わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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これ、さすがにおかしくない?

 必死で止めた甲斐あってか、竜の血を飲む話はいったん保留に。

 ただ、この件に関するエリザベートの見解は、

 

「どうせそのうち飲むことになるに決まっていますわ」

 

 正直シルヴィアもそう思う。

 自分も含め、仲間たちはみんなこういうところで変に頑固だ。ちゃんと諦めてくれるとは思えない。

 ともあれ、心の準備をする程度の時間は稼げたわけで。

 シルヴィアはエリザベートと共に国王に謁見、人払いを行った場所で新しく得た情報を伝えた。

 

「……竜の血。そして亡命希望者か」

「はい。前者に関しては正直なところ、旧来の伝承とそう変わりないと思います」

 

 一部の者が竜の血を飲めば強くなれるけど、強くないと飲む前に殺されます、とか言われても「で?」としか言えない。

 これがゲームなら一周目はチャレンジを諦める類のサブクエスト、下手したらラスボス倒すより面倒なやつだ。

 

「後者についても即断はできんな」

「はい、陛下。場合によっては亡命者を理由に戦争を起こされるかと」

 

 この場合、竜を奪ったは言いがかりだけれど、騎士を奪ったは事実。

 返すなりなんなりしないとこちら側の落ち度になる。

 もちろん、互いの戦力差を考えれば外交的に補償を求めるのが正解だろうけれど。

 

「逆に言えば、これを利用してかの国に『仕掛けさせる』こともできるかもしれんな」

「陛下、それは」

「シルヴィア。其方は戦略家であろう」

「っ」

 

 戦争で活躍するのが本分。ならば戦争を始めるきっかけを操るのも戦略家の領分か。

 そこでエリザベートはしばし思案して、

 

「亡命者が出た場合、家族が処刑される懸念さえ出ておりました。かの国の王が本当にそれほど苛烈な方ならば、楽に相手方の貴族を減らせるかもしれません」

「エリザベート!?」

「シルヴィア。申し訳ないけれど、わたくしは身内の命のほうが大事です。そのためならば他国の人間など犠牲になっても構いませんわ」

「……それは、わたしだってそうだけど」

 

 人が死なないに越したことはない。

 戦争になればこっちの国だって無傷というわけにはいかないわけだし。

 

「陛下。今はまだ、明確な火種を作るのは時期尚早かと。隣国が準備を進めているのだとすれば、こちらが物資や人員で遅れを取る可能性があります」

「ふむ。……確かに。物資の備蓄も十分とは言えん。国境付近の備えも増やすべきか」

 

 隣国が無理な軍備増強を行っているという話もある。

 クリステルを帰国させ「戦争をしても負ける」という推測を伝えてもらえれば、少なくとも開戦を延ばすことはできる。

 

 現在、シルヴィアが都を浄化したことで都の病人は減少中。

 天使となったアンジェ、神殿長となったアンジェリカの尽力で怪我や病気による死亡する人も減っている。

 『銀百合』が本格始動し、効率的な人員運用ができるようになったことで魔物被害も減少、迅速な対処が可能になった。

 シルヴィアやアンジェが国内を飛び回って神の遺物の復活や土地の浄化、田畑の活性化を行えるようになればさらに状況は良くなる。

 

 物資、人的資源で差をつけて戦争の勝率をさらに上げることもできるだろう。

 

「よかろう。クリステルには申し訳ないが、隣国特使には手ぶらで帰ってもらう」

 

 そして、王妹クリステルは三月の中旬には自国へ向けて出発した。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 帰国の直前、シルヴィアはクリステルから大粒の宝石を贈られた。

 美しい翠色。

 自国から持ってきた品はせっかくなのですべて吐き出して帰るつもりなのだと言う。少しでも両国の関係回復に繋がれば、と。

 

「……でもこれ、『私を忘れないで』という意味合いではありませんの?」

「別にそう言われたわけじゃないし、もらえるものはもらっておくよ。男女の仲でもないしね」

「あなたの場合は同性との婚約が知れ渡っているではありませんの」

 

 それはそれ、これはこれ、である。

 

「そんなことにはならないと思うけど、クリステル殿下がわたしと結婚してくれるなら戦争回避につながるんじゃない?」

「まあ、そうなる前に先方の陛下が却下するはずですわね」

 

 この国の王からは「誰と結婚してもいいし何人でもいいよ」と許可をもらったけれど、隣国の王族となれば向こうの王の許可もいる。

 さすがに現実的とは言えない話である。

 

「で、殿下へのお返しはどうしますの?」

「お酒かなって。高いのをいくつか見繕うのと、神聖魔法でとっておきのを作って渡すつもり」

 

 清酒は原材料からして入手困難なため、他では絶対に飲めない。

 酒を選ぶのは国王に渡してもらうためだ。クリステルから「王は酒と女が好き」という情報も入手済み。献上品を快く思ってくれれば攻めないでくれるかもしれない。神聖魔法の威力を示す意味もある。

 逆に「天使、欲しいな!」ってなって攻めてくるかもだけれど、そこまで馬鹿殿だったらなにやってもどうしようもない気がする。

 

 というわけで、クリステルの帰りの馬車には非売品も含めた高級酒が積まれることになった。

 

「またお会いできる日を楽しみにしております」

「是非、今度は遊びに来てくださいませ」

 

 王妹は見送りに出たシルヴィアの指にキスをして去って行った。

 

「……あーあ。もう来なくていいのに」

「クレール」

「でもさ、あの人がまた来るとなったらたぶん、話がまた拗れた時だよ?」

「まあ、そんな気はするけど」

 

 そして事実、両国の関係が緊張状態から改善することはなかった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「騎士団の警備体制を強化できないかな」

「シルヴィア様の保護のため、ですね?」

「わたしもそうですけれど、アンジェ様も頻繁に出入りする場所です。さらに、食材に毒でも仕込まれれば国内騎士の何割かが一網打尽になります。警戒しておいたほうが良いかと」

 

 クリステルの帰国後、シルヴィア自身の申し出により『銀百合』の警備人員が増やされ警戒が強化された。

 前の嫌がらせ事件から出入り業者はイリスの商会つながりに変わっているので潜り込む難易度も上がっている。

 さらに、メイドのスリスは見慣れない顔に敏感だし、掃除担当のララ、リリ、ルル三姉妹は鼻を使って部外者を見分けられる。

 

「公爵家の伝手を使って隣国の情報を今まで以上に仕入れていますわ」

「プレヴェール公爵家にも可能な範囲で協力を依頼しております」

 

 シルヴィアもアンジェもひとところにとどまっていられる立場ではないものの、神殿は武装して侵入するのが難しい。

 任務での外出中に関しては、例えば以前のように任務自体が仕込みでない限り位置特定・追跡が困難。

 結局のところ騎士団にいる間が最も狙われやすいと思われる。

 

「まあ、さすがにないとは思うんだけど……」

 

 とか言っていたら、半年ほど経った頃からシルヴィア誘拐未遂事件が頻発した。

 

「ええ……?」

 

 国境にて商人を装った馬車が拘束。荷の中に武器や魔道具が必要以上に見つかったり。

 巡礼の聖職者を装った者が神殿で暴れて取り押さえられたり。

 屋敷の庭に毒蛇を放とうとしていた不審者をメイドに扮したティーアが発見、ぼこぼこにして捕まえたり。

 酒の礼と言って隣国国王名義で贈られた返礼品の中に毒針が仕込まれていたり。

 

 拘束した人間に浄化を行い話を聞いたところ、シルヴィアもしくはアンジェを誘拐する目的だったと自白。あっという間に隣国による悪意ある実績が積み上がってしまった。

 

「……これ、さすがにおかしくない?」

 

 一国の主ともあろう者がここまで迂闊な真似をするか。

 実働している者が他にいてそいつが無能なのか、あるいはあまりにもワンマン体制なのか。隣国の状況について疑問が湧き上がってきた。

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