わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
王妹クリステル。
戦略家として様々な知識を持たなくてはならないシルヴィアもその名前は知っている。
御年二十歳。
隣国の国王は現在三十七歳であるため歳はかなり離れている。親子と見られてもいいくらいだけれど、王族なら珍しくもない。
隣国は十年ほど前に先王が病死し、当時二十七歳だった現国王が継承している。
現国王の子供は現在十三歳と十一歳。
国政に関わらせるには幼い年齢であるため、王弟や王妹は貴重な駒と言える。
もちろん、まだ二十歳のクリステルも経験豊富とは言えない年齢ではあるけれど、
「確か、クリステル殿下は独身だったよね?」
「あら、シルヴィアったら。まさか王妹殿下まで狙うつもりですの?」
「え。いや、そういう意味じゃなくて」
「冗談ですわ。あなたの認識通り、妙齢の王族がわざわざやってくるというのはなにか意図があるでしょうね」
「政治的な力で言えば複数人いる王弟殿下のどなたかがお越しになるほうが良いと思いますが……不慮の事故を危惧したのもかもしれませんね」
人間国家の男尊女卑を肌で感じているリゼットが推測する。
他国に赴く以上、暗殺のリスクはどうしてもある。それを考えれば女性王族のほうが使いやすいということだ。
「後は、シルヴィアに取り入らせるつもりとか?」
「マルグリット様までそういうことを言いますか……?」
「私はからかうつもりじゃないわよ。年頃の女を嫁がせて利のありそうな相手と言えば、あなたが筆頭でしょう?」
「筆頭と言えば第七王子殿下ではないでしょうか。万が一、殿下と恋仲ということになれば王妃として迎えることになりかねません」
第七王子は次期国王内定者。
現在十二歳で来年から貴族学校に入学が決まっており、女性にも興味の出てくるお年頃だ。大人のお姉さんに甘い誘惑をされたらころっと行ってしまう可能性はある。
ラシェルが肩をすくめて、
「言いがかりの件が本題じゃない可能性もあるってことか。面倒くさいなあ。城のほうで適当に終わらせてもらう……っていうわけにはいかないんだよね?」
「行くわけありませんわ。プルプルの飼い主はシルヴィアですし、クリステル殿下は女性ですのよ? 『銀百合』から護衛の人員を出すに決まっていますわ」
「あー。向こうからも連れてきてるとはいえ、こっちからも監視役は必要だよねえ」
護衛が何人必要なのか。何しろ王族だ。二十四時間体制で守ることになるだろう。交代要因も含めればかなりの数がいるかもしれない。
人員の選定、スケジュールの調整だけでもなかなかの仕事。
どうやらがっつり関わることになりそうである。
「で、いつ来るのさ?」
「来月ですわ」
「もうすぐじゃん!? っていうか秋の時期に来るってことは──」
「交渉の進捗次第では冬を越す可能性がありますわ。……というか、それも狙っているのでしょうね」
となると期間は半年、あるいは一年か。
「それ、こっちの情報もごっそり持っていかれるんじゃないの……?」
「敵国ではありませんからある程度は仕方ないと思いますけれど……」
実のところ、この国が直近で戦争をした相手国というのがかの国だったりする。
当事者はもう誰も生きていないくらい昔の話ではあるけれど、きな臭いものは感じざるを得ない。
◇ ◇ ◇
護衛にはなるべく経験豊富な者を選んだ。
一年間相手をする可能性を見据えてスケジュールも組んだ。
間違っても相手側に取り込まれないように相互監視できる組み合わせまで考慮していたら頭が痛くなってきて困った。
「国内案件じゃないと
「ないよりはずっと良いですけれど……こういった辺りが騎士団長の役割なのでしょうね」
同じく人選に悩むことになったエリザベートもなかなかに頭を抱えていた。
とはいえ、シルヴィアが直接会うかどうかは事の成り行き次第、という話に。
「わたくしは挨拶に行かないといけませんけれど、我が国の秘蔵っ子をこちらから晒す必要もありませんでしょう?」
城に呼ばれて事前の作戦会議も行ったけれど、国王をはじめとする面々も同意見だった。
「交渉は我々の仕事だ。必要になるまではこちらに任せておいて欲しい」
話がすんなりまとまれば会わなくて済むということだけれど、まあそんなに上手くはいかないだろうな、と、シルヴィアは思ったし、みんなもそういう顔をしていた。
そして案の定、予想は現実のものとなって。
◇ ◇ ◇
「とても神々しいお姿です、シルヴィア様」
「隣国の王族との面会にも相応しいかと」
新しくメイドとして雇った三人の未亡人も王妹がやってくる頃には十分に戦力として数えられるようになっていたのだけれど──元巫女であるせいか、シルヴィアに対しても称賛が過剰なのが玉に瑕である。
あんまり褒められると気が大きくなって変なミスをしてしまわないか心配になる。
そんなシルヴィアの装いは白を基調としたドレスである。
天使となった直後によく着ていた神聖魔法製のそれを参考にしてはいるものの、職人に発注して仕立ててもらった新しい品。
神聖な模様を入れたい、と言われたので適当にアルファベットを散らして刺繍してもらった。遠目には、というかこの世界の人間にはただの模様にしか見えないので普通に綺麗である。
敢えて白を纏うのは貴族としてではなく天使として会うという意思表示。
メイドたちに「ありがとう」と告げて、
「ヴァエ。スリス。同行をお願いね」
「かしこまりました、シルヴィア様」
ヴァエことヴァッフェもちゃんとした礼儀が必要な場面では外面を取り繕ってくれる。スリスは化粧映えがするうえに人間観察力があるので人と会う時には重宝する。
罪人であるゼリエは他に人がいるならお留守番が無難。ティアことティーアは外面を繕う能力はあるものの「わざわざあたしを使うんじゃないわよ」とうるさいので公の場にはあまり連れて行かない。
というわけで。
「お初にお目にかかります、クリステル殿下。『銀百合騎士団』専属戦略家、シルヴィア・トーでございます」
「初めまして、『天使』シルヴィア様。国王陛下より特使として遣わされて参りました。どうか私のことはクリステルとお呼びください」
王妹クリステルは美しい女性だった。
きらめくような金髪に深い翠色の瞳。均整の取れた体型と上品かつ嫌味のない物腰も見る者の多くに良い印象を与える。
爵位で言えば子爵でしかないシルヴィアに「様」をつけ、神殿式の祈りの作法まで用いて跪いて見せてくれたのは、こちらを最大限──過剰なほどに尊重していることを主張している。
もちろん、それはただのポーズかもしれないわけだけれど。
シルヴィアはエリザベート、それにクレールとプルプルと共に城の応接間に通され、男性騎士も護衛につく中でクリステルと相対した。
クレールはシルヴィアたちの護衛という名目。
いやいや連れ出されたプルプルは「まったくやる気が出ん」とばかりに絨毯のうえに座り込み、持ち込んだ干し肉を齧り始める。
いちおう目で「申し訳ありません」と謝ったものの、竜娘に関しては着衣が布を巻き付けただけの適当なものなのも含めて治外法権である。
そんな我儘娘をクリステルはじっと見つめて、
「……この方が、竜」
プルプルが王妹のほうを向いたのはその時が初めてで、
「いかにも。お主らが『返せ』と主張している竜に他ならない」
「っ」
そう。
シルヴィアたちが顔を出すことになったのは、クリステル──というか隣国側が駄々をこね続けたからだ。
せめて件の竜に会わせろ、とうるさいのでこうして場がセッティングされた形。
つまりプルプルからしてみれば「どうでもいい話し合いに呼ばれた」だけであり、その原因を作ったクリステルに優しくする義理なんてこれっぽっちもないのだった。