わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
変化は変化を呼んでいく
シルヴィア・トーの生活はまた大きく変わった。
貴族学校を卒業し、晴れて成人。
国内で最も高い山へと修行に赴き、その身を天使へと変えて。
喧嘩を売りに来た竜娘プルプルを打倒して従えたかと思ったら、帰った都で大きな反発に遭い、流れで都全体を浄化することに。
国王から「あらゆる制限を取り除いての婚姻」を認めてもらい、クレールたちと堂々と結婚できることになって。
人間の姿に化けたヴァッフェとティーア、それから元巫女の未亡人を新たにメイドとして迎えて。
貴族たちから嫌がらせを受けた補填として大きな屋敷を授かった。
背中に生えた白い羽毛の翼が示す通り、人を超えた力と姿まで得てしまったものの、おかげで日常はかなり安定して。
これからはもう、大きな波乱もなく日々を過ごして行けるかもしれない、と思えるようになった。
◇ ◇ ◇
良い変化は他にもあって、また新たに『聖女見習い』の誕生が決まった。
大神殿での神託により一人の平民が聖女に選ばれたのだ。
存在自体が聖なるシンボルと化したシルヴィアはちょうどその回の儀式を見守っていた。親に連れられやってきた少年少女たちが一人ずつ前に出されて神託を授かる光景は自身も前に経験したもので。
懐かしさと微笑ましさを覚えながら、一人の少女と目が合った。
黒髪の可愛い女の子。
彼女はきらきらした目でただ一心に、シルヴィアとその隣りにいるアンジェを見つめていた。何気なく手を振ってあげるとぴょんぴょん飛び跳ね、母親を恐縮させていたのが印象的だ。
──『聖女』の神託を受けたのはその子だった。
アンジェリカから天職の名を告げられた彼女は「本当!?」と目を見開き、歓喜に瞳を潤ませた。泣くほど聖職者になりたがる子はもちろん、かなり珍しい。
母親から聞いたところによると、シルヴィアたちが行った都の浄化の件で感激し、神殿に入りたいと言うようになったらしい。
「街が綺麗になった翌日、天使様が空に舞い上がったでしょう? 自分もああなりたい、と毎日何度も口にしていて──」
浄化の翌日に空から都を見下ろした天使。
「シルヴィアね」
「シルヴィア様ですね」
「……それは、はい。わたしですね」
彼女は両親と話し合った末、約二年後の七歳から『聖女見習い』として神殿に入ることが決まった。
「あの子が一人前になるのに十年から十五年。……それくらいなら、私も現役でいられそうね」
無理にアンジェに譲らずとも後任を確保できたことになる。これは神殿にとってもかなり大きい。
天使になりたい、と主張している子ならば将来、シルヴィアやアンジェと同じ道を歩むかもしれない。
「でも、そうするとあの子の名前をどうするかが問題ね」
「名前というと……ああ、アンジェという名前が二人になってしまいますものね」
「序列を考えるならアンジェに『アンジェリカ』になってもらうか、別の名前を得てもらうのが妥当なのだけれど」
今までは聖女見習いがアンジェ、聖女がアンジェリカで統一されてきた。人数もそう多くないので問題なかったけれど、天使と聖女見習いが同じアンジェなのはややこしい。
けれど、
「できるなら、私は『アンジェ』のままでいたいです。……シルヴィア様にそう呼ばれることを、とても気に入っておりますので」
「仕方ないわね。じゃあ、新しい子には新しい名前を考えましょうか。……シルヴィア、なにか良い名はないかしら?」
「わ、わたしですか?」
と言ったものの、アンジェとアンジェリカが『
しばらく「うーん」と考えてから、
「セラ、というのはいかがでしょう? これもまた天使に通じる名です」
「セラ、ね。いいと思うわ。では、あの子が神殿に入った暁には『セラ』を名付けましょう」
自分の娘の前に聖女見習いの名付け親になってしまった。
「これもまた、アンジェとシルヴィアが天使になった影響ね」
「そう、なのでしょうか?」
「そうなのか、もなにも明らかでしょう? あの子は自ら天使に憧れ、神に祈って聖女見習いの座を授かったのよ?」
「ふふっ。でしたら、これからももっとたくさん聖女が生まれるかもしれませんね」
天使の誕生によって民の信仰心を強化し、神殿の体制強化に繋げる。アンジェリカの狙いはどうやら早くも効果を発揮し始めているようだ。
人を癒やし、魔物を祓う力が増えるのはもちろん喜ばしい。
あんまりぽんぽん聖女が増えてもありがたみが薄れるかもしれないけれど、誰かが自分たちに続いてくれるのは大歓迎である。
◇ ◇ ◇
さて。
……残念ながら、そんな風に喜ばしいことばかりが続いてはくれなくて。
シルヴィアの元へ新しい、大きな厄介事が舞い込んできたのは天使化から半年ほどが経った九月のことだった。
「隣国から使者が来ることになったそうですわ」
エリザベートにラシェル、リゼット、マルグリット、そしてシルヴィア。
『銀百合』騎士団上層部の集められた騎士団長室で団長──エリザベート・デュ・デュヴァリエがため息交じりにみんなに告げた。
国家間のやりとり。
早くも面倒くさそうなにおいがしてきたけれど、
「使者が来ること自体は別に珍しくないよね?」
「もちろん、そうですわ。戦争を避け、有意義な交易を行うためにもやり取りは必要ですし。冠婚葬祭に言葉を贈り合うのも定番ですけれど」
今回はそれだけで済まなかったということだ。
「……もしかして、わたしたち絡み?」
「というか、シルヴィア絡みですわね」
「あーあ、またシルヴィアなんだ」
ラシェルが「やっちゃったね」という目で見てくる。心当たりはたくさんあるのであまり文句は言えないものの、若干不本意。
「いったいなにがどうなったの?」
「発端となったのはシルヴィア、あなたがプルプルを都に連れ帰った件ですわ」
「それエリザベートたちも同罪じゃない」
「彼女はあなたの嫁でしょうに。それはまあ、わたくしたちにも責任はありますけれど。……ともあれ、その件が隣国で問題視されたのですわ」
「というと?」
「『我が国に棲み家を置く竜を無断で連れ去るとは何事か』と」
なるほど、確かにプルプルはもともと隣国在住で、あの時国境を超えて飛んできた。
向こうの国でも竜が一人飛んでいって帰って来ないのは把握しているだろう。こちらの都からの噂をすべて制御できているかというとそんなこともないし。
「でもそれプルプルが勝手にやったことじゃない!」
「正論が通るとは限らないのが外交の怖いところですわね。もちろん、陛下は何度も突っぱねてきたのですけれど、先方に諦めるつもりはないようで」
「まあ、竜って一人であの戦力だもんね。騎士を何十人か引き抜いたようなものか」
他国が一方的に強くなるのを許容できるはずがない、というのはまあ納得。
「そこでとうとう、大きな権限のある者を使者として送り込み、長期に渡る交渉を行うことになったそうで」
「権限のある者ね。いったい誰が来るのさ」
これにエリザベートとリゼットが揃って苦い顔をする。どうやら公爵令嬢である二人には情報がかなり入っているらしい。
マルグリットが「聞きたくなくなってきたわ」と呟き「それで?」と話を促して、
「ひょっとして王族が来るのかしら?」
「ええ。王妹殿下を代表に、騎士と兵士、使用人がぞろぞろとこの都にやってくるそうですわ」
それはまた盛大な厄介事である。