わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
片手でぶん回された
すかさず剣を引き戻したクレールは向かってくる竜爪を真っ向から受け止め、
──ひび割れるような嫌な音を立てて剣が砕け散った。
目を丸くし、動きを止める両者。
プルプルは腕を引くと「やれやれ」とため息をついた。
「武器がないと戦えんとは、人間とは不便なものじゃの」
「仕方ないじゃん。竜と違って爪も鱗もないんだからさ」
同じくため息をついたクレールは「あーあ」と剣の破片の前にしゃがみこんで、
「とうとうお亡くなりになっちゃったかあ」
「よくもったほうであろう。妾の爪を何度も受け止めておったのだ。なかなか良い職人が作ったのであろうな」
「というか、訓練で真剣使うのやめなよクレール……」
「だってこいつ相手に模擬剣使ってもしょうがないじゃん!」
さもありなん。
ツッコミを入れたシルヴィアだけれど、確かに相手がプルプル、息をするように防御障壁を展開し、魔力で爪を形成する化け物では怪我をさせる心配とかするだけ損である。
むしろ模擬剣なんか使った日にはぽきぽき折れて騎士団の財政がピンチ。
「トロール相手ならこれでなんとかなったんだけどなあ」
「あの程度の相手と妾を一緒にするな。そもそも、その剣では風も炎も斬り裂けまい」
「いや、人間は普通風とか斬れないんだけどね?」
「あたしだって魔力振り絞れば一発くらい斬れるし」
「だから斬れるのがすごいんだってば」
エリザベートも必殺技を使えば一発くらい迎撃できるし、マルグリットあたりも規模によってはハンマーで叩き落とせそうな気がする。
ここにはびっくり人間しかいないのか。
あらためて周囲──騎士団の訓練場を見渡せば、他の騎士団員がちらちらこちらの様子を窺っている。竜との模擬戦なんてそれは気になるだろう。
クレールがプルプルに挑戦するのはこれで数度目。
竜娘としても見どころを感じているらしく快く付き合ってくれているものの、やっぱりちゃんとした武器がないと強敵には歯が立たなさそうだ。
「うん。だいぶ落ち着いてきたし、そろそろクレールの剣を作ろっか」
「本当!?」
ぱっと表情を輝かせて振り返るクレール。
「やっとあの材料が役に立つよ!」
「あはは。実を言うと、どんな剣を作るかはもう考えてあるんだよね。もちろん、クレールの希望も取り入れるけど」
「あたしの希望は簡単だよ。とにかく丈夫で、なんでも斬れる剣」
「本当にわかりやすいなあ」
でも、確かにクレールに必要なのはそういう剣だ。
彼女に足りないのは、その馬鹿力についてこれる丈夫な武器。そして伯爵令嬢であるため特別多いわけではない魔力を補う斬れ味。
シルヴィアの考えていた剣の形とも合致する。
「じゃあ、さっそく今夜にでも作ろうかな」
「うん! じゃあ材料運んでくるね!」
鼻歌まで漏らしつつ鉱石を取りに行くクレールを笑顔をで見送って、
「シルヴィア様? 材料を用意すれば武器を作ってくださるのですか?」
「騎士団長の使っている魔剣もトー伯爵が作られたのですよね?」
「神聖な力で作ったのだから魔剣ではなく聖剣と呼ぶべきなのでは?」
「あー、ええと」
他の騎士団員に群がられてしまった。
確かに魔力と時間さえあればみんなの分を作ることも可能なのだけれど、
「武器を作るのには天使とはいえ魔力と集中を要しますわ。それを無償で行わせようとは不遜と言わざるを得ません。強い武器が欲しければ自分で購入するか、授けられるに足るだけの実力を示しなさい」
にわかに発生した「私にも武器をくださいムーブ」は騎士団長であるエリザベートが一喝してくれたことで収束。
納得いかない様子の者もいたけれど「でもお前クレールより弱いじゃん」と言われるとみんななにも言えない。
と、いうわけで。
◇ ◇ ◇
その夜、シルヴィアは寝室で一人、最上級の素材と向き合った。
武器製作も二度目なのである程度勝手はわかっている。
生み出したい剣の形をイメージし、それが振るわれている姿を思い描く。後はただひたすら魔力と気持ちを籠めていく。
名前は、決まっている。
エリザベートの剣に付けた銘『オートクレール』と同一視されることもあるという、最強の騎士の用いた剣。
「《アロンダイト》」
照明を消し、月明かりのみが射し込む部屋に輝きが満ちる。
神聖なる輝きはやがてすべてが鉱石へと吸い込まれていき、その形を一本の剣へと作り変えていく。
思いと、魔力を、とにかくふんだんに吸収して。
造り上げられたのは、片手の長剣よりも長く両手剣よりも短い、
中途半端とされる形状ではあるものの、それは並の使い手が持った時の話。常人よりはるかに力の強いクレールなら重量の増加は気にならない。かといって長すぎると単純に取り回しがしづらいため、ギリギリの長さを見計らった。
装飾は可能な限りシンプル。
エリザベートの剣が流麗さも重視したのに対し、こちらは最低限の美しさを持たせつつも質実剛健。とにかく強く丈夫な剣という機能美を求めた、また別種の美しさ。
「うん……!」
納得の出来だ。
出来上がった剣は早速翌朝、クレールの手に託されて、
◇ ◇ ◇
アロンダイトの刃が魔力の竜爪と拮抗する。
「すごいよ、この剣! すごいよ、シルヴィア!」
天使の力が作り出した二振り目の聖剣は、クレールの魔力を吸収、増幅し、担い手の身体能力と自身の斬れ味を上げるという恐るべき能力を発揮した。
魔力が(トップクラスの人材と比べると)少なめなクレールを助けるのにうってつけの性能。
頑丈さのほうも、間に合せで使っていた両手剣をはるかに上回っており、竜爪や竜鱗をがっつんがっつん殴っても刃こぼれひとつする気配がない。
相手をするプルプルも「はははっ!」と笑って、
「お前は良いな、クレール! 竜と力比べをしようというその度胸、称賛に値するぞ!」
「残念だけど、ただ比べるだけで終わらないよ、あたしはっ!」
めっちゃ生き生きしている。
「……戦闘狂」
二人とも、剣を渡したら朝ご飯もそこそこに訓練場に出て、そして今に至るわけで。
ギャラリーの誰かが口にした文句もあながち間違いとは言えない。クレール的には竜との一対一なんて夢にまで見たシチュエーションだし仕方ないけれど。
「二人ともー? 楽しいのはいいけど、大怪我とかしないでよー?」
「わかってるー!」
「心配するな! それより邪魔をするなよシルヴィア! 妾は今楽しんでいる!」
あ、これちゃんと話聞いてないな。
今までの経験からそう判断したシルヴィアはもう一度息を吸い込むと、
「周りを壊したり大怪我したらご飯抜きだからねー!」
「それは困る!」
同時に返事が来た。
それでも止めないあたりは筋金入りだけれど、これで命がけの死闘とかになったりはしないだろう。そうでないと困る。ここでブレスを吐かれたりしたら大惨事である。
それにしても、
「……まったく。わたくしたちが四人がかりでどれだけ苦労したと思っているのかしら。あの馬鹿、技ではなく力で竜と渡り合っていますわよ?」
「あはは。まあ、クレールだからね」
文句を言うエリザベートだって総合能力ではクレールに決して劣っていない。いくらクレールでも一人じゃ竜鱗を処理しきれなくて詰むかもだし。
「本当、みんなすごいよ。『銀百合』は優秀な人ばっかりだよね」
あんな戦いを当たり前のように見せられるのだから、他の騎士団員にも発破がかかるというもので。
これから騎士団はさらに強くなっていきそうである。