わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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やばいやつはとことんやばい

 しばらくして、異形と化した近衛──その最後の一人が倒れた。

 数はほぼ同数。

 対多数に優れたラシェルや並外れた射手であるイザベルを含むこちらに負けはない。敵の能力はアンジェが放ち続ける聖光によって抑えられているうえ、誰かが傷ついてもシルヴィアが癒やす。

 結果、こちらは一人も倒れていない。

 

「さあ、後はお前だけだ!」

 

 その間、クレールとプルプルは二人がかりでグレゴールを抑え続けていた。

 丸腰の男がアロンダイトの刃を受け止めている理屈はプルプルの『竜鱗』や『竜爪』と大差ない。莫大な魔力を効率的に運用して戦う力に変えているのだ。

 さらにグレゴールは突発的に魔力の弾を放ってくる。

 クレールは超反応で斬り落とし、プルプルは竜鱗で防いでいるものの、肉薄しすぎると隙を突かれる可能性があった。

 

「はははっ! いいぞ、全員でかかってくるがいい! 何人が死ぬかわかったものではないがな!」

「っ。みんな、手を出さないで! 下手に人数が増えると逆に困る!」

 

 追い詰めたはずなのに、加勢を歓迎したのは敵のグレゴール。逆にクレールは加勢を拒んだ。

 ゲームと違って現実は「囲めば楽になる」とは限らない。

 というかゲームでも生半可なユニットを敵に隣接させたばっかりにそのユニットを失ってしまうことはよくある。

 強敵にはエース級を。

 

「総員、クレールたちから離れなさい! この戦いの邪魔ですわ!」

 

 数名の騎士・兵士と共に王妃スザンナを送り出したエリザベートが戦場に復帰しつつ指示を出す。

 念のために槍を構えつつも首を半分だけ動かしたラシェルが「いいの、エリザベート?」と尋ねる。

 

「ええ。後は少数精鋭で参りますわ。……イズ。リゼット様、アンジェ様。付き合ってくださいます?」

「わかりました」

「もちろん、お供いたします」

「はい。あの方を放っておくわけにはいきません」

 

 ふっと笑ったラシェルは「わかったよ」と頷いて。

 

「一人でも欠けたら承知しないからね。……ボクは個人戦だと不利だし、先にみんなと砦に戻るよ」

「ええ、そうしてくださいな」

 

 エリザベートは通信の魔道具を二つまとめてラシェルに投げ渡すと、クレールのアロンダイトと同等の名剣──オートクレールを持ち上げた。

 

「クレール! さっさとそいつを片付けますわよ!」

「っ、わかった! でも気を付けてよね!? こいつものすごく強いから!」

「誰にものを言っていますの? その程度、最初から織り込み済みですわ!」

「三人がかりか、これは良い!」

 

 味方が撤退していく中、三角形に敵を囲んだクレール、プルプル、エリザベートが見事な連携を見せる。

 さすが、普段から騎士団で一緒の仲だと言うべきか。

 エリザベートも「クレールばかり強くなられては困りますわ」とか言ってたまにプルプルと手合わせをしている。

 敵のときは恐ろしくて仕方のなかった竜娘も、こうなるととても頼もしい。

 さらに、グレゴールが少しでも油断すると三人の隙間から矢が飛来。天使の里でもらったカーボンの矢の余り。天使の力を宿したそれが障壁に阻まれて消滅。

 

「はっ! あまり調子に──!」

「させません!」

 

 周囲に吐き出されそうになった魔力をリゼット、アンジェ、シルヴィアの張った障壁が食い止める。天使の聖光は味方に当たっても素通りできるため、ばんばんグレゴールの魔力を削り取っていく。

 戦場に残ったクリステルにはティーアについてもらった。

 

「……すごい。これならば、いくら魔族と言えど」

「魔族? 違うな。あくまでも今喋っているのはこの俺だぞ、クリステル!」

「グレゴールお兄様。かつてのあなたは乱暴であっても考えなしではありませんでした。あなたは魔族に操られているのです」

 

 凄腕揃い、こちらが多勢とはいえ、一手間違えれば即、誰かが退場しかねない戦いの中、グレゴールは妹と言葉を交わす。

 

「どうしてこのようなことをしでかしたのですか? こんな戦いで命を散らすのがあなたの望みなのですか?」

「違うな。俺の望みはもう十分に叶った。だから、勝つのは俺だ」

 

 ぞくっとする。

 こいつはここから勝つ気でいるのか。……シルヴィアたちとは見ているものが違うとでも言うのか。

 

「俺は王になりたかったんだよ、クリステル。王子として生まれた俺にはすべてがあった。そして、父上にはそれ以上のものがあった。だから俺は王になりたかった」

 

 竜の怪力を叩きつけられても、天使の作り出した剣で斬りつけられても、天使の聖光を浴びせられても、ハーフエルフの魔力矢に襲われても、ただの人間であるはずのグレゴールの魔力が尽きない。

 ティーアは「いくつもの魔道具が埋め込まれている」と言った。

 それによって魔力と身体能力をブーストしているのだ。それどころか、彼の身体は改造によって魔石と同等の性質を帯びている。

 生物としての寿命を著しく失いながら、その全身に圧倒的な量の魔力を内包している。

 

「だから、()()()()()に縛られるのは御免だ!」

 

 グレゴールの眼前に輝く文字が展開される。

 魔法の予備動作──ではない。それはただの『神託』の表示だ。

 神文字の知識が制限されたクリステルに読めたかどうかはわからない。けれどシルヴィアはもちろん、エリザベートやリゼットにもわかっただろう。

 そこにあったのは、

 

『冒険者』

 

 国王ではない。それどころか公爵や商人ですらない。生まれ育った街に住むことすら許されない、旅ぐらしの不安定な職業。

 知っていたのか、それとも今も知らないのか。

 いずれにせよ、グレゴールは不安だったのだろう。多くの王族の中から自分が選ばれる可能性に賭けられるほど愚かでもなかったのだろう。

 そこを、魔族につけ込まれた。

 

「勝つのは俺だ! お前達を皆殺しにして城へ帰る! 逆らう者は皆殺して、隣国も潰す! それで俺の夢が叶う! 俺が世界を手にするんだ!」

「……もういいよ、もう終わらせよう」

 

 クレールの表情が曇る。それとは裏腹に剣の速度は上がっていく。

 戦うためではない。葬るための剣。

 優しい彼女は世界のために、みんなのために、世界の敵を処理しようとしている。

 

「……はい。終わらせてください。せめて兄を、王族として失格であったとしても『人』でいられるうちに」

「はい。終わらせます。終わらせよう、みんな!」

 

 ──戦術スキル『警戒』。

 

 全員の防御能力を引き上げ、グレゴールの猛攻をしのぐ猶予を与えて。地上に降りてきたアンジェと手を繋ぐ。

 二人の空いているほうの手はリゼットの左手と重ねて。

 

「お二人の魔力をわたくしが織り上げます」

「はい。魔力制御はリゼット様のほうがずっと上手ですから」

 

 自身の魔力を総動員し、天使二人ぶんの魔力を制御するリゼット。

 聖なる力がハーフエルフの制御力を持って形を成し、やがて一本の矢に。

 

「イザベル様!」

「わかりました。……この矢は、絶対に外しません」

 

 矢がつがえられた瞬間、エルフと天使の力に、イザベルの構える弓が反応した。

 弓全体、そして弓に彫られた『一弓入魂』の文字が輝いて。

 

「面白い。超えられるか、この俺の魔力を!」

「悪いけど、喰らってもらうよ!」

「あなたは人の世には不要の存在ですわ!」

「なかなか面白い戦いではあったが、生き残るつもりのない者と殺し合っても面白みがない。そろそろ死ぬが良い」

 

 持てる技のすべてを駆使してクレール、エリザベート、プルプルがグレゴールをその場に繋ぎ止める。

 アロンダイトによる『強撃』は竜の鱗さえも割る威力で左の手のひらを砕き。

 オートクレールによる乱舞が障壁を叩いて割り。

 竜爪が右の手のひらを相手の爪ごと切り裂いて。

 

 ──『ラピッドアロー』。

 

 光のような速さで飛び出した矢が、国王グレゴールの心臓を貫いた。

 ぱん、と、弾けるように霧散していく魔力。

 ぼろぼろと崩れていく身体。倒れ伏す身体を支えてやれる者は誰もおらず。

 呆然と、哀れな男の最後に目を向けていると。

 

 くすくすくす。

 

「あーあ。いいところだったのに。ちょっと時間をかけすぎたかあ。でもこんなん予想できるわけないっしょ」

 

 女の声がした。

 唯一、崩れずに残ったグレゴールの左腕。それが離れて人形を成し、

 

「《聖なる光よ》!」

 

 残る力を振り絞ったシルヴィアとアンジェの聖光に吹き飛ばされていく。

 

「ざーんねん。あのさあんたら、これであーしが死んだと思ったら大間違いだから。あーしの本体はまだお城にいるの」

「人間に寄生しているのね。……まったく、いい趣味してるったら」

 

 ティーアが呆れたように呟くも、くすくす笑いは止まらない。

 そこでクリステルが弾かれたように、

 

「待って。あなたは、お前は一体誰に……!」

「決まってるじゃん。十歳から寝たきりになってるあなたの弟──王弟クリストファしかいないっしょ」

 

 さらなる混乱の始まりを魔族自身の口から引き出してしまった。

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