わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
都の貴族街に屋敷の空きが出ているらしい。
これも元はシルヴィアに嫌がらせをして処分された貴族の所有物。
申し訳ない気持ちはあるものの、正当な方法で抗議していればこんなことにはならなかったわけで。仕方ないかな、という気持ちもある。
「……それで、被害の補填として屋敷の一つをいただける、と」
「ええ。どうしようかとイリスに相談しに来たのですけれど」
王族から伯爵になったイリスは現在、都内に屋敷を持って生活している。
彼女の屋敷には商会員も多く出入りするためかなり賑やかだ。
使用人にも元平民が多く、分け隔てしないというか、使えるならどんな相手でも使う精神が見て取れる。
個人で家を形成している、という意味で立場の近い彼女は「と言っても……」と首を傾げて、
「いただいておけばいいのでは?」
「いただいても管理できるかどうかわからないでしょう?」
シルヴィアの使用人は現在メイドが七名。
うち五名は教育中──全員下地はできているので長い研修は要らないとはいえ、すぐにフル稼働させるのは難しい状態だ。
防犯の面を考えてもだいぶ心もとない。
ふむ、と、元王女は紅茶を傾けて、
「さらに人を雇うしかないでしょうね」
「そんな簡単に……」
「けれど、子供ができたら騎士団の寮では手狭でしょう?」
「それはまあ。いくら広いと言っても独身用ですし」
家族で住む場所ではない。
まあ、エリザベートやクレール、イザベルは寮内に別の部屋があるので実質二部屋、というか四部屋? マルグリットやサラもカウントしていいならもっと多い。子供だけならなんとかなると言えなくもないけれど──夜泣きの問題とかはどうしようもない。
なので、ゆくゆくは必要なのも確かだ。
「騎士団の隣に作るのも考えたのですけれど」
「さすがに都の外周は危険では」
「そうなんですよね」
シルヴィアの場合、娘にも翼が生えていて、勝手にぱたぱた飛んでいかないという保証もない。
「……どうしてもと言うならば他に手がないこともありませんが」
「というと?」
どんな方法だろうと目を輝かせるシルヴィア。
ふっと笑ったイリスが口にしてきたのは、
「シルヴィアもこの屋敷に住みましょう。結婚するのですし」
「なる、ほど……?」
人の出入りは多いし使用人もけっこういるけれど、家人と呼べるのはイリス一人。部屋はたくさん余っているし、イリスも結婚相手の一人なのだから他人ではない。
良い提案、のような気がする一方でなんとなく「それでいいのかな?」という思いもあった。
具体的に言うとエリザベートあたりが猛然と反対しそうな。
その理由としてありそうなのは、
「ですが、それだとイリスの家にわたしが入ることになりませんか?」
「そこが問題ですね」
提案したイリス当人もわかっていたらしく頷いてくれる。
別にシルヴィアにトー家を存続させたい意思はない──両親は平民なので代々続いてきた家柄というわけでもない。
ただ、
「あなたの家柄は今後を考えて残しておいたほうがいいと思います。そうなると結婚相手の家を間借りするのは難しいでしょうね」
「そうするとやっぱりお屋敷はあったほうがいいですね」
「ええ。あなたが自分の屋敷を備えたうえで私と結婚、こちらの家を吸収するほうが順序としては正しいと思います」
「なにも伯爵家を潰してまで子爵家に嫁がなくても」
「そこは相談しましょう。最悪、私は結婚に囚われるつもりはありませんし、事実上の結婚でも構いません」
イリスのアドバイスを受けたシルヴィアは最終的に屋敷を受け取ることに決めた。
土地の問題も考えると金を出しただけで買えるとは限らないものだし、補償としてはかなり大きい。お金の面で言うともらっておいた方がお得だし。
そして。
◇ ◇ ◇
「大きい……!」
「元は地方在住の伯爵家が都の滞在中に用いていたもの、ですからね。もう一つ家格が上がっても問題ない程度のお屋敷かと」
「さすがにその予定はないけれど、本当にいただいていいのかと思うくらいの屋敷ね」
受け取りを心に決めたうえで、念のために内見。
訪れた屋敷はまだまだ末永く使っていけそうな立派な佇まいだった。
植え込みや花壇の様子からもつい最近まで手入れがされていたことが伺える。すぐにでも住めそうな状態だ。
「確か、別荘とはいえ定住されていた方がいたのよね?」
「はい。当主の弟夫妻が使用されていたそうです。既に家人は屋敷を離れておりますが──」
屋敷には庭師一名にメイドと下働き数名が残されていた。
彼らは屋敷を引き払うにあたって伯爵家から解雇になった者たちだ。
「お引渡しの日までこちらを整えておくように、と陛下から仰せつかっております」
「ありがとう。……あなたたちは、これから行くところはあるのかしら?」
「いいえ。まだ正式には決まっておりません」
伝手を使ってどこかの家に引き取ってもらったり、街の酒場で働くことはできるものの、屋敷を離れがたいという様子の彼ら。
「……もし、わたしを主とすることに思うところがなければ、あなたたちを雇わせてもらえないかしら?」
「よろしいのですか?」
驚いたような視線を向けられる。
「あなたたちの主が罰せられる原因の一つがわたしだもの。複雑だとは思うけれど……」
「いいえ。あの方が罰せられたのは私欲を抑えきれなかったせいと伺っております。正直に申し上げて、気持ちの良い方でもありませんでしたので……」
人に横柄な態度を取っているとこういうところで損である。
「もしよろしければ我々からもお願いいたします。慣れた屋敷で働けるのであればそれが一番でございますので」
「ありがとう。それじゃあ、細かいところを詰めたうえで問題がなければそのまま雇わせてちょうだい」
結果的に残っていた人材は全員が雇用となった。
解雇されたのは忠誠心が低め=家に心酔しておらずまともな感性の持ち主たちだったらしい。家の構造や物の位置も把握しているため、彼らがいてくれるととても助かる。
女性の分しか見えないけれど好感度のチェック結果も良好。
思いがけず良い人材を雇うことができた。……というか、国王がそこまで考えて人を残してくれていたのだろう。
「没収された家財についてはある程度こちらに残されております。主に換金しても大した値にならない品ですが……」
「贅沢をするつもりはないもの。構わないわ。むしろ、壊れたら困る物が残っていても持て余してしまうし」
「本当に、前のご主人様とはまったく違います……」
魔道具はほとんど引き上げられてしまっていたものの、普通の掃除道具や料理道具、使用人部屋の家具などはそのままだった。
貴族用のベッドなども残されていたものの、
「シルヴィア様、さすがにベッドやカーテンは新しい物を入れましょう」
「そう? まだ使えそうではあるけれど……」
ゼリエの提案に首を傾げれば、スリスが真顔で、
「どこの中年男がどんな女と寝たかわからないベッドですよ? どんなにおいが染み付いているかわかりません」
「交換しよう。そうしよう」
むしろ別の部屋を当主の部屋にしようかと思ったくらいだ。
広さの問題もあるのでひとまずそれは思いとどまり、ベッドやカーテンは廃棄決定。来客用の部屋にはほぼ新品同様のものが残っていたので当面はそちらを運び込んで使うことにした。
「料理人とか用心棒も雇わないとね」
こうして、とうとう貴族としての屋敷を手に入れることに。
新しい使用人たちとの契約も円満に成った。言ってはなんだけれど大したお給料をもらっていなかったので、むしろ待遇は前より良くなったくらいである。
引き渡しは迅速に済ませたあと、住むための準備は少しずつゆっくりと進めた。さすがに寮の部屋にメイド七人は多かったので入れ替わりで屋敷のほうに回ってもらったりする。
もちろん、騎士団としての仕事も並行して発生するので、あれこれと進めているうちに月日はどんどんと経っていった。