わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
この世界での婚約も法的な手続きが存在するわけじゃない。
要は家同士の取り決めなので両家の当主が合意していればそれでOK。後々揉めないために書類を残すことはメジャーではあるものの、書式も決まっておらず、むしろ「婚約した」と公表することのほうが大きな意味を持っている。
というわけで、シルヴィアはみんなと正式に婚約するためにあちこちの家と話し合いを持たなくてはならなかった。
「……疲れた」
トー家の当主がシルヴィア自身なのでまだ楽といえば楽なのだけれど、それでも「娘さんをわたしにください」と言ってまわるのは骨が折れた。
みんな快く了承してくれたことがせめてもの救いだろうか。
クレールのエルミート家は「そんなことだろうと思っていた」という反応。
なにせ剣にしか興味のない跳ね返り娘(家族談)。
家に帰ってこさせるのがまず一苦労。帰ってくるたびに縁談の話をしたけれど答えは決まってノー。しつこく言うと「あたしは一生独身でいいの!」と突っぱねる。
そんなクレールがシルヴィアの話をする時は目をきらきらさせて話す。
これはもう、そういうことなのだろうとご両親は諦めていたという。
『結婚する気がない、となるとさすがに「不肖の娘」と言わざるをえなかったのですが……この子への態度を改めなくてはなりませんね』
同性婚なんて前代未聞だけれど、子供を作る気がないよりはずっとマシ。
天使が相手となれば優秀な子が生まれてくる可能性は高いだろうし、クレールは当主でもなんでもないので特に問題ない、とのことだった。
むしろシルヴィア相手なら結納金や結婚資金をたくさん用意しなくてもいい。
当面は騎士団の寮で十分だし、シルヴィアの側に家としてのしがらみがほぼないため、たまの里帰りも普通にできる。
『どうぞこの子をよろしくお願いいたします、トー子爵』
『こちらこそ、ご了承いただき誠にありがとうございます』
むしろ、家族からもこんな扱いでクレールとしてはいいのか、と少し心配にならなくもなかった。
◇ ◇ ◇
エリザベートのデュヴァリエ公爵家は最初からOKする前提で、結婚の条件を詰めにきた。
住居はどうするのか、金の問題はどうするのか、生まれた子をどう扱うのかなどなど、普段は味方になってくれることが多い父公爵がこの時ばかりは鬼に見えた。
いやまあ、話し合い自体は穏便に進んだし、シルヴィアの事情も十分に考慮してくれたのだけれど。
『エリザベートとの第一子については公爵家に養育権をいただきたい』
『お父様!? 嫁に行く娘の子を奪い取る気ですの!?』
『奪い取るわけではない。女性の元へ嫁にいくのはお前達が初めてなのだから、やりようはいくらでもある。前例を作っておくのは悪くあるまい』
女性の出産というのは一大事だ。
日本でもまだまだ大変なくらいだったので、この世界ではなおさら。公爵家は妊娠中のエリザベートの世話や出産の補助などを引き受ける、と言ってくれたのだ。
生まれてきた子としても公爵家で育ててもらったほうが不自由なく生活できる。
『お前も好きに帰ってくればいいし、トー子爵も滞在していただいて構わない。悪い条件ではなかろう』
『娘を養子として迎えるのは確定なのでしょうか? それとも、トー家の娘を単に預かって養育すると?』
『その点についてこれから話し合いたいと思っていた』
シルヴィアたちの娘を次期当主の養子とするのか。それともエリザベートの籍を公爵家に残したままにし、そのまま娘として育てるのか。
少なくともクレールやイザベルはトー家の嫁という形になるのでシルヴィアが嫁に行くことはできないのだけれど、そもそも女性同士の婚姻に国の法が対応していない。
いっそシルヴィアがいろんな家の籍に反復横跳びしても問題ないのかもしれない……などなど。
なんというか、こういう方向性で頭が痛くなるとは思わなかった。
けれど、結果的にはいい感じに話が纏まったと思う。双方合意の上でエリザベートの相手はシルヴィア、ということで話がまとまった。
◇ ◇ ◇
イザベルのイスト男爵家に関しては語ることがあまりない。
爵位で言うと子爵であるシルヴィアは男爵家よりも格上。『銀百合』の戦略家であるため収入も実はけっこう多い。これからの活躍も期待できるうえに優秀な子や良好なコネも見込めるとあって「どうぞよろしくお願いします」でほぼ終わりだった。
むしろ、シルヴィアの側から謝礼金などの話を持ちかけたくらい。
嫁にもらう対価としてまとまった額を男爵家に支払うこと。
結婚と同時にイザベルの専属メイドをトー家のメイドとして雇い入れること。
などなど、いくつかの条件を決めただけで話が終わった。
◇ ◇ ◇
リゼットのプレヴェール公爵家もあっさりと許可をくれた家の一つだ。
現当主は「自分にとやかく言う権限はない」との態度。
『彼女はプレヴェールの姓を名乗ってはいるが、扱いとしてはほぼ独立した個人だ。結婚に際し、家としての資金援助は行わないという条件であれば婚約を承諾しよう』
聞いただけだと「そいつ俺とは関わりないから好きにしてよ」と言われたような印象だけれど、それとは裏腹に彼はこんな風にも言った。
『リゼット、およびトー子爵にはささやかではあるが
家としては中立を保つけれど個人としては祝福しているよ、というツンデレだとシルヴィアは解釈し、その計らいに深く感謝した。
むしろ、彼としてはリゼット個人の意思を尊重しているのだろう。だからこそ「自分には関係ない」と嘯いているのだ。
いつか子供が生まれたら顔を見せてあげようと心に決めたシルヴィアだった。
◇ ◇ ◇
ラシェルのアランブール侯爵家との話し合いが一番揉めたかもしれない。
『騎士を続けたいから同性と結婚する、などと言いだす馬鹿がどこにいる!?』
さもありなん。
我が強すぎるという意味ではクレールもなかなかだけれど、伯爵家より一段上の侯爵家の令嬢でありながらラシェルはちょっと奔放すぎる。
それは怒られるのも当然という話で、むしろご両親に共感さえしてしまった。
当のラシェルは「でももう決めたし」という態度。
『ボクに普通の奥さんが務まらないことくらいもうわかってるでしょ?』
『……頑なにボク、という一人称を改めようとしなかったのは、つまりそういうことか?』
『別に男になりたかったわけじゃないんだけどね。……ううん、そういうことなのかな?』
女を抱いたり孕ませたかったわけではないけれど、男という自由な立場には憧れていた。そんなふうにラシェルは自分を振り返った。
彼女は彼女でいろいろあるのだな……と感心したシルヴィアだったものの、そんなことを言っている場合ではなく。
役に立たない(失礼)ラシェルの代わりにご両親を説得しなければならなかった。
『恐れながら、侯爵閣下。御息女は現在、騎士団において副団長という重要な地位に就いておられます』
騎士団の副団長は十分すぎるほどの名誉だ。一定期間以上務め上げれば次期団長、副団長の選定にも口を出せるだろうし、要職として注目もされる。
騎士を続けても良い、と言ってくれる相手でないともったいないけれど、そんな男性はなかなかいない。男性騎士なんて一番まずい。彼らの中には『銀百合』を敵視している者も多いのだ。
また、家で子育てをして子供が大きくなったら……なんて言っていたら副団長に復帰するのはほぼ絶望的。産後の休養を取ったら復職するくらいでないとせっかくの役職を失うことになる。
同じ騎士団の所属であり、個人で家を形成しているシルヴィアは一番の優良物件だ。
『あまり大きな声では言えませんが、わたしは他の家とも婚約の話を進めております。他のご令嬢との間に生まれた子も育てることになりますので、世話係には事欠かないかと』
さすがに今までのようにメイド二人、以上! という体制は取れない。順次使用人を増やしていく予定だし、そうなると子育ての体制としても悪くない。
『御息女との間に生まれた子もまた騎士となり、頭角を表せば、代々騎士団の副団長職がアランブールの係累のものとなるのも夢ではないかと』
あらかじめ考えておいた口説き文句をあれこれ使って説得した結果、なんとかOKをもらえたのだった。