わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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良くも悪くもガラパゴス

 言葉の意味を理解するのに数秒。

 

「国王陛下のご意向と、クリステル殿下のご意向に相違がある、ということでしょうか?」

 

 尋ねれば「その通りです」との回答が来る。

 

「当然、表向きは私も陛下のご意向に賛同しています。臣下として陛下の命に従うのは当然ですから。ですが……」

「我が国と貴国が争うのは愚策。貴国の勝ち目は少ないでしょうし、もし勝てたとしても損失のほうが大きいでしょう」

「私もそう思っているわ、デュヴァリエ公爵令嬢。だからこそ、私は『精一杯動いたけれど駄目だった』という結果を作りたいの」

「だから粘り強い交渉をなさっていたと……?」

「王族が出向いての交渉でも失敗したのなら無理筋だと陛下も気づいてくださるかもしれませんので」

 

 王妹クリステルの態度はエリザベートとシルヴィア──というか、シルヴィアとそれ以外で異なる。国は違えど王族である彼女が頭を垂れるべき相手はこの国の国王と正室くらいで、後は格下として扱って当然。

 それでも、侮蔑等の感情が窺えないあたり真っ当な人物という印象は変わらない。

 

「失礼ですが、クリステル様は国王陛下をあまり評価していらっしゃらないのでしょうか?」

「若くして王となられ、苦労していらっしゃるのは理解しています。ですが、力で他者を押さえつけようとする傾向が強い点で私とは考え方が合いません」

「王妹として陛下を諌めようとお考えにはならないのですか?」

「もちろん、幾度となく苦言を呈してきたわ。けれど、あの方は聞く耳を持ってくださらない。私の力不足ね」

 

 素質や適性があっても上手くいくとは限らない。

 成功には時期や状況も大事だからだ。プロでもどうしようもない案件はあるし、いつも同じ方法が有効とも限らない。

 

「では、このまま無駄な交渉を続けてお帰りになるつもりなのですか?」

「できればもう少し、陛下を説得する材料を得たいと考えております。この国の国力を裏付ける情報を少しずつ集めておりますが、もう一押しなにか得られればかなり成功率は上がるかと」

「……なるほど」

 

 シルヴィアは頷いた。

 要は向こうの王に「攻めても無駄だ」と思わせたいという話。そんな話をここで持ち出したということは、

 

「では、クリステル様のご希望は『銀百合』を把握なさりたい、ということでしょうか?」

「可能であれば、是非」

 

 真摯に頷くクリステルを見て、シルヴィアはエリザベートとリゼットを見た。

 二人は少し考えてから眉をひそめて、

 

「相談している時間もないでしょうから率直に言いますけれど、クリステル様の発言がすべて真実だという保証はありませんわ」

「わたくしも同意見です。これを口実に我が国の戦力を把握しようとしている、とも十分に考えられます」

「当然の懸念だわ。だから、無理強いはできない。案内してもらわなくとも調べる方法はいろいろとあるわけだしね」

 

 例えば、城からなら遠見の魔道具で騎士団の訓練風景を覗くことは可能だ。

 個人ごとの詳細な力量はわからなくとも大まかな訓練内容、実力者の人数などは把握できる。シルヴィアたちもさすがにそれへの対策はしていない。

 あまり必死になって訓練を隠すと今度は「叛意あり」と見做されて国内で面倒事になるかもしれない。

 

「……うん。わたしはそれでも、クリステル様に見ていただきたいと思う」

「……まあ、そうですわね。隠しても仕方ないというか、現時点でクレールとプルプルの話はかなり広まっていますもの」

 

 クリステルの護衛をするにあたって隣国の騎士とこちらの騎士が一緒になることも多い。世間話的にその辺りの話が伝わっている可能性は高い。

 

「では、騎士団の見学を許可していただけますか?」

「陛下の許可は必要ですけれど、こちらからも要望を出すことは可能です。……隠すのが不可能であれば、むしろ戦力を詳細に把握していただくほうが抑止力になりますでしょう?」

 

 こちらのほうが上、という自信がないと取れない手段ではあるけれど、クリステルは微笑と共に頷いてくれた。

 

「やはり、皆様が最も信頼できそうです。今後とも両国の繁栄のため、協力体制を築かせていただけたらと」

「失礼ですが、それは我が国の国王陛下が信用できない、ということでしょうか?」

「国の長にとっては自国が最優先。他国など機会があれば滅ぼし占領すべきものですもの」

 

 それに比べたら目下の者のほうが話しやすいということか。その考え方はちょっと極端な気がするけれど、完全に間違っているとも言えない。

 この国の王はわりと臨機応変に動けるうえに穏健な人だと思うけれど、低リスクで他国を手に入れられるとなったらおそらく、迷わず乗り出す人だ。

 

「では、陛下への陳情を行っておきます。うまく行けば近いうちに良い知らせが届くかと」

「楽しみに待っております」

 

 そして、国王からの許可は年明けを待たずに下りた。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 年明けはシルヴィアにとって人生で一番忙しい時間になった。

 城に挨拶に行き、王族や高位貴族に聖なる祝福を授け、神殿でお祈りをし、さらに平民街に向けて『天使』の姿を晒す役割まであった。

 空を飛んでちょっとしたお菓子を降らせるだけの仕事ではあったものの、下からは大歓声。これは毎年の恒例になりそうだと今からぐったりしそうになった。

 

 それでも仲間たちとちょっとしたお祝いはして。

 

 クリステルたち隣国の使者を『銀百合』騎士団に招いたのは年明けから二週間ほどが経った後のことになった。

 

「これがこの国の騎士団、ですか……」

「整えられている。その上、設備の充実ぶりはどうしたことだ」

 

 先方の騎士たちからの反応は上々。

 少し得意な気持ちになりつつ、シルヴィアは「あくまでも女性のみの、言ってしまえば第二騎士団ですけれど」と補足する。

 ちなみに男性側の騎士団はクリステルの視察を「断固としてNo」と断ったらしい。まあ、馬鹿正直に全戦力を見せる必要もないしそれはそれで正しい。

 

「女騎士のみで訓練が行える、というのがまず羨ましい」

「皆様も男性騎士の横暴には悩まされているのですか?」

「貴国以上に激しいのが実情です。我が国は戦力の拡充に力を入れておりますので……」

 

 女性王族を護衛する関係上、相手の騎士も女性が多く、率直な意見がぽんぽん出てくる。

 それを見た騎士団長──エリザベートはふっと笑って、

 

「よろしければ訓練に参加して行かれますか?」

「よろしいのですか!?」

「ええ、もちろん。こちらからもよりすぐりの若手をご用意いたします」

 

 親友がものすごく「なにか企んでいます」という顔をしているのを見て、シルヴィアは嫌な予感を覚えた。

 もしかして、これって。

 

「騎士団きっての戦力であるクレール・エルミートと弓の名手イザベル・イストですわ」

 

 あ、こてんぱんにする気満々だこれ。

 クレールとプルプルの噂を聞いているはずのクリステルはひくっと頬をひくつかせてから、

 

「胸を借りるつもりで挑みなさい」

 

 騎士たちに「やられてこい」と命令を出した。

 

「よーし、他の国の騎士と戦える機会なんてそうそうないし、思いっきり行くよ!」

「……お手柔らかにお願いします。それと、危ないと思ったときは無理せず防御に専念してくださいね」

 

 トロールと素手で殴り合い、適切な武器さえあれば竜と張り合える若手騎士。

 動く目標にさえほぼ百発百中を決める名射手。

 向こうの騎士たちは見事にぼっこぼこにされ、訓練を終える頃には死んだような目になっていた。

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