わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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ひとまずの休息

 別働隊から発生した人形ゴーレムは最寄りの砦の兵たちが対処してくれた。

 「砦に向かって歩行、近づいてきた生命体を攻撃する」という程度の命令しか受けていなかったらしく、あらかじめゴーレムとわかっていれば遠距離攻撃で大半を処理できたそうだ。

 

 シルヴィアたちはグレゴールの遺品を回収した後、クリステルを連れて砦に戻った。

 隣国側の非戦闘員を落ち着かせる必要もあったからだ。

 まあ、他国の砦で落ち着けるかというとなかなか難しいだろうけれど、

 

「私たちに攻撃の意思はないわ。……そちらが戦うつもりなら話は別だけれど」

「私もスザンナ殿下と同じ気持ちです。むしろ、我々は皆さまに庇護を受けなければならない立場でしょう」

 

 短い相談の末、クリステルには騎士や兵をすべて砦に呼びつけてもらった。

 

 ──王弟クリストファに魔族が憑いている。

 

 魔族と思しき者の話が事実であれば都に戻るのは危険だからだ。

 下手に戻れば最悪殺される。そうでなくとも戦争の道具にされる可能性がある。

 今は一度態勢を立て直し、情報の整理と意思統一を図る必要があった。

 結果、クリステルの求めに応じたのは約三割だった。

 

 あまりにも状況が急すぎた。

 グレゴールの豹変だけならともかく、都で寝込んでいる王弟までもが危険だと言われてもなかなか信じにくい。

 当然、中には「クリステルこそが悪人ではないか」と考える者もいた。一度クリステル側に合流してしまえば都側から逆賊とみなされる恐れもある。

 それから、兵の中には傭兵や冒険者、農民など正規兵でない者もかなりの数含まれていたこと。

 彼らからしてみたら政治のあれこれはどうでもいい。

 戦いが終わったのなら仕事は終わりだし、グレゴールが死んだ時点で金が支払われる補償もない。拘束されている間の補償はあるのかという話で家や拠点に帰っていったのだ。

 

 結果、砦へやってきたのはグレゴールの悪政を快く思っていなかった層とクリステルの信奉者、それから物資の管理を行う非戦闘員やメイドが中心。

 それでもなんと千を越える大人数である。

 彼らが到着する頃には夕方になっていたので、シルヴィアたちは夜までに受け入れを終わらせるべく尽力することになった。

 

「《コッペパン》《コッペパン》《コッペパン》《唐揚げ》《唐揚げ》《唐揚げ》っ!」

 

 砦に千人全員を入れるのは無理がある。

 余った人員にはテントや寝袋、毛布などを総動員して野宿してもらうことに。

 食べ物も足りないので仕方なくシルヴィアが量産。おにぎりよりはパンのほうが食べやすいだろうとコッペパンにした。水はアンジェに出してもらい飲料や洗濯等に使ってもらう。

 リゼットには明かりの魔法を使ってもらい、模擬剣の先などに灯して即席の照明に。鞘に収めれば見えなくなって寝る時も困らない。

 

「『銀百合騎士団』よ、感謝する。我ら他国の者にここまで手を尽くしてくれるとは」

「非常時ですもの、当然ですわ。わたくしたちの国はまだ戦争をしているわけでもありませんし」

「戦争をしていないか。……そうか、そうだな」

 

 先方の騎士団長は遠い目をしてから頷いた。

 

「最後の一線を踏み越える前に気づけて良かった。……いや、踏み越えてしまったからこそか」

「いずれにせよ、まだ引き返せますわ。犠牲になった方たちのためにも賢明な判断が必要かと」

 

 少ない説明で無理やり連れて来られた隣国の民たちにはクリステルから説明が行われた。

 

「我が兄、国王グレゴールは魔族に操られていました。彼の狂乱は多くの兵も目にしたところです。隣国の騎士たちによって彼は討ち取られましたが、魔族はまだ死んでおりません。

 それどころか、城で伏せっている我が弟クリストファにも取り憑いているようです」

 

 魔族に国が乗っ取られていた。それどころかその状況がさらに続くかもしれない。

 一同に絶望が広がるも、クリステルは気丈に声を上げて、

 

「私に王位を継ぐ意思はありません。残念ながらその器ではないでしょう。……ですが、だからこそ、国を正常な状態に戻したい。せめて安心して新たな王を選べる状態にしたい」

 

 だから、

 

「だから、私は隣国に助けを求めます」

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 スザンナが国王と通信できる魔道具を持ってきていたおかげでこちら側の意思統一を取ることは簡単にできた。

 国王はクリステル以下、彼女に同調した隣国の者すべての受け入れを承諾。

 

「条件は、天使シルヴィアと天使アンジェによる浄化を受け入れることです」

 

 国王の言葉をスザンナが代弁すると、クリステルは「当然でしょう」と頷いた。

 

「私は浄化を受け入れます。私についてきてくれる意思のある者だけ私に続きなさい」

 

 最初にクリステルが浄化を受け、少なくとも身体にはなんの異常もきたさなかったからか。あるいは食事を提供したのが効いたのか、単にこれから帰るのを不安に感じたのか──浄化を拒否した者は誰もいなかった。

 当然、シルヴィアにもアンジェにも悪しき心以外を消し去る気はない。

 終わった時には全員がすっきりとした表情になっていた。

 

 あまりにも人数が多いので都への移動は順次ということに。

 

「女性騎士に関しては『銀百合』で受け入れますわ。クリステル殿下とその周りの方々は城へ。その他の方々にも……まあ、少なくとも壁と屋根は保証いたしますわ」

「若干歯に物の挟まった言い方するね、エリザベート」

「仕方ないでしょう! さすがに千人も寝泊まりする場所はそうそうありませんもの!」

 

 最悪シルヴィアが壁と屋根を作るということで納得(?)してもらった。

 

「クリステル殿下は最初の馬車で都へお連れいたします」

「私は最後で構いません。皆の無事を見届けなくては」

「けれど、陛下と今後について相談していただく必要がありますわ。あなたは少なくとも、彼らの責任者ではあるのですから」

「……そうですね。失礼いたしました。ご指示に従います」

「ありがとうございます。けれどご安心を。皆さまはきちんと丁重にお送りいたしますわ」

 

 ラシェルとクレール、イザベル、ほか何名かの騎士を残してシルヴィアやエリザベート、リゼット、アンジェも帰還することになった。

 隣国との国境付近にある砦はすべて早急にさらなる軍備増強が図られることになる。

 

「……まさか、このようなことになるとは」

 

 馬車に乗り込んだ後、クリステルは重々しい息を吐いた。

 会談が行われた翌日のこと。

 事件の衝撃さえまだ収まりきってはいない。そしておそらく彼女が一番心にダメージを負っているはずだ。

 

「兄の乱心には気づいていました。不用意に事を荒立てれば私にも刃が向くことも。けれど、ここまで国が乱れていたなんて」

 

 同じ馬車に乗ったのはシルヴィアとスザンナ、それから「一番強そうだから」という理由で選ばれたティーア。

 建前上は平民ということになっているメイド姿の魔族(内緒)は「そういうものよ」と淡々と言った。

 

「魔族が人間で遊ぶ時は秘密裏に動くの。いつ誰が気づくか、誰にも気づかれずに事を終えられるか。失敗も含めて遊びなの」

「……まるで見てきたように言うのね」

「経験があるのよ。幸か不幸かね」

「……そう」

 

 目を細め、俯くクリステル。

 しばらくして顔を上げた彼女は「皆さまにはお見せしておいたほうがいいでしょう」と告げ、自らの『神託』を表示した。

 

『外交官』

 

 特使として派遣されてきた件はまさに彼女の本領だったけれど、内政に関しては一番の得意分野ではない。まして、王を敵に回して立ち回るのはあまりにも困難だ。

 

「クリステル様。魔族が取り憑いているという王弟殿下は」

「はい、シルヴィア様。……彼、クリストファは私の双子の弟です」

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