わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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茶番という名の会談

 ──魔族の干渉じゃない?

 

 脳内に焦りが生まれる。てっきり服や装飾品、そうでなければ人に化けて魔族がついてきているものだと思ったら、ご本人がめっちゃ強そう。

 人を超えた存在にしてはちょっと馬鹿っぽい、もとい、力の自覚がどこまであるのかよくわらかないけれど。

 

「なんだ? 会談の前に俺の女になりに来たのか?」

 

 じろりと全身を舐め回されるのを感じながら「いいえ」と答えて、

 

「会談を行ってくださるおつもりがおありなのか、確認するために参りました」

「ん? ……ああ、この兵か? 気にするな。単なる用心だ」

 

 気になるに決まってるだろ馬鹿なのか。

 

「申し訳ありませんが、護衛の数を減らしていただけないでしょうか。こちらは百名ですので、可能であれば同数程度に」

「はっ。なんだ、怖いのか天使のくせに」

 

 こいつなかなか挑発が上手いな。

 見かねたクリステルが「殿下、あまり失礼な態度は」と諌めてくれるも、グレゴールは「うるさい」と一蹴。

 

「そもそもお前が役に立たないからこうなっているんだろうが。……まあいい、俺は寛大だ。おい、近衛だけついて来い。残りは待機だ」

 

 二千の戦力のうち、装備の整った百名ほどが分かれて進み出た。ひとまず会談は行えそうで少しほっとする。

 そんなシルヴィアに隣国の王はにやり、と手を差し伸べて、

 

「エスコートしてやろうか、シルヴィア・トー」

「お断りいたします」

 

 営業スマイルで述べるとシルヴィアは先に自陣に戻った。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 緊迫した空気の中、椅子とテーブルが用意されて主要人物が席につく。

 

 こちらはスザンナとシルヴィア、プルプル。

 向こうはグレゴールとクリステルが座った。

 

 シルヴィアたちの後ろには文官と、それからエリザベート、ラシェル、クレールが控えている。

 グレゴールは向こうのメイドが注いだ酒をぐいっと煽ると「それじゃあ」と笑って、

 

「返答を聞こうか、シルヴィア・トー。俺の側室になれ。天にも上る心地を味わわせてやるし、贅沢もさせてやる。何よりこの俺の子を孕めるんだ、最高の栄誉だろう?」

 

 いったいどこまで本気で言っているのやら。

 シルヴィアには異性であるグレゴールの好感度はわからない。まあ、本当に高かったとしても「好きな相手は略奪する」性格なだけかもしれないし、あまり意味はない。

 王の隣に座るクリステルの好感度がぴろん、と上がるのを認識しつつ「お返事は陛下からお伝えいただいた通りです」と返答。

 

「あなたの妻にはなりません。わたしは男性に興味がありませんし、国を出る気もないのです」

 

 途端、盃が音を立ててテーブルに置かれて。

 

「くだらない事を。女同士の性交など所詮はままごとだ。本当の喜びを知らないまま死ぬなど、その極上の身体が泣くぞ」

 

 とりあえず、シルヴィア側の好感度は地に落ちた。

 彼と結婚するくらいならダミアンの求婚を受けるほうが百倍、いや千倍マシである。こんな奴が女に配慮してくれるとはまったく思えない。

 

「いくら国王陛下とはいえ、他国の人間を意のままにする権利はございません。どうかご理解を」

「……はっ」

 

 冷笑を浮かべるグレゴール。

 経験を詰む前のシルヴィアなら苛立ちを含む眼光にびくびくしていただろう。今でも怖いけど。なんとか震えは最小限に抑えた。

 

「なら、スザンナだったか? お前はどうだ。少し前に娘を亡くしたんだって? 俺が代わりを作ってやろう」

「申し訳ございませんが、私にとって我が国王陛下以外の男性は男性ではございません」

 

 グレゴールはつまみとして用意された干し肉を荒々しく噛みちぎった。

 

「お前らの国はどうかしているな。やはり女が大きな顔をすると何もかもおかしくなる」

「グレゴール陛下。国王陛下の名代として申し上げます。度々の放埒、無茶な要求には目に余るものがございます。我が国としては強硬な手段での対処も検討せねばなりません」

「ほう? こちらがそちらに何かしたという明確な証拠がどこにある? まあ、そっちから攻めてきてくれると言うなら好都合だ」

 

 そこでエリザベートの持つ通信の魔道具が音を立てた。

 鈴のチャームのついたピアス。普通に揺らしても音が鳴ることはなく、通信を要求された時のみ鳴る。

 

「いいタイミングですわね。……わたくしですわ。状況はどうなりまして?」

 

 鳴ったほうのピアスを外したエリザベートは別の魔道具にそれを接続。拡声の効果が追加されて一同へ聞こえるように。

 

『国境付近に隣国の一団が展開しているのを確認いたしました。数は──およそ千です!』

 

 もう一人からも続けて同様の報告。

 通信を終えたエリザベートは「と、いうことですわ、スザンナ殿下」と微笑。

 

「ありがとう、エリザベート。……グレゴール陛下? これはいったいどういうことでしょう?」

「どうもこうも。国境を超えたわけでもないというのに何か問題でも? むしろそちらの騎士がちょろちょろと刺激したせいでうっかりそちらの領土に踏み入ってしまうかもしれないな」

「では、その『うっかり』が起こったときのために警戒を強めさせていただきます。……リゼット、お願い」

 

 騎士たちと共に離れた場所で待機しているリゼットは風の魔法で会談の様子を拾っている。彼女が所持している別の魔道具で二箇所の砦と連絡を取り、臨戦態勢を取らせる。

 もちろん両砦の人員は増強済みだ。

 

「グレゴール陛下。当方といたしましてはこれまでの各案件に関する謝罪、そして賠償を要求いたします。その上で今一度、和平を結びたいと考えますが?」

「くだらんな。文句があるのなら力で納得させればいい。怖いからそうやってのらりくらりと誤魔化しているのだろう」

 

 本当に話にならない。

 ため息をついたところで、給仕のメイドに混じっていたティーアが耳打ち。

 

「わかったわ。……敵の魔族は()()()()()()()()()()()()()。いえ、左腕に擬態した上で全身を侵食しているのかしら」

「なっ……」

 

 それはさすがに予想外である。

 思わず声を上げたシルヴィアをグレゴールが咎めるも、

 

「どうした、シルヴィア・トー」

「グレゴール陛下。あなたは魔族に取り憑かれていらっしゃるのですね? 自信の源はそれですか?」

「っ」

「ほう」

 

 あからさまに顔を歪めたのはクリステル。

 そしてグレゴールは愉快そうに笑って、

 

「なんだ、クリステル。お前もうすうす気づいていたのか。……まあ、そうだよなあ? それなら俺が怖くて仕方ないよな?」

「陛下。それはお認めになられたということでよろしいですか?」

「認めたかって? 認めたらどうだと言うんだ? あ?」

 

 殺気。

 立ち上がったグレゴールから放たれるプレッシャーに肌がぴりぴりと震える。プルプルがにやりと笑って立ち上がり、騎士たちが揃って剣を抜く。

 

「抜いたな? 見たなお前達! 戦を始めるぞ!」

 

 竜娘がテーブルを蹴り上げる。簡単に持ち上がるようなサイズじゃないはずなのだけれど、それは軽々と浮いてグレゴールを襲い──。

 振るわれた左腕が頑丈なテーブルを粉々に砕いた。

 

「スザンナ殿下、お早くこちらへ」

「ええ。……総員、戦闘準備!」

 

 エリザベートに連れられたスザンナが陣の後方、一台だけ連れてきていた馬車へ。入れ替わるように前に出るのは騎士と兵たちだ。

 最初から向こうがその気なら戦うつもりでいたので士気は十分。

 さらに、

 

「隣国の皆さま。無益な争いはお止めください。本格的な戦が始まる前にあなたがたの主を止めるのです。そうでなければ双方、多くの命を失うことになるでしょう」

 

 空へと舞い上がったアンジェが聖なる光を一帯へと満たしていく。

 向こうの士気は決して高いものではない。

 近衛は王家のために命を尽くすものだけれど、そんな彼らでさえ「本当に戦っていいのか?」という表情をしている。そこに聖光を浴びせられて心を落ち着かされればもう、まともには戦えない。

 剣を手にしながらも躊躇した彼らにグレゴールは怒号を飛ばして、

 

「戦え! 戦わなければ貴様らの一族は皆殺しだ!」

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