わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
「イリスとの婚約について、陛下にご報告の必要はあるでしょうか?」
「不要でしょう。私はもう王族ではありませんし、成人した貴族家当主ですので」
そんな海外で一人暮らしを始めた社会人みたいに。
普通の貴族令嬢ならともかく、元王族となると報告くらいはしておいたほうがいいだろう。
というか、国王だってシルヴィアが誰と結婚するかくらい網羅しておきたいはず。
「イリスが相手だから、という体ではなく、わたし個人の報告のついで──という体ならどうでしょう?」
「それならいいと思います。陛下に許可をいただくわけではありませんし」
急ぎではないのでゆっくりと面会許可を取り、国王とイリスの母である側室の一人に報告すると「そうか」と返答があって、
「できれば早めに孫の顔を見せて欲しいものだな」
「まあ、陛下。全員を把握するだけでも一苦労するほどの孫がお生まれになるでしょうに」
「ははは、まあそう言うな。……シルヴィアよ。イリスはかなり我儘だが、辛抱強く付き合ってやってくれ」
「かしこまりました、陛下。わたしたちなりのあり方を模索していけたらと思います。
王女でなくなっても娘は娘。国王はある程度の祝い金を出してくれた。
結婚式を城で行ったらどうか、とも言われたけれど、それは丁重にお断りする。イリスも「国費の無駄遣いです」とばっさりだ。
「イリスは結婚式、嫌ですか?」
「いいえ。式自体はいいと思います。参列者とのコネ作りにもなりますし、知名度も上がりますから。……とはいえ、私たちの場合、どちらも『貴族家としての親族』はいないわけでしょう?」
「言われてみると、個人同士のやりとりに過ぎませんね」
「ですので、無理に挙げなくてもいいと思います。顔つなぎなら、エリザベート様やラシェル様の結婚式で十分にですし」
ライバルの結婚式から商人としての利を得ようとか、イリスは本当に強かな女性である。それでいて美人なのがずるい。
「あるいは、全員一度に式を挙げるほうが良いかもしれませんね」
「そこはおいおい考えていきましょう。貴族の結婚式はただでさえ、半年とか一年とか間を置きますので」
◇ ◇ ◇
「この際、女性でも構いません。どうぞもらってやってください」
「ええ……?」
マルグリットとも結局婚姻を結ぶことになった。
相談に行くと、むしろ先方から頭を下げられてしまう。完全に諦められていたに違いない。確かに適齢期どころか騎士としての全盛期さえ過ぎようとしているので、この反応もやむなしと言えそうだけれど。
クレールやラシェルがずるずる結婚を引き伸ばすとこうなるのかもしれない……。そう思いながらジト目を送れば、マルグリットはそれとなく目をそらした。
あっさりと相談が終わり、帰る馬車の中。
「でも、マルグリット様はわたしのことが好きなわけじゃありませんよね?」
「あら、シルヴィアのことは好きよ?」
確かに好感度は低くないけれど『78/100』。恋愛感情にまでは至っていない。いや、規定値を超えたから恋に落ちるわけではないように、規定値前から恋と自覚している場合もあるのだろうか?
「少なくともあなたと恋仲になるのは悪くないと思ってる。他の相手ならもっと悩んだでしょうね」
「……なるほど」
恋愛感情というか、えっちなことならしてもいいかな、くらいには好かれているということか。
「心境の変化はサラ様とのことがきっかけですか?」
「こら、はっきり言わない」
こつん、と額を小突かれた。
見ればほんのりと頬が染まっている。なんとなく察してはいたけれど、サラの告白はやっぱりうまくいったらしい。
それどころか明確に恋仲になるところまで進展があったと見てよさそうだ。
「あなたとのことはサラと合意の上よ。……年齢的に、子供を産むなら早い方がいいでしょうし、好きなようにしてちょうだい」
「そんな、わたしが『女性に子供を産ませるのが趣味の女』みたいに」
女の子は好きだけれど、子供は好きな人との愛の結果であって、それ自体を欲求の対象にするようなものじゃない。
まあ、独占欲は満たされるようなそうでないような……? いや、それはともかく。
サラに関しては平民なので本当に「両親への報告は不要」というスタンスだった。
「独立したら親と会わないなんて普通でしょ? 貴族と違って大々的な式を挙げるのなんか一握りだし」
「確かにそうですね」
日本の感覚が残っているので変な感じもあるけれど、この国だと成人に達したら別に家を持って暮らすのがわりと当たり前。親の跡を継ぐ場合もあるし、親方の家に半ば養子として入るパターンもあるからケースバイケースだけれど。
独身で亡くなる人も貴族に比べて多めなので、それに比べたら同性婚なんてマシなほうである。しかもシルヴィアは子爵。喜ばしい結婚という扱いになる。
「マルグリット様との子供を残せないのは残念ですね……」
「それはまあ、仕方ないわ。私たちはあなたみたいにほいほい進化できないもの」
「ほいほい……」
「わたしたちの子供は残せないけど、マルグリットの子供を抱きしめることはできるでしょう? それで十分よ」
だから早めに子供を作らせろ、と、サラからも言われてしまい、ちょっと慌てたシルヴィアである。
◇ ◇ ◇
さて。
そんなこんなでようやく落ち着いてきた頃、神殿に顔を出したシルヴィアは、
「どうせなら私ももらってくれないかしら?」
「アンジェリカ様!?」
思いがけない人から思いがけない申し出を受けることになった。
聖女は茶目っ気たっぷりに微笑んで、
「ほら。天使と聖女の子供なら神もお喜びになりそうでしょう?」
「確かに、素質が遺伝するのであれば聖職者として大成しそうですけれど……よろしいのですか? まだまだ巫女を続けたいのでは?」
「それなんだけどね。天使との間に子を成すために市井に下る必要があるのかなって」
「……確かに」
一般の巫女や神官が聖職者同士で結婚してそのまま神殿で働き続けるケースは珍しくないらしい。聖女は普通、貴族の嫁や愛人になるので家に入らされるのだけれど。
「実はね、天使の子を授かるのが最も良いのでは、なんていう声がちらほら聞こえ始めているの」
「気の早い話というか、考え方の切り替えがすごいですね……?」
「基準がはっきりしているから、それ以外の部分で融通がきくのかもしれないわね。あなたたちの神秘性は十分に広まっているわけだし」
聖女同様、天使も清らかなものとするのなら、その間に子供ができても神殿での活動になんら支障はない。むしろ奇跡のような出来事としてありがたがられそうだ。
「どうかしら?」
「わたしは構いません。……というか、アンジェリカ様のような美しい方ならこちらからお願いしたいくらいなのですけれど」
「嬉しいことを言ってくれるのね。……同性から言われたほうが素直に喜べるのは何故かしら」
「それにしても、トップの同性婚が認識されると、神殿内からもわたしに求婚が殺到しそうな気がするのですけれど」
「それは好きにすればいいじゃない。好みの巫女だけ娶るもよし、子供だけ作らせてあげるもよし」
なんだかアンジェリカからも性癖を勘違いされていそうな気がしてきたけれど、明確に断る理由もない。
どうするのがこれからのためにいいのかも含めて考えることにして、ひとまずシルヴィアはアンジェリカの申し出を受け入れることにした。