わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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危険な敵

 実際に命令権を握っている人間からの脅し。

 隣国の騎士・兵たちの動揺がさらに広がる。そんなことをしたら逆に国が危ないと理屈ではわかっていても、この王ならばやりかねないと誰もが思っただろう。

 

 もちろん、正気の者はこんなことはしない。

 グレゴール当人が気づいているか否かはともかく、魔族に狂わされているのだろう。

 

 そこで、王妹クリステルが意を決したように息を吸い込んだ。

 

「国王グレゴールは乱心した! この男こそ逆賊! 国を乱す悪である! 皆の者、国の将来を憂うのならば奴を討て!」

「っ、ははは! いいぞクリステル、ようやく本心を表したか!」

 

 哄笑。

 グレゴールの左腕が魔力を帯びたかと思うと、すぐにクリステルを襲う。荒事の心得のないクリステルには防げないし、護衛たちも固まったまま。

 代わりに、シルヴィアの張った聖なる障壁が魔力攻撃を弾き返した。

 

「クレール!」

「任せて!」

 

 目にも留まらぬ速さで接近、振り下ろされたアロンダイトが手のひらと衝突。

 

「馬鹿な、素手で……っ!」

「剣を受け止めただと……!?」

 

 放出された魔力がグレゴールの服を吹き飛ばし、左腕が露わになる。肩口近くに繋ぎ目のような線。さらに筋肉、あるいは触手のようなものが伸びて全身を這っている。

 

「醜悪な……。正体を現したわね、グレゴール!」

「この程度で勝ったつもりか!? 俺が何の対策もしていないと思ったか!」

 

 魔力の帯が一斉に近衛に伸び、彼らの身体に突き刺さる。苦悶の声が次々に上がり、身体が音を立てて異形へと変化していく。

 さらに、隣国の王は懐から取り出した二つの水晶球を地面へと叩きつける。

 その間も斬りかかるクレールを左腕でいなしながら、である。

 

「あんた、いまなにしたのっ!?」

「近衛に施した改造を顕在化させた。それから、両翼の兵に持たせた魔道具を起動させてもらった。今頃現場は大慌てだろうよ」

「こいつ、自分の仲間も巻き込むわけ!?」

「仲間!? こいつらは俺の国民だ! 俺が好きなように使って何が悪い!?」

「っ、狂ってるわ……!」

 

 悲鳴を上げ、戦場から離れようとするクリステル。

 雄叫びを上げた近衛──元近衛が、獣のそれと化した腕で殴りかかろうとするも、その腕に鋭く矢が突き立てられる。

 

「クリステル殿下! ひとまずこちらへ!」

「え、ええ!」

「弓隊、異形と化した者の動きを止めてください!」

 

 普段は大人しいイザベルも指揮の訓練を受けた立派な騎士。率先して矢を放ちながら自分の隊の兵、そして他の弓手へと指示を出す。

 

「くくっ。のうシルヴィア、あの男とあの化け物どもは殺ってもよいな?」

「……仕方ないね。ああなっちゃったら浄化しても元には戻らないだろうし」

「よし。ならば、楽しませてもらうとしようかっ!」

 

 地面に小さな穴を開けつつ、竜娘の身体が弾丸と化した。

 振るわれる竜爪。グレゴールは右手を持ち上げると、同じような爪を魔力で形成。プルプルの一撃を受け止めてみせる。竜娘はむしろ笑みを深め、さらなる攻撃を開始。

 その間にシルヴィアへ襲いかかってきた近衛の一人をティーアが素手でぶっ飛ばして、

 

「あーあ。これはけっこうな大物ね。魔力も、その扱いも、全力だった頃のあたしよりずっと上。その上、宿主の身体をぶっ壊す前提で魔道具をいくつも埋め込んでる」

「クレールとプルプルを同時に相手してるのはそういう理屈……!?」

「あれだけ強ければそりゃ自信もあるでしょ。どっちの意識がやってるかはともかくだけど」

 

 魔族による見解を聞く間にシルヴィアも聖光を放って敵を浄化、襲われそうになった非戦闘員を障壁で守って逃げやすくさせる。

 浄化された近衛は絶叫と共に身体をぼろぼろにして崩れていく。相当、無茶な改造を施されたらしい。

 唇を噛む。

 余計な犠牲は出したくないのに。

 

 ラシェルほか『銀百合』の騎士が参戦、人と獣の混ざりあったような異形の近衛たちを抑えていく。少なくとも彼らは助けられない。

 できるのは被害を少なくすることだけ。

 やがてクリステルがシルヴィアのところまで到達。

 

「シルヴィア様、二つの別働隊にいる私の部下に連絡を取ります。その後、私を後方にいる部隊まで連れて行っていただけませんか?」

「指揮を取っていただけるんですね? わかりました」

 

 クリステルが魔道具で連絡を取り、状況を確認。

 どうやら別働隊のほうではたくさんの人形型ゴーレムが起動し、こちらの国を目指し始めたらしい。

 王妹は混乱する別働隊を都に帰還させるよう部下へ指示。不可能ならば一人でも多く逃れるように、と。

 

「お待たせいたしました。……それから、申し訳ありません。本来ならばゴーレムも我々で止めるべきなのですけれど」

「仕方ありません。別働隊全軍で攻められるよりはずっと楽ですし、この場を切り抜けてからなんとかしたいと思います」

 

 シルヴィアは「失礼します」とクリステルを抱き上げると翼を広げた。

 身体能力が上がっているおかげで人ひとりくらいなら余裕で運べる。唯一、射撃が可能そうなグレゴールはクレールたちの相手をしているため、何事もなく隣国側の後方へ。

 

「く、クリステル様! この状況は……!?」

「見ての通りです。逆賊グレゴールは国を私物化し、隣国へと攻め入ろうとしていました。現在『銀百合騎士団』とスザンナ殿下の協力により彼を抑えている最中。我々のすべきことがなにか、わかりますね?」

「そ、それは」

 

 騎士たちからは迷いが伝わってくる。

 当然だ。

 シルヴィアたち『銀百合』のような変わり者集団とは違う、普通の騎士たち。いきなり「王様が悪者だったみたい」と言われて対応できるわけがない。

 遠目とはいえグレゴールの凶行を見ればおおよその想像はつくとはいえ、クリステルが王位簒奪を狙っている可能性もあるわけだし。

 けれど、クリステルはさらに一喝。

 

「このままグレゴール陛下に従い、隣国を攻めて犬死にするか。それとも狂った王を討ち、国をやり直すか! 今すぐにどちらか選びなさい!」

 

 誰だって死にたくはない。

 家族を殺されるのだって嫌に決まっている。その上で、わけのわからないことを言っているほうの王族を討つ機会があるのなら。

 おそらくは騎士団長なのだろう。

 五十歳ほどの男性騎士がこくりと頷き、

 

「聞け! これより我々はクリステル殿下の指揮下に入る! グレゴール国王陛下は乱心し、逆賊となられた! これは必ず討たねばならぬ!」

 

 ほっと息を吐き、クリステルは微笑。

 

「よく決断してくれました。では、皆に指示します。兵を二つに分け、左右の別働隊へ。彼らが混乱しているのならば鎮め、都へ帰還しなさい。彼らが隣国への進軍を企てているのならば被害を最小限に押さえつつ取り押さえなさい」

「はっ! ですが、それではクリステル殿下はどちらに……!?」

「私はここでグレゴール陛下の末路を見届けます。……それが王族としての私の責務でしょう」

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