが来るだろ」
「本人は『早く済ませてくださいね』みたいな印象があるが」
「好きにさせてくれるとか最高じゃないのか?」
「今はもう殿下じゃないとはいえ、さすがに処分されるぞお前ら」
〜 〜
「いかがでしょう? この日のために取り寄せた特別な香です。心を鎮めると同時に身体の熱を高める効能があるとか」
「こうして肌を触れ合わせることになるなんて、初めて会ったときは思いませんでした。……ええ、もちろん、後悔はしていませんよ?」
「ふふっ。あなたに触れられた手つきはすべて覚えておきます。そして、あなたにもお返しいたします。私、物覚えはいいほうですので」
◇ ◇ ◇
「……ああ、くそ。本当に羨ましいな」
「ああ羨ましい。羨ましいからシルヴィアでも妄想してやる」
「昔は頭でっかちで生意気な奴としか思わなかったが、いいよな。あんな風に育つとは思わなかった」
思わなかったならそれはお前らに見る目がなかったんだよ! と、ダミアンは心の中で叫んだ。
「女騎士連中と違ってあまり日に当たらないから肌も輪をかけて良質なんだよな」
「あの翼って敏感なんだろ? 撫でてやって反応を見るのも楽しそうだ」
「あの細腕じゃ組み敷いてしまえば抵抗できないだろうからな。思う存分可愛がってやりたい」
「礼儀作法を覚えたおかげで結婚相手としても悪くないよな。上下関係を躾けてしまえば頭の良さも利点になる」
「何と言ってもあの胸だろう。揉むもよし、挟むもよし、裸に剥いて眺めるだけでも格別に違いない」
昔は興味なかったくせに今になって言いたい放題言いやがって。
「全員、何もわかっていない。あいつを一番見てきたのはこの僕だぞ」
「おう、どうしたダミアン。そんなにシルヴィアが大事か?」
「大事に決まっているだろう! いいか、彼女の魅力はそんなところだけじゃない! 僕がそれをたっぷりと教えてやる!」
気づいたら同期五人を床に座らせてシルヴィアの良いところを熱弁していた。他の部屋にもこの騒ぎは知られたようで、婚約者はどこから聞きつけたのか「随分お酒を楽しまれたそうで」と釘を刺してきた。
女の嫉妬というのは本当に怖い。
嫉妬深い女を何人も娶ろうというシルヴィア・トーは大丈夫なのか。今更ながらにそれが気になったダミアンであった。