わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

170 / 216
飛んで火に入るはどちらなのか

 魔族が人を唆す事件は過去にもあった。

 他でもない、ゼリエが魔族ヴァッフェに躍らされた件である。

 いくら魔族でも人を常時フルコントロールするのは難しいものの、甘言を弄して任意の方向に向かわせることはできる。

 器物や動物に変身することで誰にも気づかれず重要人物に接近できるのもシルヴィアたちの良く知っているところだ。

 

「無い、とはとても言い切れませんわね。魔族はそういったお遊びが好きなようですし」

 

 ヴァッフェやティーアはもう少し穏便な遊び方だったけれど、いつまで経っても進化しない人間に飽きて好き勝手やっていたのは同じ。

 当の本人たちにも意見を聞いてみたところ肯定的な見解だった。

 

「面白くないから政治に干渉して悲劇を起こさせてやれ、って考える奴がいても不思議はないわね」

「箱庭で人間育ててるようなものでしょ? ちょっと面白そうよね」

 

 確証はないものの、もしそうなら不自然なまでの攻撃性に説明がつく。クリステルがいくら働きかけても上手くいかない理由も。

 なら、魔族の干渉があるかないかだけでも確認できれば。

 これらの見解を国王に伝えたところ、王は国境付近での会談に同意することを決めた。

 

「相手方の王自らが出てくるのであれば、それを操る魔族もまた付いてくる可能性が高い。魔族が王に憑いているかを確認し、それを叩け」

 

 そうして。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「今回の件、スザンナ殿下が指名されたのですね」

「私は子育ても終わったしね。王家にとっての重要度が低いもの。むしろ、あなたたちのほうが心配なくらい」

 

 会談はクリステルの来訪から約一年後の十月に実施されることになった。

 とはいえ、罠とわかっている場に国王がのこのこ出ていくわけがない。代役として選ばれたのは側室の一人であるスザンナ。

 向こうが特使として王妹クリステルを送ってきたのと似たようなものである。

 

「騎士団はこういう時こそ活躍しなくてはなりませんので。有事の際には精一杯お守りいたします」

「ありがとう。よろしくね」

 

 護衛として『銀百合騎士団』から十名以上の騎士が派遣。さらに二十名以上の兵士も同行している。騎士一人につき四名というセオリーには足りないものの、不足分は現地近くの砦で調達する予定だ。

 騎士団はマルグリットとサラに任せ、騎士団上層部も総動員。

 

「殿下。よろしければこちらをお持ちください」

 

 大規模な馬車団の中央でスザンナと同じ馬車に乗り込んだシルヴィアは、王妃に一つのアクセサリーを取り出した。

 

「これは……ネックレスかしら?」

「防御用の魔道具です。腕や足に巻いてお使いたいただけますので邪魔にもならないかと」

「万一の備えというわけね。それじゃあ、ありがたく使わせてもらうわ」

 

 細いチェーンの先に宝石のチャームが付いたものだ。

 簡単なチェックを受けたものの、もちろん毒も針も仕込まれてはいない。

 もちろんこれはヴァッフェの変身。

 いざというときスザンナの防御を担当してもらうための備えだ。

 

 もう一人の魔族であるティーアはメイドとしてシルヴィア付き。さらにゼリエにも同行してもらった。

 あと、プルプルも野放しにはしておけないので一緒に連れてきている。備えあれば憂いなし。これならどんな敵が来ても負けることはない。

 

「さて。先方はどう出てくるかしら」

「事前の書状では、先方は国王陛下ご自身とクリステル殿下のお名前があったのですよね?」

「ええ。もちろん、急遽予定を変更してくることも考えられるけれど」

 

 向こうがどの程度の規模の兵を動員してくるか、という問題もある。

 こちらは動きやすさを重視したけれど、果たして。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「別働隊を使ってくる可能性もありますわね」

 

 出発の数日前、エリザベートとそんな話をした。

 

「会談そのものが囮ってこと? それもう開戦する気まんまんだけど」

「どうせ派手に動くならそのほうが意表をつけるでしょう。そのまま都を攻め落とせれば万事解決ですわ」

「あまりにも戦略が雑すぎる……」

 

 戦略ゲームでその手の戦術をやって成功した試しがない。相手プレイヤーが使うと何故か成功するけど。……あれ? そうすると今回も成功するのだろうか?

 

「うーん。本命を別に動かすとしたら……」

 

 地図を広げて「ここか、ここかな?」と指を指すシルヴィア。

 

「都じゃなくてわたしたちを包囲してくる可能性もあると思うんだよね」

「どちらにも動けるようにするなら確かにその辺りですわね。あまり会談場所から離すと都までの距離も遠くなりますし」

「斥候を送っておくべきかな? 情報の伝達速度を考えると通信の魔道具を持たせたいけど……」

「送るとすれば一人か二人。発見された時のリスクはなかなかに高いですわね」

 

 この話を聞きつけたプルプルから「妾が行ってやろうか?」と言われたけれど、これは却下。見つけたついでに全滅させてきそうだ。

 一人も殺したくないとは言わないけれど、殺してしまうと交渉の余地もなくなる。

 

「隠密性、あるいは生存性に長けた人に行ってもらうのがいいかな」

 

 幸い、騎士団には多種多様な人材が揃っている。

 シルヴィアたちは地図から割り出した二つの地点にそれぞれ一名の騎士を派遣することにした。

 

 片方に送ったのは『スニークアクションゲームの主人公』という恩恵持ち。

 偽装・迷彩の効果が格段に上がるため、隠れようとしてさえいれば「ん? ……気のせいか」とスルーしてもらえる。

 併せて望遠の魔道具も持っていってもらい、近くの林で木のフリでもしながら探ってもらう。

 

 もう片方には『ファミリー向けレースゲームの自機』の恩恵持ち。

 馬を含めた乗り物のスピードが格段に上がる。

 強行偵察を行って敵の存在・大まかな人数を確認したら「相手をスピンさせる発射アイテム」で撹乱しながら「無敵&加速アイテム」で一気に逃げ、効果が切れたら別の「速度ブーストアイテム」でさらに引き離す。

 一定距離の走行を行うごとにアイテムは再度ストックされるのでまず追いつかれる心配はない。

 

 こうして、都から国境付近まで馬車での長旅を経て、シルヴィアたちは会談の場に臨んだ。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 会談に指定されたのはなにもない平原。

 到着したのはこちら側のほうが早かった。騎士一人+兵士四人の隊ごとにスザンナ、城の文官、メイドらを取り囲んで、

 

「シルヴィア、アンジェ様。お願いいたしますわ」

「うん」

「かしこまりました」

 

 魔法もなしに単独飛行可能な二人が翼を広げて空に舞い上がる。

 天使化によって強化された視力は彼方からやってくる一団を見逃さずに捕捉。

 

「……あれって」

「すごい人数……!」

 

 百名いるこちらの戦力の二十倍はいるのではないか。

 アンジェと共に舞い降りたシルヴィアは「ざっと二千人」と報告した。聞いたエリザベートは頬をひくつかせて、

 

「本気も本気じゃありませんの」

 

 明らかに会談に臨むためだけの人数じゃない。農民や一般市民からも徴兵しているのだろうけれど、もし常備兵だけで構成しているなら全部かき集めたんじゃないか、という数だ。

 報告を聞いたスザンナもさすがに額に汗を浮かべて、

 

「決裂したら襲ってくるのではなく、最初から殺す気で来ているのかしら」

「わかりません。……ただ、このまま近づけさせるわけにはいきません」

 

 シルヴィアはプルプルを呼んだ。

 

「ん? なんじゃ、全員殺して良いのか?」

「だめだってば。とりあえず脅しに行くから付き合ってくれない?」

「良いぞ。お主一人くらいなら守ってやる。まあ、多少の攻撃でお主が死ぬとも思えんが」

 

 二人で飛んでいくと弓兵が構えを取ったものの、撃たれる前に「攻撃に来たわけではありません!」と制止。

 心臓はすごいことになっているけれど、そこは平静を装った。

 行進が止まり、隊列の後ろのほうから着飾った男が進み出てくる。仕方なさそうに続いたのは王妹クリステル。

 

「このような場合ですので礼を省略することをお許しください。御身がグレゴール国王陛下であらせられますでしょうか」

「いかにも。俺がお前に求婚した男だ」

 

 名前に濁音が二つも入っているあたり戦争が好きそうな男だ(偏見)。

 隣国の王、グレゴールは御年三十八。

 長身かつ、鍛えているのか身体は割合がっしりしている。短めに刈った髪、ぎらぎらした眼光はその野心を大いに示している。

 

 そして。

 

 彼の身には、とても人間のものとは思えない強大な魔力が秘められているのをシルヴィアの感覚は感じ取った。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。