わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

167 / 216
いちゃつくなら部屋でやれ

 隣国騎士との合同訓練は以後も定期的に実施された。

 向こうも負けっぱなしでは終われないので果敢に挑んでくる。こちらの騎士も、普段とは異なる相手から技を盗むチャンスと張り切っていた。

 結果的には、だいたいいつもこちらの騎士が余力を残しながら終わるのに対し、向こうの騎士は立ち上がれないくらいへとへとの状態。

 

「強くなる秘訣を教えていただけませんか?」

 

 だからか、ある時一人からそんな言葉が飛び出した。

 

「我々とあなた方の戦いには決定的な違いを感じます」

 

 何度も同じ空間で訓練していればさすがに気づくものもある。

 彼女は少し躊躇いつつも言葉を続け、

 

「体系化された剣術を身に着け、身体を鍛えている我々と異なり、あなた方は個々の長所を的確に伸ばしている。それはつまり──」

「止めなさい。それは私たちが踏み込んで良い話ではないわ」

 

 核心に触れようとしたところでクリステルが制止した。

 シルヴィアたち『銀百合』が強い一番の理由。それはもちろん、それぞれが自分の『恩恵』を把握していることだ。

 

 戦いによってレベルアップしてステータスが上がるクレール。

 格闘ゲームの仕様に縛られることで戦闘力をブーストするエリザベート。

 弓の精度と速度に圧倒的な補正を持ち、当てれば当てるほど強くなるイザベル。

 

 全員が全員、同じ戦い方をしていない。

 見る者が見ればその理由に気づくのも難しくないだろう。

 もちろん、気づかれたとなればこちら側も対処を変えないといけない。

 ちらり。騎士の一人がシルヴィアに視線を向けてくる。頷いて、クリステルに答えた。

 

「お教えした内容を決して誰にも伝えないこと。わたしに敵対しないことを神に誓っていただけるのなら、お教えしても構いません」

「なっ……!?」

 

 王妹クリステルはその翠の瞳を見開いて震えた。

 

「……よろしいのですか? その言葉だけでも十分すぎる情報です。さらに、詳しい内容をお教えいただけるとなれば」

「ええ。皆さまにはある程度の信用がおけると思っておりますし、神との誓約は神聖なものですから」

 

 シルヴィアに敵対しない。

 この条件があることで、『恩恵』の使い方を知った騎士は戦争で役に立たなくなる。

 この国との戦争に参加する時点でシルヴィアと敵対することになるからだ。

 国と戦うだけでシルヴィアに悪意を向けるわけじゃない、なんていう屁理屈は通用しない。家族や友人、国土を害することで「間接的にシルヴィアを害するかもしれない」と()()()()()()()()()()アウトだ。

 心の底から「それはそれ、これはこれ」と思える異常者ならばあるいは別かもしれないけれど。

 その意味を理解した騎士たちはさすがに黙った。

 

 戦争に参加できない騎士に存在価値はない。

 彼女たちがどこまで知っているかはわからないものの、仮想敵国がどこであるかくらいは予想しているだろう。

 

「……それでも、教えていただけるのなら」

 

 だから、OKしてくる騎士がいるのは予想外。

 これにはさすがにクレールも眉をひそめて、

 

「本気? 国に帰ったら殺されてもおかしくないよ?」

「はい。ですので、このままこの国で保護していただくことはできないでしょうか。……負ける戦に参加したいとは思えません」

 

 騎士とは国のために戦い命をかける者。

 同国の騎士どころか『銀百合』のメンバーもこれには怪訝そうな表情を浮かべる。

 けれど、

 

「大敗を喫すれば、おそらく我が国は滅びます。……そうなるよりは、戦が始まる前に勝敗が決する理由を増やすほうが」

「黙りなさい、と言ったはずよ」

「っ」

 

 彼女の言い分はわかる。

 隣国騎士の中には賛同するような表情の者もいる。それでもクリステルは再度一喝した。どちらかといえば彼女も肯定派なのではないかと思うのだけれど。

 

「裏切り者の家がどうなるかも考えなさい。……それに、そんな大問題、騎士団だけで決められるはずがない」

「……確かに、そうですね。陛下に相談しなければなりません」

 

 頷いたシルヴィアに王妹は跪いて、

 

「どうかお忘れください、シルヴィア様。勝てぬ戦を行わないのは当然のこととはいえ、戦が決まれば全力を尽くすのが騎士というもの。勝てる勝てないで態度を変える者を誰が信じましょう」

「ですが、クリステル殿下」

「ご安心ください。どうしても勝ちたければ死にものぐるいになればよいのです。……例えば、竜の血を啜ってでも」

 

 意味ありげな言葉をシルヴィアに残したのだった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 竜娘お気に入りの料理はスパイス等で衣に味をつけた揚げ鶏──つまりはフライドチキンである。

 食堂の隅でむしゃむしゃとチキンだけを頬張り続ける彼女──床に座らずテーブルにつく程度の分別はつけてくれるようになった──にシルヴィアは「ねえ」と声をかけて、

 

「プルプル? あなたの血って飲むとなにか効果があるの?」

 

 竜の生き血を飲むと強靭な肉体を得られる。

 そんな伝承はそこらにいくらでも転がっている。最後に人が竜に変じたのも竜と人が争ったのも記録上は大昔の話なので眉唾だとしてもなにもおかしくないけれど、

 

「あるぞ」

「あるんだ?」

「身体が強くなる。飲んだ量にもよるが寿命も延びる。肉まで食らった日には竜になることもできるじゃろうな」

「ちょっと待った。聞いておいてなんだけど衝撃的すぎる」

 

 あっさりそんなことを教えるんじゃない。

 

「なにを言う。人から天使に変じた娘よ」

「それはそうだけど、わたしのはたまたま素質があっただけだし」

「我々の血とて、素質のない者が飲めばただの毒よ。最悪、苦しんだ末に死ぬだけに終わる」

「駄目じゃん」

 

 むしろ天使よりだいぶたちが悪い。

 

「でも、竜の血目当てであなたたちを狙う人はいるかもね?」

「妾たちを認めさせられるほど強くなければ殺されて終わりじゃがな」

「本末転倒すぎる」

「逆に言えば、妾と戦って生き残れる者でも全員に素質があるわけではない。例えば、お主らで言えば──」

 

 プルプルの視線が向けられた先には、嫌そうにサラダをちびちび突つくポニーテールの騎士。

 

「……あたし?」

 

 フォークで自身を指したクレールは目を瞬いて、

 

「あたしがプルプルの血を飲めば寿命を延ばせるってこと?」

「お主ならほぼ間違いなかろう。少量から始めて慣らしていけば確実じゃ。望むなら協力してやる。ここには豊富な食料も、傷を癒せる者もいるしな」

 

 確かにシルヴィアなら腕が斬り落とされようと生きているうちなら余裕で癒せる。

 それを聞いたクレールは「そっか、そうなんだ」と俯いて、

 

「なら、あたしは」

「待ったクレール! 竜だよ? 竜に近づくんだよ? 止めておいたほうがいいよ」

 

 不穏な気配を感じたシルヴィアは慌てて止めた。

 止められたパートナーはあからさまに不満そうに頬を膨らませて、

 

「なにそれ。シルヴィアは天使になったくせに。それも勝手に」

「う。……それはその。黙っていたのは本当にごめんなさい。でも、竜だよ? 天使とは大違いだよ? この子が服着るのも嫌がる変な子なの知ってるでしょ?」

「う。……それは確かに、そうはなりたくないけど」

「おい、お主ら。どこを基準にしておる」

「しかも角とか生えるかもしれないよ? キスする時すごく邪魔だと思う」

「え、それは困る。シルヴィアの翼は綺麗だし消せるからいいけど」

「……トー子爵? 恋人同士のじゃれ合いでしたらお部屋でお願いしますね?」

「ごめんなさい」

 

 一般騎士からクレームを受けたシルヴィアはクレールともども深く謝った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。