わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
それからあっという間に二ヶ月。
十二月に入り、季節は冬に突入した。帰る途中で雪が降ると大変なので、クリステルたち隣国の使節は春まで滞在確定である。
その間、クリステルと会う機会は何度かあった。
パーティで鉢合わせたり、お茶会でご一緒したり、チェスの相手をさせられたり。特にプルプルを連れてこい、とも言われない、ただの交流。
向こうが上位者として立ててくれるので精神的疲労もだいぶ抑えられた。
加えて、たびたびプレゼントまで贈ってくれた。
隣国は香辛料の産地。興味があると話したら隣国産の良質なものをたくさん分けてくれた。
「やっぱりいい人なんじゃないかなあ」
「すっかりあの人のこと好きになってるじゃん。……まあ、あたしにも悪い人には見えないけどさ」
成人し、天使になり、想いを伝えあってから、夜は誰かと一緒に過ごすことが多くなった。というかほぼ毎日誰かが一緒にいてくれる。
基本、恋人同士のように過ごすのは二人っきりの時だけだ。でないときりがないし仕事も進まない。
過ごし方は時と場合によっていろいろ。相手の温もりがすぐ欲しいときもあれば、こうやって雑談することもある。
特にクレールとは昔から同じ部屋で寝ていたせいかリラックスしやすい。
「クレールの人を見る目もけっこう信用できるよね?」
「あはは。自分で『うん』とは言いづらいけど、まあ野生の勘? みたいなのは働くかも?」
「それも自分で言っちゃだめなやつじゃない?」
寝間着姿のクレールは「でもさ」と首を傾げて、
「本当にいい人なら何ヶ月も我が儘言い続けたりしないんじゃない?」
「それなんだよねえ。まあ、向こうとこっちで文化が違うのかもしれないし、なんとも言えないんだけど」
「文化って?」
「戦争して戦果を勝ち取るのがなによりも誉れで、お兄さんにそういう栄誉を与えてあげたい、とかさ」
シルヴィアたちの国がどうなるかは二の次なのだとしたらわからなくもない。
もちろんそこまで極端なことはないだろうけれど、隣国がこの国よりも戦争好きなのは確かだ。
ここしばらくは行っていないものの、それは前回の戦争で疲弊したせい。そうでなければどこかを攻めていたかもしれないと言われている。
「なるほどね。あたしにはよくわからないなあ。そんなに戦争ってしたいものかなあ」
「クレールが言っても微妙に説得力がないんだけど」
「戦いと戦争は違うでしょ。戦うのは好きだけど殺し合いが好きなわけじゃないもん」
「そうだね」
魔物を殺すのと人を殺すのではわけが違う。
人間相手でも、明確な敵と相対するのと、上に命令されただけの兵を相手にするのでは違う。
「うーん。クリステル様がもう少し本心を話してくれればいいんだけど」
「話せることなら陛下に話してると思うけど。それともシルヴィアにだけ伝えたいことがあるとか?」
「あるのかもなあ、って感じ?」
信用できる人間──例えば『銀百合』主要メンバーだけの状態になれば教えてくれるかもしれない。ただ、その状況はお互いにとって危険。そうそうチャンスは巡ってこない。
「今年の年末年始も忙しくなりそうだなあ」
新年の挨拶にクリステルが加わる。
さらに今年からは天使という立場だ。こっちから行かないとあちこちから挨拶に
のほほんとしている暇はなさそうである。
「その前にシルヴィアの誕生日もあるからね。今年はもっと盛大にやるよ」
「え、でもわたしの誕生日ってそんなに重要じゃなくない? 死ななければあと二、三百回はあるんだし」
「だーめ。それとこれとは別。っていうかあたしたちが祝えるのはそんな回数ないし」
そう言われると胸が苦しくなる。
「……そうだよね。クレールがおばあちゃんになってもわたしは若いままなんだよね」
「なに今更言ってるの」
おでこをこつん、と叩かれた。
「リゼット様もアンジェ様もいるでしょ? 別に寂しくなんてないよ。……そりゃ、あたしは置いていかれるみたいで寂しいけどさ」
「クレール」
「あーあ。あたしも若いうちに寿命伸ばせないかなあ」
贅沢な、というか贅沢すぎる悩みだけれど、シルヴィアにはその愚痴がかなり本気に聞こえた。
◇ ◇ ◇
考えてみると今年からはちょうどいいパーティ会場ができた。
他でもないトー家の屋敷である。
元は伯爵家の別荘だっただけあって広いホールもある。年末の誕生日にはたっぷりのご馳走と美味しいお酒を用意してみんなを招くことになった。
時期的に忘年会を兼ねているような気分である。
屋敷の料理長を務めるのは『銀百合』立ち上げからずっと食堂のスタッフとして働いてくれていた男性である。
腕はいいもののまだ若く、貴族相手の経験も少なかった彼は実務経験を経て独立を考えていた。それならうちで働かないかと誘ってOKをもらったのだ。
食堂の責任者である両親的にも、彼らが作る「新しい料理」の勝手がわかる者がもっと欲しい。経験を積んだスタッフに別のところで料理人を育ててもらって食堂には新しい人を入れていくという方針になった。
パーティの日には屋敷の料理人に加え、騎士団の食堂や他家からも応援に来てもらい、本当に賑やかなことに。
参加者もそうそうたる面々だった。
各貴族家からはもちろん、聖女アンジェリカに、普段は領地運営をしている元王子クロヴィス+彼の隠し子のファン(正体は王女のステファニー)や王妃スザンナ、さらには次期王位継承者である第七王子まで出席。
国王と正室からもメッセージと差し入れが届けられ、もうなんだかよくわからないレベル。
「シルヴィア、会いたかった!」
「ご無沙汰しております、ファン様。まさかこちらに来られるとは思いませんでした」
「うん。公爵様が『せっかくだから』って連れてきてくれたの」
「定期的に顔を出すカトレアが煩いからな。俺も羽根を伸ばしたかったし、こいつにも少しくらい気晴らしをさせないとな」
早いものでファン──ステファニーが病死と公表されてから約二年。
子供の成長は早いのであの頃とは姿もだいぶ変わった。加えて魔道具で外見の印象をかなりいじっているので気づかれることはまずない。
さらに言えば、たった二年で激動のイベントがあったせいで国内貴族もそんなに注目していない。具体的に言うとシルヴィアとアンジェの翼、それからクリステルのほうがよっぽど目立つ。
そう。このパーティーにはクリステルも出席していた。
来たいと言われればノーと言うのも難しい。しっかり贈り物まで用意してくれるのだから正直嬉しい気持ちもあった。
「お誕生日おめでとうございます、シルヴィア様。あなた様の輝きが末永く潰えることのないよう祈っております」
「ありがとうございます、クリステル様。まるで国家に捧げるようなお言葉で大変恐縮です」
「そのようなことはございません。国の、ひいては世界の歴史を見守ってゆくお立場なのですから」
確かに国がいくつか滅んだり興ってもおかしくないくらいの寿命ではある。
とはいえ、ますます彼女の真意がわからなくなってくるのだけれど。
「シルヴィア様。パーティーの後でお時間をいただけないでしょうか。……できるだけ少人数でお話がしたく」
「っ」
呑気に考えていたところで囁かれて息が詰まりそうになった。
見返せば、彼女は身を離して微笑むだけ。
逢い引きのお誘い……にも見えてしまうけれど、これはそういった類ではないだろう。シルヴィアはとにかく微笑を浮かべ、こくんと小さく頷いた。
話さなければならない相手はたくさんいる。なにせ今日はシルヴィアが主賓だ。大切な女性たちはもちろん、重要人物と次々に挨拶をし、酒を注がれ──酔いつぶれないように(もったいないけれど)神聖魔法でアルコールを適度に中和しつつ、気づけば宴もたけなわ。
長いこと騒いでいた客もさすがに日付が変わる頃にはみんな帰宅していき、残されたのは特に関係の深い者と──頃合いを見て別室に移動してもらったクリステルだけだった。
同席をお願いしたのはエリザベートとリゼット、それからクレール。
人払いを行い、盗聴防止を施した部屋で王妹が語ったのは、
「私は両国の戦争を阻止したいと思っております。そのために、陛下になんとか諦めていただくことが私の本当の目的です」