わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
隣国からの介入が明らかとなり、証人まで得られたことで、シルヴィアたちの国は「責められる側」から「責める側」に立てるようになった。
国王は複数の誘拐未遂について隣国への追求を敢行。
書状を送りあう形での交渉が進められる中、
「隣国の王家は思った以上にぼろぼろの状態のようですわ」
もろもろの調査結果が十分な量に達し始めた。
「そもそも隣国はこちらの国とは王位継承の仕方に違いがあります。……クレール、どういった点かわかるかしら?」
「そんな細かいことあたしが知ってるわけないじゃん」
「でしょうね。ではイズ、あなたは?」
「はい。次期王位継承者が現国王の指名によって決まる点です」
「さすがイズ。知識もしっかり頭に入れていますわね」
照れるように微笑むイザベル。ほっこりした気持ちになっていると、クレールが「ん?」と首を傾げて。
「うちの国だって陛下が指名してるのには変わりないんじゃないの?」
「確かに。ですが、我が国では『国王』の神託が下った時点で王が指名を行うのが慣例。対して隣国では、王が指名を行うまで次期王位継承者が決まりません」
「ん? ……えーっと、つまりどういうこと?」
「敢えて後継者の指名を遅らせることで、王族内の競争を促しているのです。自分にも可能性があるとなれば勉強にも身が入る、という考え方ですね」
再度の疑問にリゼットが回答。
クレールはこれに「なるほど」と頷いて、
「でもさ。神託受けた時点で誰が王様かなんてわかっちゃうじゃない」
「ですので、隣国王家では誰がどんな神託を受けたのか伏せる慣習があるようです。神の文字に対する研究結果を代々の王と一部の学者、そして聖職者が完全に秘匿しているのですわ」
神託結果を自分で表示できても、それがなんと読むのかわからなければ意味がない。
「……うーん。そこまでして神託を隠す意味ってあるのかな?」
平民には知らせないといけないのだから、どうしても知りたければ自分で研究すればいい。
「そうだね。でも、例えば暗殺は防げると思うよ」
「え。なんでわざわざ次の王様殺そうとするのさ!?」
「クレールさん。残念ながら、人は打算や常識だけで動くものではないんです。ひどく愚かな行動に出る人だって中にはいるんですよ」
「イザベルは相変わらずひどいこと言うなあ。でもまあ、うちの国にもいたっけ、そういう人」
向こうの国が戦争好きなお国柄というのもあるだろう。
戦争となれば王族が前線に駆り出されることもある。そのほうが士気が上がるからだ。となるとその時に送り出されるのは「次期王位継承者以外の男性王族」である可能性が高い。
次期国王を殺して自分が指名されれば安全なところでぬくぬくしていられる、という考え方もある。
歴史上一度でも暗殺が起きれば対策が講じられて当然だ。
「さて。ここまでが前提なのですけれど、シルヴィア。この話がどうつながるかわかりまして?」
「ん……。隣国の現国王陛下が『国王』神託を受けてないんじゃないか、ってこと?」
「ええ。先王は次期王位継承者を指名する前に崩御。それ以前の数年間に複数の王族が『病死』していますわ。これはつまり」
「自分が王様になるために暗殺しまくった奴がいるってこと……!?」
騎士団長室にクレールの声が響いた。
その場にいた他の全員が「声が大きい」とジト目で見る。頬を染めた騎士団のエースは「ごめん」としゅんとなった。
「あー、うん。でもそうなったら一番怪しいのは得した人だよね。ものすごく馬鹿馬鹿しいけど」
「ですわね。王族の数は国力そのものと言っても過言ではありませんわ。まあ、多すぎるのも考えものですけれど」
この国で言えばクロヴィスが公爵となって直轄領で成果を挙げたり、イリスが商才を発揮して経済を盛り上げているのであながち否定できない。
エリザベートはため息をついて「そこで」と続けて、
「考えられる状況として、現王族は全員、自身の天職を知らない可能性があります。わたくしがその大馬鹿者ならば、残りの知恵者──神文字研究者の口を封じますもの」
「そうすれば誰も王様の正当性を否定できないか。馬鹿馬鹿しすぎるけど、だからこそそれっぽいね」
「さらに。その前提で考えた場合、とても美味しい立場にいる人物が一人いますわ。……天使という上位種であり、神の文字を読むことができ、竜を一人従えている戦略家」
戦いの役に立つことこの上ない。
神の文字を読めるという特性についても、シルヴィアを逆らえないようにして「この方こそが真の王です」と嘘を言わせれば決定的な権力に繋げられる。
「あの、エリザベート? わたしが神の文字を読めることはいちおう秘密なんだけど」
「聡い人間ならばとっくに気づいていますわ。少なくともクリステル殿下は気づいているでしょう。彼女が陛下に伝えているかどうかはわかりませんけれど」
他の点だけでも十分すぎる利点。
天使という立場だけでも王の正当性を高めるのに利用できるだろうし。
「……うーん。ある意味、神託に縛られない国づくりの第一歩なのかな。ちょっと強引すぎて上手くいく気がしないけど」
「問題はあなたが狙われる理由ですわ。事がこうなった以上、あなた一人を引き抜きたいのならば取れる手段があります」
「あの、エリザベート。もしかしてそれって」
クレールが嫌そうな顔をする。もちろん、他の面々も似たようなものだ。
「そう。国王本人との婚姻ですわ」
◇ ◇ ◇
なんで自分を殺そうとした相手と結婚するんだ、という話だけれど、隣国国王は数々のシルヴィア誘拐計画について「知らぬ存ぜぬ」を貫いた。
国家間の争いを判定できる第三者なんているわけがない。
証拠も証人もあったとしても「捏造だ」と言い張ってしまえばどうすることもできない。強硬な態度を取れば攻められる可能性はあるけれど、それこそが望みであるならむしろ好都合。
さらに続けて、国王から書状が届き、
「隣国の王より、シルヴィア。其方を側室として貰い受けたいと要望が届いた」
こちらの国の王は「本当に頭が痛い」とでも言いたげな表情でそう口にした。
「念のために聞いておこう。其方はどう思う?」
「お断りいたします」
「うむ。婚姻に関する其方の決定は我であっても干渉する事ができぬ。非常に心苦しくはあるが、先方には断りを入れるとしよう」
なんだこの茶番、という話だけれど、情報共有は大事である。
で。ここまで来て向こうがすんなり引き下がるはずもなく。
「捏造の誘拐事件で非難してきたお詫びにシルヴィアを寄越せって!?」
「だから声が大きいですわ、クレール」
「ご、ごめん。でもなにそれ、そのめちゃくちゃな条件!」
「ふっ掛けるのならば大きく出たほうがいい、という考え方はありますわ。あまりにも強気に出過ぎですけれど」
さらに言うと今回は「誘拐の件をはっきりさせるため」に国境付近での話し合いを希望してきた。
さらに、
「先方は『求婚を断るのなら本人から直接
「ありえません。当然、そのような方は願い下げです。そうでしょう、シルヴィア様!」
「お、落ち着いてくださいリゼット様。その通りですけれど」
とはいえそうなると顔を出さないわけにもいかないだろう。
直接断ったほうが後腐れもなさそうだし。
「ねえ、これさ。ほぼ間違いなく罠だよね?」
「でしょうね」
「そりゃ、あたしでもさすがに『おかしいな』って思うよ」
ここまであれこれやってきた相手だ。断られたら武力で略奪しに来てもなにも驚かない。
こちらが抵抗したらしたで戦争に持ち込めるからちょうどいいわけだし。
──ここまでの状況、情報を考えて、シルヴィアはある推測を立てた。
前々から考えてはいたのだけれど、ここまで来ればさすがに荒唐無稽な想像とも言えないだろう。
「あのさ。向こうの国王陛下って魔族あたりに操られてたりしない?」